一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。

練の技に学ぶ、植物油の生かし方 職人の知恵袋

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「植物油っていろいろあるけれど、使い方がもう一つ分からなくって・・・。」
「あのお店の天ぷらは美味しいけど、家庭であの味を出すのは無理よね・・・。」
「油をもっと上手に使うコツってあるのかしら・・・。」どなたでも、こんな疑問をお持ちではないでしょうか?
確かに、油の使い方は調理方法や素材によって千差万別。お料理の本でも丁寧に解説しているものは少ないように思います。
このコーナーでは、「和・洋・中」の料理の達人に「植物油の上手な使い方、生かし方」をお聞きし、皆様の疑問やお悩みにお答えいたします。
食通をうならせる熟練の技を持つ達人たちの「逸品」。その隠された創意工夫の一端を知るだけで、いつもの料理が得意料理に変身するかもしれません。
そして、変身したお味にご家族のみなさんも大満足!さあ!達人の知恵を知り、四季を通じて「植物油を生かした美味しい料理」をお楽しみ下さい。

第九回 下町の華やかで独創的なイタリアン
サラダは植物油を“和える”感覚で活用
「イタリア料理  イル セレーノ」料理長 堀浩一(ほりこういち) さん

扉の向こうに広がるのは、和み感に満ちた寛ぎのイタリアン。 ランチではパスタメニューを中心に、毎日でも食べられる飽きのこない味わいを提供。ディナーでは上質な肉・魚介・野菜を生かして、グレードアップされた本格的なレシピがテーブルを彩ります。

「すべての皆様にご満足いただけるよう、お客様のお好みや体調、お腹の空き具合を必ずオーダーの際にヒアリングし、押し付けにならない、お望みに近いものをサービスするようにしています。その日の仕入れ状況に応じて、美味しくて健康的なコースをアレンジしているんです」

と語っていただいたのは料理長の堀さん。ここ浅草の『イルセレーノ』では、土地柄に溶けこんだ気取りのないお料理とおもてなしで、美酒佳肴のひとときをお楽しむことができます。

福岡の契約農家から直送されたハーブの入った「海の幸のマリネのサラダ」。

まず始めにご提供いただいたのは『各種ハーブをあしらった、海の幸のマリネのサラダ』。エビやホタテやヤリイカの魚介類とミントなどのハーブ類が混在することで、玉手箱のように様々な味覚を堪能することができる前菜。その華やかな味わいの決め手は、香り立つオリーブオイルです。

「特に魚介類を入れたサラダには、あまり重くならない、軽やかな味わいのオリーブオイルを合わせると良いでしょう。私がよく取り入れているのは、オリーブオイルをドレッシングに入れてサラダの上からかけるのではなく、ビネガーや塩と一緒に混ぜながらサラダの中で和えるという手法。これなら葉類を傷めることなく味が均等に行き渡りますし、何よりオリーブオイルの香りを一段と新鮮に感じることができると思います」

と堀シェフ。それではオリーブオイルの選び方には何かポイントがあるのでしょうか?

海の幸のマリネのサラダ

「オリーブオイルって、ワインと同じで好みがありますから、味わって頂かなければわからないんですよね。マッタリする、サラサラする、ピリッとする・・・。私が心がけているのは、毎日でも食べられる、胃もたれしないイタリアンですから、あまり重くない軽やかな味わいのものを選ぶようにしています。そもそも本来のイタリアンは、生ハムやチーズなどヘルシーで自然の素材を生かした手作りのものですしね。そこに組み合わせる植物油もあまり重いタイプのものは避けた方が良いと考えています」

ズッキーニなど、季節の野菜を美味しく揚げる
浅草で本格イタリアンを味わうことができる『イル セレーノ』。

『イル セレーノ』では、常連の方々が食したデータをきめ細かに蓄積することで、同じメニューを二度と提供しないのがポリシー。前菜からメインまで、とにかく見栄えが美しいのも評判で、続いてご提供いただいた『花ズッキーニのフリット 生ハム添え』も、そんな一品。生クリームで伸ばしたリコッタチーズとアップルミントを破けないように花の中へ詰め込んで、オリーブオイルでフライにしています。

「中温(※170℃~180℃が目安)でパリッと揚げると、サッパリと食すことができます。通常の天ぷらよりも色をつける感覚で、冷たいビールにつけてから揚げると、衣はしっかりパリッと、中はふんわりと仕上げることができますよ。ビールがしっかり冷えていないと、パリッと揚がらないので注意してください」

初夏が旬の花ズッキーニを使ったフリットはシンプルで彩り爽やかな一品。

ズッキーニは、グリルにして良し、パスタの具材にして良しのイタリアンには欠かせない野菜とのこと。初夏に黒に近いぐらいの濃い緑色のズッキーニが店頭に並ぶとワクワクされる方も多いのではないでしょうか。

「火を入れるとトロッとするズッキーニのフリットは、本場イタリアでも頻繁に食べられている料理で、実だけでなく花のフリットも有名です。良質なオリーブオイルで揚げると、サクッ、フワッ、ジュワッとした食感が楽しめます。隠し味にアンチョビを使っても良いのですが、サッパリと召し上がるならレモン風味をおすすめしますね」

口に入れると溢れ出るチーズは、えも言われぬ美味しさ。そこはかとなく甘い味覚は、前菜としてだけではなく、ワインのおつまみやサイドディッシュとしても最適です。

「私の料理は、全体的に野菜をたっぷり使ったメニューが多いですが、ウサギ肉のコンフィや、馬肉のカルパッチョなども、そのときに合わせる食材に応じて調理しています。お客様にはいつも何がでてくるのか楽しみに訪れていただきたいですから」

イタリアンでも植物油を生かしきる
仕上げにオリーブオイルが使われている静岡・浜名湖産の生青のりが練り込まれたタリオリーニ。

お客様の誕生日には、デザートに「バースデー・プレート」を出して、写真を撮ってくれるサービスを提供しているという『イルセレーノ』。価格も手頃で、子ども・老人でも食べやすい味付けのイタリアンは、浅草近隣の方々にとって、とても貴重な存在であることは想像に難くありません。最後にメインディッシュとしてご提供いただいたのは『生青のりを練りこんだタリオリーニ 桜エビとスイスチャードのソース』。浜名湖産の青のりで緑色の手打ちパスタに、桜エビの赤色、シャキシャキの西洋野菜であるスイスチャード(※不断草)の光沢のある濃緑色という色彩のハーモニーが食欲をそそります。

「生の桜エビを最後に和えて、仕上げにオリーブオイルを加えます。通常は火をかけたままでオリーブオイルを入れることが多いと思いますが、私の場合は炒める段階でのオイルの量は控えめにしておいて、火を止める寸前の余熱の時にオリーブオイルをかけるようにしています。こうするとオリーブオイルの香りがフワッと拡がりやすくなるんですよ」

堀シェフの植物油の生かし方は、パスタ以外のイタリアンへも存分に生かされているようです。その一端を伺ってみることにしました。

落ち着いた雰囲気の店内は休日のランチ時には満席となる。

「例えばリゾットでもお好みのお米の固さってあると思うんですが、私はお米とオリーブオイルを絡めながら炒めるようにしています。こうするとお米がオリーブオイルでコーティングされた状態になって、まろやかな、柔らかい食感に仕上がります。どうしてもイタリアンはオリーブオイルが主役になってしまいますが、パテなどの淡白なお肉類に合わせるなら、クルミオイルがおすすめ。クルミとお肉の相性は抜群ですから、淡白であっさりした味わいのお肉も、独特の風味を備えたクルミオイルを使えば味をしっかりと閉じ込めることができます」

またイタリアンの風味づけにも使われるハーブ類は、オイルに浸けてハーブオイルにしておくと、欲しいときにすぐに使えるので便利とのこと。パンにつけたり、お肉や魚、野菜を焼く時にも活用でき、ドレッシングの材料にもなり得る優れものです。

 「『イル セレーノ』とは、イタリア語で『澄み切った心』という意味なんです。これからも澄み切った心境で真摯にイタリアンに取り組んでいきたいですね」

「イタリア料理  イル セレーノ」料理長 堀浩一(ほりこういち) さん プロフィール 「イタリア料理  イル セレーノ」料理長 堀浩一(ほりこういち)

1980年静岡県生まれ。
幼稚園の頃に料理家を夢見て、小学生で早くもイタリアンを職とすることを決意する。
19歳で上京して料理の専門学校を卒業後、料理の幅を広げることを狙いとして、東京・成城学園前のフランス料理「オーベルジュ・ド・スズキ」など数店舗で7年ほど修行し、2006年の「イル セレーノ」オープンに参画。
浅草寺からほど近い一角で、独創的なイタリアンを介して下町ならではのフレンドリーなおもてなしを実践している。