一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。

植物油サロン

食に経験や造詣が深い著名人、食に係わるプロフェッショナル、植物油業界関係者などの方々に、自らの経験や体験をベースに、
食事、食材、健康、栄養、そして植物油にまつわるさまざまな思い出や持論を自由に語っていただきます。

第16回 食を通じて朝鮮文化を日本へ 朝鮮料理家 ジョン・キョンファさん

野菜をおいしく食べることができる「コリアン・テーブル」

朝鮮料理家 ジョン・キョンファさん

私はモランボン流宗家の父から朝鮮半島の食文化の豊かさを教わり、料理上手の祖母と母からは味覚と料理の腕を鍛えられて育ってきました。両親が食べることが大好きでしたので、幼い頃からフランス料理など様々なジャンルの飲食店に連れていってもらいました。

とにかく私も食べることが大好きで、あだ名は“食いしん坊”。綺麗な洋服を着て、テーブルにセットされた銀のナイフとフォークをマナー通りに使う食事の緊張感を、今でも良く思い出されます。

何も残さずに食べると両親が褒めてくれたので、出される料理はすべて食べてしまう私に、よくお店の人たちが「フランス人並みによく食べるね!」なんて声をかけてくれましたものです(笑)。

焼肉が食の代表格のように思われがちですが、韓国では焼肉を楽しむテーブルに野菜がいっぱい並びます。毎日、肉や魚のおかずをたくさん食べますが、それ以上に野菜を食べるんです。

ナムルなど火を通したものが多いので、生野菜に換算したらかなりの量になるでしょう。ナムルが無い日でも必ずキムチがあります。日本では白菜キムチの印象が強いと思いますが、ナムルと同様にキムチも野菜の数だけ種類があり、白菜が出回る冬だけのものではないのです。

旬野菜だけでなく、ずいき、ぜんまい、わらび、とらじ(ききょうの根)、つるにんじんなど、ストックしておける干し野菜も“常備菜”として大活躍する素材です。 緑、黄色、赤、淡色といった色とりどりの野菜、これに豆類やいも類も含めた野菜たち。「五味五色」・・・ひとつの食卓に五つの色があれば、身体に良いごはんになるという教えがありますが、これらの野菜をオンマ(※韓国語でお母さん)たちは上手に料理して家族に食べさせているのです。ですから、普通にごはんを食べていたらまず野菜不足ということは無いんです。

代表的な家庭料理であるチャプチェにしても、家庭によって入れる材料も違うし、その日の冷蔵庫の中身によっても変わります。いろんな野菜を入れられるから楽しいんです。素材の組み合わせの妙を楽しめる食でありながら、レシピは簡単でパパッと作れて、なにしろバラエティーに富んでいる・・・。それでいて栄養的にもかなっているんですから、韓国・朝鮮料理はもっと日本の食卓に登場するべきではないでしょうか?(笑)

「コリアン・テーブル」に欠かせない「ごま油」

そんな朝鮮・韓国料理に欠かせない調味料と言えば、ごま油。にんにく、唐辛子と並ぶ、コリアンの三大調味料のひとつです。たとえば「キムチときのこの炊き込みごはん」は、ごま油でお米を炒めてから炊くので、香り豊かでやさしい味になります。

おにぎりひとつでも、ごま油と塩を使って手の平でまんべんなく塗り広げてからにぎると、香りのよい感動の味に変化します。韓国の女優さんたちの肌がキレイなのは、ごま油を使用した料理が多く、ふんだんに潤いを吸収しているからだと私は感じています。

朝鮮半島の人々は、香りの強いものが好きという国民性もあるのかも知れません。ごま油はごはんものに使ったり、炒めものや煮ものにも欠かせない調味料であり、香ばしさとまろみのある風味は「コリアン・テーブル」の醍醐味。コレステロール値を下げる働きのある不飽和脂肪酸が主成分のヘルシーな油も人気がありますよね。

そして豊富な野菜料理、ワカメや海藻、豆腐や豆類、新鮮な魚介類、焼肉・・・。これらすべては各種の薬味や香辛料をブレンドした“ヤンニョム”により、一段と深い味わいを醸し出します。ヤンニョムとは、にんにく、唐辛子、しょうが、長ねぎ、ごま、ごま油などの総称。キムチのヤンニョムにも決まったひとつのレシピがある訳ではなく、家々によって使う材料や配合はずいぶん異なり、それぞれの家庭のこだわりの味を生み出します。

混ぜる材料や配合を目的に応じて変化させ、素材の持ち味を最大限に引き出す、それがヤンニョムの力であり「コリアン・テーブル」の奥行きの深さだと思います。どれをとっても健康に役立つ素材ばかり・・・。そこにオンマの愛情が加わり、毎日食べても飽きない味覚が生まれるのです。

個食の時代と言われ、家族全員が同じ釜のご飯を食べる機会は減っているかも知れませんが、おいしくみんなで食べるってとても気分がいいですよね。「コリアン・テーブル」には家族みんなを元気にする力があると信じています。

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夢は朝鮮半島を縦断するグルメツアー

私の料理教室には、福岡や名古屋など全国各地はもちろん、海外からの参加者もいて、おいしい料理と笑いでスタジオ中が賑わっています。参加者は10代から80代まで年代も様々で、基礎から学びたいなど目的に合わせて体系的に学べるコース、好きな日程・メニューを選べるコース、手作りの韓国料理コースを優雅に味わうコリアンサロンなどさまざまなタイプがあります。毎年「手づくりキムチ合宿」も開いていて、とっても盛況なんですよ。

かつて父の調理師専門学校を手伝っている時は大人数を相手にしていましたが、個々の生徒さんたちに親切・丁寧の教えることができるように、あえて、1クラス15人程度に絞って運営しています。生徒さんたちの個々の表情を見ながら共感できると料理家として満足感が高いですし、相互のコミュニケーションが深まって、一方通行ではなくなります。

講演会に招かれることも多いんですが、大勢の方々に一方的に話すことってあまり好きではないんです。コンパクトな教室であるからこそ、生徒さんたちからパワーをもらえる。結婚してから入門された方の中には、おいしい韓国料理がテーブルに登場することで、夫婦の仲が良くなったと言われ、非常に嬉しい思いをしました。

食に法律はありませんから、チヂミにチーズを入れるなど本場でも様々なアレンジメニューが登場し始めていますが、やはり基本が大切。基本を知らないと根無し草になってしまいますから、これからも朝鮮・韓国料理を基礎から体系的に教えていきたいと考えています。

最近は料理だけではなく朝鮮半島の文化にも興味を持つ方が増えてきたのが嬉しいですね。たとえば、韓国では目上の方と乾杯したときグラスは必ず両手を添えるとか、飲むときも少し横をむいて目を合わさないようにするとか、あずき粥を冬至の日に食すのは、鬼が嫌って無病息災につながっていくからとか・・・。料理教室では単にレシピの話に終始するのではなく、朝鮮半島の文化に触れていただけるように心がけています。

昔は韓国料理と言うと「辛いもの」というイメージでしたが、今は美容にいい、ヘルシーなイメージも定着し始めてきたのは嬉しいことです。

朝鮮半島には様々な歴史がありますが、食を通じて「コリアンの心」を紹介するという、素晴らしい使命を与えられていると感じています。これからの夢は、私がガイド役で朝鮮半島を縦断するグルメツアーを実施すること。

朝鮮半島はおいしいものの宝庫ですから、日本の方々に南北を自由に行き来しながら各地の料理を味わってほしいと願っています。

プロフィール ジョンキョンファ

ジョン キョンファ(全 京華)

朝鮮料理家 調理師・栄養士 朝鮮料理モランボン流師範
K0REAN COOKING ジョン・キョンファスタジオ主宰

日本でも手に入りやすい食材や調味料を使った本格的な朝鮮・韓国料理にファンが多い。

つくりやすいレシピと確実な味に定評があり、
NHK「きょうの料理」をはじめテレビ、新聞、雑誌などのマスコミ、料理教室、講演会などを通じて朝鮮・韓国料理の普及に努める。

父は焼肉のたれなどで知られるブランド「モランボン」を育てた企業家。 食を通じて朝鮮半島の食文化を伝える父の意思を継いでいる。
大人気を博した韓流ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」の日本語版料理監修も手がけた

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