一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。

アロマテラピーに欠かすことのできない植物油

日本は古来より、香りをたしなむ習慣がとても発達したお国柄。今や癒しやリラクセーションを求める女性たちを中心に、「アロマテラピー」という文化は、しっかりと定着した感があります。この香りがもつ天然の作用において植物油は大きな役割を果たしているのです。

聖書にも記される香りの存在

アロマテラピーとは、芳香植物(ハーブ)から抽出したエッセンシャルオイル(精油)を使って芳香成分を身体へ取り入れる自然療法。20世紀の初頭にフランスの化学者が、精油が火傷を治すことを発見し、精油の薬理作用を検証した結果として「アロマテラピー」という言葉が誕生しました。

自然の植物がもつ香りには心身を癒す効果があり、ストレスを感じると患いやすく、自らの力ではコントロールできない「視床下部」と言われる部位の不調を、香りによってリラックスさせることができるのです。

※視床下部は食欲や性欲などの本能行動や、ホルモン調節や自律神経の調節などの中枢

植物の香りが生活に取り入れられた歴史は長く、なかでもヨーロッパでは民間療法として利用され、現在でもフランスやイギリスなどでは代替・補完医療としての地位を確立しています。

また「新約聖書」には香油とイエス・キリストとのかかわりを示す記述が残されており、香油がイエスを癒し、イエスが十字架から降ろされた際にも香油が使われたというエピソードもあります。香油だけではなく、油そのものが神に注ぐ聖なるものとして扱われていたとの説もあります。

精油は原液のまま使わず、植物油(キャリアオイル)で薄めて使用する。キャリアオイルに対する精油の濃度を「希釈濃度」といい、マッサージオイルを作る際の希釈濃度は1パーセント以下が目安になる。

精油、アロマテラピーの根源

アロマテラピーに用いられる精油(エッセンシャルオイル)は、植物の花、葉、果皮、種子などから抽出した天然の素材。数十から数百もの様々な芳香成分を含み、植物の効能が凝縮された物質です。この精油はアロマテラピーの根源と言うべきものです。

精油は「油」という文字が含んでいますが「油脂」ではありません。天然の有機化合物が数十から数百種類集まってできたもので、それぞれの有機化合物の成分には薬理的な作用があります。

精油の原料となる芳香植物は300種以上ありますが、精油として流通するものは約200種に過ぎません。

大量の芳香植物から得られる精油はほんのわずかで、例えば1000kgの植物から真正ラベンダーでは10~30kg、ローズでは100~300gほどしか採取することができない大変に貴重なものです。

精油は植物体に含まれる成分ですから、その産地や生育過程での自然環境の相異により毎年香りが微妙に異なり、その構成成分も変化します。

たとえば同じ品種の香草であっても、オーストラリアとフランスでは採れる精油の香りは異なるというほどデリケートなものです。

精油の香りはハーブ系、柑橘系、フローラル系など7つの系統に分類することができ、ごく少量でも強く香るものから、ほのかに香るものまで強弱があります。

2種類以上をブレンドして使うことによって癒し効果が高まり、オリジナルなお好みの香りを発見する楽しみも生まれていきます。

和傘は、100を超える工程を、十数人の職人の手仕事で作られます。岐阜和傘はこの分業制によって大量生産が可能になりました

世界一のラベンダー畑があるオーストラリア南東のタスマニア島の農園で栽培される精油用のラベンダー。この農場では収穫の異なる複数の品種を栽培し、生産を増やし、病害虫の被害リスクにも対応している。(※写真下は、ラベンダーから抽出された精油)

和傘は、100を超える工程を、十数人の職人の手仕事で作られます。岐阜和傘はこの分業制によって大量生産が可能になりました

植物油と精油の親和性

精油は濃縮された物質で、非常に高価なものです。またそのまま利用することが難しい物質ですが、アルコールや油脂に溶けやすい脂溶性である性質を活用することによって利用の範囲が広がります。

精油を溶かし、希釈する植物油を“キャリアオイル”と呼びます。キャリアとは「運ぶもの」ですから「精油成分を身体に運ぶもの」という意味からこのように呼ばれています。この精油を溶けこませた油がアロマテラピーに利用される「香油」(アロマオイル。フレグランスオイルとも言う)で、油性の整髪料や化粧品の香りも、香りのエッセンスが脂溶性であることを活用したものです。

またアルコール類に精油を溶けこませ、室内の芳香剤にも利用されます。

女性の美容に人気のあるオイル・マッサージは香油を活用します。香油でマッサージを行うと、鼻からかぐ香りに包まれ、皮膚を通して成分を吸収することで深い癒しやリラクセーション効果を得られるのです。

しかしすべての植物油が香油に用いられるわけではありません。刺激性が少なく、伸展性に富み、油自体にも風雅な香りのあるものが利用されています。日本では、古くから椿(つばき)油が整髪料や肌の保全のための化粧品として用いられてきました。椿油は我が国のアロマテラピー用のオイルの草分け的存在と言ってもよいでしょう。

香油に広く利用されている植物油には、食用としてもおなじみのオリーブオイルがあります。オリーブオイルは古くから化粧品のように用いられており、筋肉をほぐして痛みを緩和する作用や乾燥など肌トラブルの改善にも効果があることが知られています。

このほかアボカドの果肉を絞って採取されるアボカドオイルも、肌に栄養を与えて保湿し、皮膚の弾力を回復させてしわを予防するのに有効であることが知られています。また最近ではモロッコ産のアルガンオイルが保湿作用、抗炎症作用、血行促進作用の高い植物油として注目されています。

つまり植物油自体が有する効果、マッサージによる筋肉などをほぐす効果、精油の香りが有する癒しの効果をミックスし、リラクセーション効果をより高めるのがオイル・マッサージによるアロマテラピーと言えるでしょう。

※日本では薬事的に肌につけるものは化粧品の範疇に入るため、アロマテラピーにおける植物油は化粧品扱いとなり、食用の植物油とは全くカテゴリーが異なります。

● 取材協力「生活の木」
https://www.treeoflife.co.jp/

お話を伺った”生活の木”の佐々木さん。