一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。
食に経験や造詣が深い著名人、食に係わるプロフェッショナル、植物油業界関係者などの方々に、自らの経験や体験をベースに、
食事、食材、健康、栄養、そして植物油にまつわるさまざまな思い出や持論を自由に語っていただきます。
その後も油脂業界には大きな変動がありました。以前は危険物取締法により、油脂を扱うには免許が必要でした。しかし昭和40年代に「油脂は危険物ではない」という運動が起こって免許が不要になると、食料品店がみな油を扱うようになり、油問屋の商売が減ってしまったのです。それでもカネダが変わらず商売を続けることができたのは元々いいお得意様がついていてくださったから。いいお得意様と仕事をすること、正しい商売をすることが私たち代々の信念であり、それが会社を守ってくれたのです。
そのためには、品物をおすすめしたお客様には絶対に損をさせず、一度取引をしたら、いざという時はどんなことでも何とかするよう努力してきました。取引先のある水産会社の女川工場で急きょ必要になった商品を2缶、汽車で急ぎ届けたこともあります。また別の水産会社の船で、動力である燃料油に飲料水を注入してしまい、船が出航する事ができないという騒ぎになったこともありました。その時は社員全員で駆けつけ、パンツ1枚になってきれいにし、無事予定どおりの出航を見送ったこともあります。その会社から今でも「あの時はお世話になった」と言っていただくのは本当に嬉しいかぎりです。
そのような仕事を通じて私が得たのは「産業エネルギーは石油、人間生命のエネルギーは植物油なり」という思いです。油は必須脂肪酸が含まれており、必ず摂らなければならない栄養です。「油は太る」と誤解されがちですが、太るのは食べ過ぎが原因です。それと、コレステロールを正常に維持するためには動物脂肪に気を付けねばなりません。ラードを使って揚げたトンカツをおなか一杯食べて、健康を保とうというのはどだい無理な話です。動物脂肪の摂りすぎをなるべく避け、植物油7:動物油2:魚油1という油脂の摂り方が私には一番理想的です。また発育ざかりの子供ならどんな油を摂ってもいいのですが、たとえば体の弱い人なら消化のいい油を、中年層には体に脂肪がつきにくい機能性オイルをといった具合に、それぞれ自分に合った油を摂ることも必要。油脂業界ではそうした油に関する知識をもっとPRしていくべきでしょう。
禅宗のお坊さんは昔でも80~90歳まで生きたものですが、それは「こ」のつく食べ物を摂っていたからだといわれます。たとえば大根、こんにゃく、昆布、ごぼう…。それと同じで、油脂の中でも、ごま油、米油、コーンシードオイル、コットンオイルなど「こ」のつく油をはじめとして、植物油は特に体にいいものです。
私は92歳になる今も、5歳の時にはしかにかかった以外は寝ついたことはありません。これも植物油を毎日摂るようにしているからでしょう。天ぷらなどの揚げ物は毎日のように食べていますが、太ったこともありません。私の家庭のキッチンにはごま油、オリーブオイル、綿実油など必ず3~4種類の植物油を常備。仕事柄、油を使うのはさすがに上手なので(笑)、天ぷら、トンカツなどは自分で揚げますよ。
私がおすすめしたいのは油を調味料の一つと考えること。どんな料理にも油を少し使うと、何でもおいしくなるんです。私は野菜も生ではなく、なるべく植物油で炒めて食べるようにしています。また、きんぴらごぼうもごま油を使うととてもおいしく仕上がるし、肉も焼く30分前に大豆油やオリーブオイルなどの植物油をかけておくと味がよくなり、肉質も柔らかくなるんです。
植物油以外の私の健康法といえば食事を1日1600kcalに調整することと、1日1万歩歩くこと。そして何ごともいい方へとらえて、くよくよしないことです。これからも健康と前向きな気持ちを心がけ、油脂業界の繁栄を見守っていきたいと思います。
金田 勝次(かねだ かつじ)
カネダ株式会社取締役相談役
大正3年、東京・浅草橋に生まれる。
昭和6年、保善商業学校(現・安田学園)卒業、升由油店(現・カネダ株式会社)を継ぐ
以後、全国油脂販売業者連合会会長、全国中小企業団体総連合常任理事、全国卸商団体連合会理事などを歴任。
カネダ会長を経て、現在は取締役相談役。藍綬褒章、勲四等瑞宝章、食品産業功労賞などを受章。