一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。

練の技に学ぶ、植物油の生かし方 職人の知恵袋

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「植物油っていろいろあるけれど、使い方がもう一つ分からなくって・・・。」
「あのお店の天ぷらは美味しいけど、家庭であの味を出すのは無理よね・・・。」
「油をもっと上手に使うコツってあるのかしら・・・。」どなたでも、こんな疑問をお持ちではないでしょうか?
確かに、油の使い方は調理方法や素材によって千差万別。お料理の本でも丁寧に解説しているものは少ないように思います。
このコーナーでは、「和・洋・中」の料理の達人に「植物油の上手な使い方、生かし方」をお聞きし、皆様の疑問やお悩みにお答えいたします。
食通をうならせる熟練の技を持つ達人たちの「逸品」。その隠された創意工夫の一端を知るだけで、いつもの料理が得意料理に変身するかもしれません。
そして、変身したお味にご家族のみなさんも大満足!さあ!達人の知恵を知り、四季を通じて「植物油を生かした美味しい料理」をお楽しみ下さい。

第6回 毎日食べても飽きない最上級の“おふくろの味”
サラダ油の香り際立つ、名物「ねぎワンタン」
ご自身の笑顔もお店の大きな魅力となっている、斎 風瑞さん。

ご両親が台湾出身の斎 風瑞さんが、母親が作ってくれた家庭料理をベースに「ふーみん」を開いたのは、今から約40年前。以来、店の場所が変わり店内が広くなっても、「毎日食べても飽きない味を提供していく」という斎さんの気持ちはずっと変わることはありません。

「カウンター越しのお客様のやりとりから、メニューがどんどん増えていきました。納豆や梅干し、タラコなど、日本人に馴染みの深い食材も積極的に取り入れていくようにしたんです」

そんな台湾と日本の食文化が見事に融合したランチの定番が「豚肉の梅干煮定食」。
くさみが一切なく、うま味がたっぷり滲みた豚の角煮に、梅干し・煮玉子・小松菜が添えられて、申し分のないボリューム。
ツヤツヤに炊きあがったご飯と蟹の味噌汁に加え、テーブル上のザーサイは食べ放題。少し甘い分厚い豚肉は口の中でとろけ、梅が利いて後味さっぱりの、自然にお腹いっぱいになってしまう大満足のメニューです。
今回まず作っていただいたのは、これも、かねてからの名物メニューである「ねぎワンタン」。シャキっとしたねぎの食感と、ツルっとしたワンタンの食感がたまりません。

「ワンタンに白髪ねぎを組み合わせるシンプルな料理ですが、ポイントは、最後の仕上げに煙が出るほどの熱いサラダ油をジャッとかけて香りを際立たせること。香り野菜(長ねぎ、しょうが、にんにく等)が生のままよりも格段に香り立ち、食感もグンと良くなります。もやしやキュウリのサラダ、あるいは豆腐のサラダ等でも、この方法で仕上げるとグッと本格的な一品に仕上がりますよ」

香り野菜の香りがさらに立つこの手法により、一段と食欲も増していくとのこと。いわゆる“お店の味”を出すのは難しいと思われている主婦の方々も、非常に参考になるテクニックということができるでしょう。

植物油を上手に絡ませると、卵料理がふわふわに仕上がる

プロの料理では、素材のうま味を閉じ込めるための油通しをよく行いますが、ご家庭で下準備のためだけに大量の油を準備するのは、ちょっと面倒なもの。斎さんからは、少し多めの油で茹でたり炒めたりして下準備をすると良いとのアドバイスをいただきました。

「たとえば野菜類なら、沸騰したお湯1リットルに対して塩大さじ3分の2、植物油大さじ2を入れて8分ほど火が通るまで茹でるんです。油を入れると沸点が高くなり、すばやく茹で上がり、うま味を閉じ込めることができます。肉類は多めの油(鶏もも肉2分の1枚なら、60~80cc位)を入れて熱し、表面を焼き固めて7~8分ほど火を通します。むやみに箸などで触ると、うま味を逃がすことになるので気をつけてくださいね」

それでは、温度はどの位を目安にすればよいのでしょうか?

「よく料理本には中華鍋をよく熱してと書いてありますが、最初に炒める油をあまり熱くしてしまうと、食材が焦げてしまいます。油の温度は、低すぎても胃にもたれる感じだし、高すぎても匂いが立ちすぎるのでダメ。180度位を目安にすると良いでしょう」

「豚肉と青菜、キクラゲの卵炒め」は、野菜たっぷりでバランスの良い一皿。

続いて作っていただいたのは、「豚肉とキクラゲの卵炒め」。その美味しい秘訣は、卵に植物油を上手に絡ませることにあるそうです。

「この料理は卵をふわふわに仕上げることが大事。そのためには、フライパンの油をよく熱してから、卵を一気に流し入れるんです。サラダ油を入れ5秒程度で瞬時に炒め、卵がフワッと膨らんだ処で箸でぐるぐるっと混ぜて、半熟状態ですぐにお皿に取り出しましょう。この料理はテンポが大切。どの食材も火を入れすぎて風味を損なわないように、フライパンに加えるタイミングを逃さないで欲しいですね。パッパッと手際よく炒め合わせていくと、それぞれの食材が色鮮やかに仕上がりますよ」

仕上げにごま油を垂らすだけで、味わいに大きな変化

この『ふーみん』には、「鶏のから揚げ香味ソース」「いかとセロリの炒めもの」など、ビールにも白いご飯にも合うメニューが沢山あります。どのラインナップも、味わいとボリュームに対するコストパフォーマンスに優れていて、常に満席状態が続く人気店であることも納得できます。

「私は“油でコクを出しながら味薄め”を基本の味付けとしています。どの料理も決して脂っこくはなく、いわゆる“中華”を食べた後としては胃もたれしないでしょう。日本の家庭料理的な、やさしい味を心がけているんです」

お店のカウンターに座ると、オープンキッチン内で忙しく立ち振る舞うスタッフの間から、小さな斎さんが、か細い腕で重そうな中華鍋を振りながら、にっこりと微笑んでくれます。その笑顔は、斎さんにまかせてさえいれば、もう間違いなく美味しいものを食べさせてくれるという、母親に近い感覚を抱かせてくれるものです。

「本格的な中華と言えども、普段着の感覚で気軽に楽しめることが大切だと思うんです。一般的には外食は三日間も続くと飽きるでしょうけど、このお店なら大丈夫ですよ」

最後に作っていただいた「豆乳とバジルの冷たいスープ」も、肩肘張ることなく、まさに普段着で楽しむことのできるメニューでした。

「このレシピはとてもシンプルで、豆乳にサッとゆでたバジルを合せてミキサーにかけ、馴染んだら塩をお好みで入れて、仕上げにごま油を垂らすだけ。でも、とっても味わい深いんです。ぜひご家庭でも試していただきたいですね」

斎さん独特のアイディアやセンスが光るメニューの数々は、ひと手間、ふた手間加えるだけで、味わいが大きく変化することを実感できます。基本は台湾家庭料理でありながら、日本で身近にある材料を多く取り入れ『ふーみん』風にアレンジされたその味わいは、まさに最上級の“おふくろの味”と呼べるものでした。

斎 風瑞さん プロフィール 『台湾風家庭料理 ふーみん』斎 風瑞さん

料理上手が評判を呼び、1970年に台湾風家庭料理店『ふーみん』をオープン。身近な素材で作る親しみやすいメニューには、長く愛されてきた定番料理のほか、お客様との会話の中から生まれたものも数多い。
いい意味で東京・青山らしくない飾らないお店は、ランチ時はいつも行列。開店から約40年を経過しても、か細い腕で重い中華鍋を振るい、満面の笑顔でお客様をもてなすという斎さんの姿勢は変わってはいない。