一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。
食に経験や造詣が深い著名人、食に係わるプロフェッショナル、植物油業界関係者などの方々に、自らの経験や体験をベースに、
食事、食材、健康、栄養、そして植物油にまつわるさまざまな思い出や持論を自由に語っていただきます。
人一倍好奇心が旺盛で、まわりの大人に質問を浴びせ困らせていた私は、子どもの頃からずっと医者になれと言われ反発してきました。その反発心に火が点いたのは、高校2年の時。つかこうへいさんの舞台を見て深く感銘を受け、演劇の道を志すことを決意しました。どんなところへでも足を運んで、自分の目で見て、実際に体験したいと思う・・・。こうした性格が、自然に私を役者という職業へと導いていったのかも知れません。
役を演じきる一方で、どんな分野であれ興味のあることは体験するだけではなく人に語れる位まで理解したいという思いから、囲碁、和太鼓、俳句、ワイン、乗馬など、数多くの趣味を身につけてきました。どうすればうまくなるのか、どのくらいの犠牲を払えばどのくらいの成果が出せるのか・・・。自分で体感しなければ、納得はできません。好奇心や探究心をもって興味の裾野を広げていくことは、人生を豊かにしてくれると考えています。
最近はとくに環境や農業、資源の問題に関心があります。関心を持つだけで、いろんな情報が飛び込んでくるから不思議です。仕事柄、地方へ行くことが多いし、ワインに関わる仕事で産地にもよく行きます。じつは日本のワインってすごく美味しくなっているんですが、ワインに限らず、美味しいものに出会うとその産地へ行って、生産者のお話を聞きたくなるんです。好きなもの、興味があるものに迫っていくうちに、気がつけば、農業や資源の問題の本質が見えてくる。学ぶつもりでなくとも、物事が自然につながっていくんです。ひとりで大きな地図を広げて、どこへ行こうとか、何をしようとかのシナリオを考える。たまにはネットも使いますが、情報収集の基本は“人脈”。とくに食に関しては、日本でも海外でも、地元のことは地元の人に聞くのが一番。造り酒屋やワイナリーのご当主などは、ガイドブックに載らないような美味しい食材やお店を熟知しているんですよ。そんな人に電話をしたり、会いに行ったりすることでつながる交流を、とても大切にしています。
私のモットーのひとつに「既成の概念にとらわれない」があります。今までにないものを作りたい、自分にしかできない事を行なっていきたい・・・。あえて固定観念を捨て実際に体験しないと、物事の本質はなかなかつかめません。たとえ時間がかかっても、こうした考え方や信念が、役者としての幅を広げていくことにつながっていくのではないかと思います。
現在オンエアーしているBSのふたつの番組(※『辰巳琢郎のワイン番組』と『辰巳琢郎の家物語~リモデル☆きらり~』)では、企画から取材、そしてVTRやナレーション原稿のチェックまで行ない、その合間にドラマの収録や舞台の稽古が入ってきますから、とにかく時間がありません。どなたか時間の上手な使い方を私に伝授いただけないでしょうか?・・・(笑)。そもそも忙しく動いていないと気がすまない性分とはいえ、何より家族と過ごす時間だけは大切にしたいですね。
これまでは、移動時間に趣味の本を読んだりしていましたが、最近は、去年から始めた『道草日記』というブログの原稿を携帯で書いてアップしたり、仕事の下調べや睡眠に当てることが増えました。じつは「道草」というのは私の俳号でもあるのですが、「道草」という言葉には、閉塞感に包まれ市場原理で凝り固まった現代においては、その固い扉をぶち破るには「道草」が必要なのでは?・・・。こんなご時勢だからこそ、あえて回り道をして空や木々を眺めてみては?・・・。という問いかけが込められています。何をやっても自分の糧になるし、一生懸命であれば必ずや真実にたどり着く・・・。ふとした瞬間に思い出して、役に立つことって多いと思いませんか? 道を知っていることと、実際に歩くことは違いますからね。自分で目標設定をして、その目標に向かって努力をするという経験を通過する、そこに価値があると思うんです。
たとえば家のリフォームひとつでも(※我々はリフォームではなく、新しいライフスタイルを楽しむ、人生そのものを作り変えていくという意味から「リモデル」と呼んでいます)、デザイン力というか、考える力(アイディアやひらめき)が価値の源ですよね。こういう時に、ふだんどれだけ「道草」をしているかが鍵となるわけです。今取材を受けているこのサロンも、「道草」を重ねていく行程から生まれたと言えるのかも知れません。決して私だけの隠れ家的なスペースにするつもりはなく、小さなコンサートができるようにして、娘(※ソプラノ歌手の辰巳真理恵さん)をはじめとする若いアーティストに自由に使ってもらおうと思っています。というのも、大学時代に劇団を主宰していて、練習場所や会場探しに苦労した経験があるから・・・。若い人を育てるというとおこがましいのですが、エールを送る、応援する場所にしたいんです。ここから新しいつながりができることで、さらに興味の世界も広がっていくのではないかと期待しています。
いずれにしましても、俳優としての役柄との出会いは、不思議な縁で向こうからやってくるもの。そうした時、いつでもどこにでも踏み出せるように、ニュートラルなポジションを保つことを意識しながら歩んでいきたいと考えています。
学生時代は地酒のブームでした。日本のワインも普通に一升瓶で出回っていた時代で、劇団の打ち上げでは、稽古場でよく飲んでいましたね。ワインのほかに、日本酒、ビール、焼酎、ウィスキー、カクテルと色々なものを嗜みますし、ちゃんぽんもしますよ。そもそも僕は、ワインを特別なお酒だと思ったことがないんです。気楽に楽しんでこそワインは美味しい。まず日本のワインを知ってから、海外のワインにトライしても決して遅くはない。皆さんも国産ワインをもっともっと飲んで、日本のワインを支えて欲しいと思います。今盛んに言われているフードマイレージの視点からも、海外のワインを買うよりも日本のワインを買うほうが、ずっと環境にやさしいわけですから。
外食するときは、有機栽培野菜や露地物など食材にこだわった店に入るなど、できるだけ自然のいい環境の中で育ったものを選んで食べるようにしています。人間は自然の一部に過ぎない、そういう意識を常に持っていたいんです。露地物はハウス物に比べて栄養価も高いそうですし、何よりも美味しさが違います。でも、有機栽培野菜は値段が高くなり、手に入りにくいのが現状。さまざまな生産者と消費者が協力して、国産の優れた食材がもっと作られるようになればと願っています。何より、食に対して強い興味や好奇心を持ち続けている人は、生き方そのものにも前向きな姿勢が感じられるもの。人間の身体は100%食べ物でできている訳ですから、日本人も食に対する関心をもっと高めていく必要があるでしょう。
最近は年齢のせいか、肉の量が減って野菜の量が増えてきました。植物油では、とくにパンプキンシードオイルが好きですね。魚のテリーヌや卵料理、ポタージュの飾り、バルサミコやワインビネガーともよく合いますし、アイスクリームなど甘いものにもよく合います。うま味を強く感じるのは、突き詰めれば「糖分」と「油分」ではないかと私は考えています。
基本的にはご飯党なので、真っ白なご飯に、お漬物や塩コンブとかを組み合わせることが多く、フランス料理を食べてもイタリアン食べても最後にはご飯に落ち着いているのですが、パンとオリーブオイルの組み合わせを楽しんでいる瞬間だけは、パンという存在の素晴らしさを再認識しますね。
いずれにしても、植物油には人の身体に不可欠な成分が多く含まれていますから、もっと大切に使うことで価値が上がっていくのではと考えています。いいレストランはお皿に油が残らないですし、植物油を上手に使っている料理人にはポリシーを感じます。植物油に限らず、何にしても使い過ぎは良くない・・・。私は国際連合世界食糧計画WFP協会の顧問にも名を連ねていますが、飢餓で6秒にひとりとの割合で子どもたちが世界中で亡くなっているという現実からも、決して目をそらしてはいけないと思うんです。子どもの飢餓は身体的・知的な発達の遅れにつながり、ひいては、その子どもが住む国の経済に大きな損失をもたらすことにつながっていきますから。
※取材・撮影場所:東京・成城「Marie's Salon」(マリーズサロン)
※辰巳さんのお名前の「琢」の字は本来は文字右側に点が入りますが、本文中ではパソコンの表示上「琢」の字を使用しております。予めご了承ください。
辰巳 琢郎
大阪市出身。
京都大学在学中、関西一の人気劇団『そとばこまち』を主宰し、役者としてだけでなく、プロデューサー、演出家として学生演劇ブームの立役者となる。
卒業と同時にNHK朝のテレビ小説『ロマンス』で全国区デビュー。
以来、知性・品格・遊び心と三拍子揃った俳優として、テレビ、舞台、映画だけでなく、クラシックコンサートの司会、海外旅行のプロデュースなど様々なジャンルで活躍。
執筆活動も精力的にこなし、好評である。
食通・ワイン通としても知られ、数々のワイン騎士団の騎士号を贈られている。
自身が企画した『辰巳琢郎のワイン番組』(BSフジ)、『辰巳琢郎の家物語~リモデル☆きらり~』(BS朝日)が好評放映中。
著書には『道草のすすめ』、『辰巳ワイナリー』などがある。
来春には、全労済ホール/スペース・ゼロにて『サイモン・ヘンチの予期せぬ一日』に主演する。
☆「サイモン・ヘンチの予期せぬ一日」
※ロンドンでの1975年初演時1000回を超える大ヒットを記録したウェルメイド・コメディで、待望の日本初演。
◇日時:2011年1月27日(木)~2月4日(金) 全12ステージ
◇場所:全労済ホール/スペース・ゼロ
◇お問い合わせ:090‐9300‐2062(古川オフィス)