一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。
日本は、いま世界一の長寿国とされています。厚生労働省「令和3年簡易生命表」では、各国の中で女性は世界で最も長寿であり、男性は3位でした。平均寿命(現在0歳の子供が保つと想定される平均的な余命)は女性が87.57歳、男性が81.47歳でした。戦後間もない昭和22年(1947年)には女性が53.96歳、男性が50.66歳でしたから、驚異的な伸びであると言えるでしょう。平均寿命が大幅に伸びた理由として、医療の進歩、生活環境の改善と並んで、食生活の向上による栄養摂取の改善が大きく貢献したと考えられています。食生活の向上については、特に食肉類、乳・乳製品類、油脂類の摂取量の増加が特徴的で、それまで日本人には摂取不足であった動物性蛋白質と脂質の適正な摂取が実現されました。このうち、脂質の摂取については、全体的に増加してきました。近年では、一時的に少子化や過剰摂取の懸念があるとの風潮からか、減少する傾向が見られましたが、ここ数年は植物油脂の健康面での理解も進み、緩やかではありますが、増加傾向となっています。
ここでは、脂質、特に植物油が有する栄養学的な特質や、適正な摂取、植物油が果たす役割などについてご紹介いたしましょう。なお、ここでは、主に「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に基づいて記述を進めてまいります。
植物油は、そのまま栄養素としての脂質でもあるという特徴を持つ食品です。したがって植物油の栄養価値とは、そのまま植物性脂質の栄養価値という言葉に置き換えることができます。このような食品は、砂糖などごく一部しか見当たらないと言ってよいでしょう。
脂質は、たんぱく質、糖質(炭水化物)、ビタミン、ミネラルと並ぶ5大栄養素の一つです。これらの中で、人体にとって主要な熱源(カロリー源)となるのは、糖質、炭水化物及び脂質です。以前には3大栄養素と称したこれら栄養素の特徴や人体内での主なはたらきを表1に示しました。3栄養素のいずれもが人体の活動を支える重要なはたらきをしており、これらを適正に摂取することは健康を維持するうえで重要な課題です。
3栄養成分に共通する特徴は、いずれも重要なエネルギー供給源であることで、中でも脂質は1g当たり9kcalのエネルギー供給源です。このことが、脂質を過剰に摂取した場合にカロリー摂取過多の懸念が生じ、「油を食べると太る」という誤解の根源になっているようです。しかし、エネルギー供給源として効率的であり、少量の摂取で人体の活動力を高めるはたらきがあると考えることもできます。
これからご紹介するエネルギーの供給以外に脂質が有している重要な機能をご理解いただき、糖質、たんぱく質とともに適正な摂取に心掛けていただきたいと願っています。
それでは、エネルギー供給源として脂質の適正な摂取量はどのようになっているのでしょうか。これについては、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において、表2のように指標が示されています。
摂取の目標量は、1日当たり摂取総カロリーに対する比率(E%)で、普通の成人男子では1日当たりの平均的な摂取カロリーが約2000kcalですから、400~600kcalを脂質から摂取するのが望ましいということになります。これを9で割れば、必要な脂質摂取量が概算できます。
目標量という言葉は、絶対にこの数量が必要という意味ではなく、説明欄にありますように生活習慣病を予防するためには、概ねこの程度の脂質を摂取することが好ましいと考えられるので、当面は、この水準の摂取に努めるということを意味しています。「日本人の食事摂取基準」では、脂質の摂取において、70歳以上の脂質の摂取目標量を2005年版で15~20E%、2010年版で20~25E%、2015年版で20~30E%と引き上げ、2020年版においては、「高齢者の低栄養予防」や「フレイル予防」にも重点が置かれ、高齢者については、年齢区分を「65~74歳」、「75歳以上」の2つの区分へ変更するとともに、脂質の摂取カロリーに対する比率も2015年版と同様に、引き続き20~30E%としています。
資料:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
資料:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」