一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。
「植物油っていろいろあるけれど、使い方がもう一つ分からなくって・・・。」
「あのお店の天ぷらは美味しいけど、家庭であの味を出すのは無理よね・・・。」
「油をもっと上手に使うコツってあるのかしら・・・。」どなたでも、こんな疑問をお持ちではないでしょうか?
確かに、油の使い方は調理方法や素材によって千差万別。お料理の本でも丁寧に解説しているものは少ないように思います。
このコーナーでは、「和・洋・中」の料理の達人に「植物油の上手な使い方、生かし方」をお聞きし、皆様の疑問やお悩みにお答えいたします。
食通をうならせる熟練の技を持つ達人たちの「逸品」。その隠された創意工夫の一端を知るだけで、いつもの料理が得意料理に変身するかもしれません。
そして、変身したお味にご家族のみなさんも大満足!さあ!達人の知恵を知り、四季を通じて「植物油を生かした美味しい料理」をお楽しみ下さい。
東京・浅草にある『中国小菜 龍圓』は、従来の中華の枠にとらわれない美味しさを味わうことができると評判の店。この地に生まれ育った栖原一之さんが、情熱を傾けて腕をふるっておられます。
中華料理は日本料理とは違なり、油を知り抜き、油を徹底的に使いぬく調理です。おそらく世界中で最も油の特性を生かしている調理法といえるのではないでしょうか。」 それでは、ご家庭で中華を作る際、植物油を上手に活用する最大のポイントはどこにあるのでしょうか?
「まず、常に新鮮な油を使用するように心がけることですね。ご家庭用の小さなペットボトルの油でしたら、早く使い切ることが望ましいんです。油は時間の経過とともに確実に劣化していきますから、“生鮮品”に近いものとして、魚や肉を扱うように接して欲しいですね。いい油をいい状態で使用することが、美味しい中華づくりの第一歩だと思います」
植物油から透明感が薄れ、色づいてきたら、それはもう油が疲れはじめている証拠。最大の火力で高温に仕上げようとしても、新しい油なら手際良くできるのに、古い油は時間がかかるとのこと。厨房に置かれた植物油の一斗缶の注ぎ口は、特注のアルミ蓋でカバーされ、酸化を防ぐ工夫が施されています。
「そして、鮮度とともに気を使って欲しいのは油の量ですね。油というのは、足りないと美味しくないし、多すぎてもしつこくなる。たとえば中華料理では頻繁に“油通し”をしますが、そのあと普通はお玉で鍋の中の油を払ってしまう。でもこれだと、鍋にかなり油分が残っているんです。だから私は、“ゴムべら”でしっかりと払うようにしています」
この一手間を加えるだけで、大さじ3杯くらいの余分な油を取り除くことができるそうです。
「しっかりと余分な油を払ってから新しい油をまとわせることで、食材のうま味を逃がさないようにするだけでなく、食材から新鮮な香りやコクを引き出すことができるんです」
初めに作っていただいた「卵ふんわりチャーハン」は、一口食べるとフワッとした美味しさが一気に胃袋で広がる感覚に。その調理のスピード感は、目を見張るものがあります。
「油、卵、お米の素材の良さや、これに火力や一気呵成に作り上げる手際の良さ、これらが全て揃わないと、香ばしいチャーハンは出来上がりません。これがご家庭で簡単にできてしまうと、私の存在価値も薄れる訳で・・・(笑)。基本的な事ではありますが、炒め物を上手に作るコツは、予め材料や鍋の準備をしておいて、強火で一気に仕上げること。そして高温を効率よく利用するため、油を鍋全体によくなじませることも大切ですね」
三浦半島(神奈川県)の朝穫り無農薬野菜をはじめ、相模原(神奈川県)の自然卵、お米は山形県の庄内の農家から直送の「はえぬき」・・・。素材への徹底したこだわりが伝わる栖原さんが積極的に活用している植物油は「こめ油」だそうです。
「とくにチャーハンは、お米を使った料理だから、お米から作ったこめ油と相性がいいんですけど、私はサラダや春巻きなど、どんなメニューにも応用しています。たとえば野菜炒めも、重くならず軽く仕上がるんです。また、こめ油特有の栄養成分であるガンマ-オリザノール には、油が酸化するのを抑制する働きもありますしね」
続いて作っていただいた「夏野菜の強火炒め」は、栃木産のアスパラガスやズッキーニ等が入った豊潤な香りの一品。強火で熱くなったこめ油に通されることによって、夏野菜の本来の甘みが際立つ、上品な仕上がりとなっています。
「こめ油は、まず味わいや香りがいい。そしてビタミンEなど栄養分も豊富ということもありますが、特におすすめの理由が“食後感”です。せっかく食べている時に美味しいのに、食後に胃がもたれたり、重苦しかったりというのでは、文字通り後味の悪い食事となってしまいますから」
常連のお客様のほとんどが“おまかせ”でメニューを注文しているという事実は、栖原シェフが創作するレシピへの信頼の証、言い換えれば、後味も含めた美味しさの証ということができるでしょう。
栖原シェフが挑んでおられるジャンルを“中華”と一言で総括するのは適切ではないかもしれません。なぜなら、「ピータン豆腐 エスプーマのムース」、「トリュフ塩のかに玉」、「二種類トマトの酢豚」など、素材のみならずフレンチやイタリアンの技法まで柔軟に取り込まれたメニューが、数多く見受けられるからです。
「ここ浅草は伝統を重んじる街。同じことを変わらず継承していく昔ながらの店舗があるなら、逆に私は新しいことにチャレンジしたい。街も料理も、古いものと新しいもの、どちらも大事なのではないでしょうか」
ホタルイカや穴子やアサリなど、旬の素材をメニューへ積極的に取り入れるため、お店に行く時期によって楽しめる味わいが異なります。
「たとえば、これからのシーズンでおすすめなのは、五目餡(あん)を入れて外はパリパリ、中はジューシーな穴子の春巻きや、鱧(はも)とフカヒレのスープ。鱧とか穴子とか日本ならではの食材に、中華を融合していくことに興味があります」
変にこだわりを持つと頑固になるから、常に頭の中は柔軟でいないといけないというのが、栖原シェフの基本方針です。
「たとえば、三浦から朝穫れた新鮮な野菜が入ってくるとすると、それに合わせて、すぐメニューを変更してしまうんです。これで決まり、この料理は完成というのはないんです。逆に、まだ44歳の自分の中で、変なこだわりを持ってはいけないと考えています」
年に何回かは生産地へ足を運び、たとえば野菜であれば、目で葉色を、手で感触を確かめるという栖原シェフ。そこから自然に、新たな料理への創作意欲が生まれていきます。
「生産者に会えば、どんな所でどんな風に収穫されているか、お客様にもどんな素材かを明快に自信を持って説明できる。中国には生野菜を食べる習慣がありませんが、ここは日本で美味しい無農薬野菜が手に入るわけで、それをシンプルに提供しようということなんです。料理法はあくまでも味を引き出すための手法のひとつ。本当に大切なのは良い素材を使うこと、それに尽きますね」
素材と手作りを徹底的に追求する姿勢は、高級な宴席料理から焼き餃子に至るまで、すべてのメニューに貫かれています。栖原シェフの一皿一皿に込められる情熱は、これからも決して冷めることはないと感じました。
1964年10月18日生まれ(44歳)
浅草生まれ。学生時代に数々の飲食店での経験を経て中国料理に興味を持ち、本格的に上海料理を学ぶ。
1993年に浅草・花川戸に『中国小菜 龍圓』開店し、1998年に現在地へ移転。
中華の枠にとらわれない柔軟な発想を基に、心にもカラダにも心地よい料理を提供している。
また、小学校の特別授業でチャーハンの作り方を子供たちへ伝授するなど「食育」にも熱心に取り組んでいる。