一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。
「植物油っていろいろあるけれど、使い方がもう一つ分からなくって・・・。」
「あのお店の天ぷらは美味しいけど、家庭であの味を出すのは無理よね・・・。」
「油をもっと上手に使うコツってあるのかしら・・・。」どなたでも、こんな疑問をお持ちではないでしょうか?
確かに、油の使い方は調理方法や素材によって千差万別。お料理の本でも丁寧に解説しているものは少ないように思います。
このコーナーでは、「和・洋・中」の料理の達人に「植物油の上手な使い方、生かし方」をお聞きし、皆様の疑問やお悩みにお答えいたします。
食通をうならせる熟練の技を持つ達人たちの「逸品」。その隠された創意工夫の一端を知るだけで、いつもの料理が得意料理に変身するかもしれません。
そして、変身したお味にご家族のみなさんも大満足!さあ!達人の知恵を知り、四季を通じて「植物油を生かした美味しい料理」をお楽しみ下さい。
東京・世田谷の一画にある『満る川』は、四季の食材とシンプルな味付けを駆使し、心からのおもてなしをする懐石のお店。その料理は繊細で盛り付けも美しく、味覚も素材の良さを引き出しおり、著名人もお忍びで訪れるほか、多くの食通からも支持を集めています。
「食材はすべて、私が築地へと足を運び、自分の目で選び抜いた魚や野菜だけを使用しています。一皿ごとにこだわりや遊び心を持って創作していますから、その日ごとにメニューが変わっていきますね」
と語っていただいたのは、料理長で店主でもある粂原清治さん。まず初めに、旬な野菜を盛り込んだ「野菜の炊きこみごはん」を作っていただきました。
「ゴボウをはじめ、人参や油揚げ、大根や蓮根などを大きめの乱切りにして、お塩を野菜に馴染ませながらオリーブオイルで炒めてお釜で炊き上げるものです。オリーブオイルで炒めることで、鶏などの肉類で味付けするよりも、野菜本来の味わいを引き出すことができます。懐石というものは、天然というか自然をどのようにしつらえるかを極めていく料理ですから」
『満る川』という店名は、左官屋さんであった粂原さんの祖父の屋号(丸川)を引き継いでつけられたとのこと。「この食材を、こんな風に食べさせてくるんだ」という驚きを発見できるメニューからは、職人であった祖父の遺伝子を感じ取ることができます。
「マグロやタコなどお刺身は、風味を楽しんでもらうため、お醤油ではなく、ごま油で和えてカルパッチョ風にお出しすることもあります。ごま油は醤油ほど濃度が無いので、魚介類の味を上手に引き立ててくれますから」
爽やかでありながら懐が深い印象の粂原さんは、たとえ一組でも予約が入れば暖簾を掲げています。隠れた名店たる所以は、料理もさることながら、料理長の真摯な人柄にあることを実感しました。
続いてご提供いただいた「ホタテのオイル蒸し」は、植物油ならではの香りを生かした一品。基本はホタテと三つ葉など香味野菜のシンプルな組み合わせですが、粂原さんが手を加えると秀逸なメニューとなります。
「貝類はダイレクトに火を通すと固くなってしまいますから、お塩をしたホタテにごま油をまぶしてから、6〜8分程度強火で蒸しています。こうすることで、ホタテの香りを上手に引き出していきます。また、ごま油をまぶすことで酸化しにくく日保ちが良くなりますから、これからの行楽シーズンは、お弁当に入れていただいても良いのではないでしょうか」
これ以外の懐石料理にも、植物油が持っている香りは欠かせないと粂原さんはおっしゃいます。
「たとえば出し巻き卵にも、私はオリーブオイルを入れて香りを出していくんです。卵とお塩とオリーブオイルの相性って、本当に素晴らしい。油分が欲しくなるお酒である白ワインにもピッタリの出し巻き卵へと変身させることができます」
懐石料理における植物油の存在は、基本的に“隠し味”であるとのこと。あくまでも、素材の味を引き立てたり、より上質なものに仕上げるためのものであるというご認識です。
「ハンペンにえごま油をたらすだけで上品な味わいになりますし、いわゆるブリやアジなどの青魚は、少しのごま油で臭みを取り去る役目がある・・・。たとえ懐石といえども、植物油の使い道はじつに様々なんですよ」
四季折々に楽しめる食材には全てに「旬」があり、その時にしか出会えない貴重なものだからこそ、その素材が持つ味わいを最大限に引き出す方法で仕上げていきます。それは懐石の型にとらわれず、自由な発想から素材を見つめるということに他なりません。
「お客様には、同じものを食べたと言われたくはないですし、繰り返し、末長く通っていただきたい。創作のヒントとは、素材が持っている味や形や色とかを、季節を意識しながらどのように組み合わせていくか・・・。だから創作の可能性は無限に広がっている訳です」
最後にご提供いただいたのは「鯛の油焼き 菜の花添え」。鯛のふくよかな味わいとサッパリとした菜の花のコントラストを楽しむことができます。
「この料理はサラダ油で鯛の生臭さを飛ばすことがひとつのポイントになっています。鯛や穴子などのいわゆる根魚(ねざかな)は、煮付けにしても美味しいですが、ボソボソっとした食感を無くすには、サラダ油にサッと通すことをおすすめします。オリーブオイルを使っても良いのですが、菜の花も含めサッパリと味わっていただくために、あえてサラダ油を使用しています」
と粂原さん。料理自体もほっとするものばかりですが、店内の内装も、カウンター席は御影石と木のコントラストが温もりを生み出すなど、ゆるやかな時間を存分に感じさせてくれる空間に仕上がっています。
「カウンターの正面には月毎に変わる歳時記(※取材時はひな祭りのお人形)をお楽しみ頂けます。ほっとする空間ということで申し上げますと、コースの締めとして供される抹茶は、お客様が食事を終えるタイミングを見計らって、私自身が立てています。お客様が茶を啜ることで心の平静を呼び起こし、平穏無事に店を後にすることができるようにとの願いから、この習慣を取り入れているのです」
茶の世界が求めた“美”の探求こそが、懐石料理に四季折々の時節を反映した料理を生み出し、このような心づくしが、客人を再び店へ足を運ばせていることは想像に難くはありません。
「お茶と同様に、料理も心の平静をもたらすものこそが本物だと思っています。決して大きい店ではないだけに、これからも訪れていただいたお客様のために、精一杯のおもてなしを続けていきたいですね」
1966年埼玉県生まれ。
高校卒業後、18歳で食の世界を志し、銀座や赤坂の和食店で10年ほど研鑽を積む。
1994年、敬愛する小曽根氏と出会い、7年間師事。そこで料理と茶の世界の奥深さを学び、自分を磨き上げる事で懐石というスタイルを自分流に表現する事の面白さを知る。
2001年、世田谷・奥沢に「懐石 満る川」をオープン。「一日一日をその人のために生きる」というのが、粂原氏が店を続ける上での信条。
オープン時から共にする女将(奥様)との二人三脚で、客人に合わせた心配りを常に忘れない。