一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。
「植物油っていろいろあるけれど、使い方がもう一つ分からなくって・・・。」
「あのお店の天ぷらは美味しいけど、家庭であの味を出すのは無理よね・・・。」
「油をもっと上手に使うコツってあるのかしら・・・。」どなたでも、こんな疑問をお持ちではないでしょうか?
確かに、油の使い方は調理方法や素材によって千差万別。お料理の本でも丁寧に解説しているものは少ないように思います。
このコーナーでは、「和・洋・中」の料理の達人に「植物油の上手な使い方、生かし方」をお聞きし、皆様の疑問やお悩みにお答えいたします。
食通をうならせる熟練の技を持つ達人たちの「逸品」。その隠された創意工夫の一端を知るだけで、いつもの料理が得意料理に変身するかもしれません。
そして、変身したお味にご家族のみなさんも大満足!さあ!達人の知恵を知り、四季を通じて「植物油を生かした美味しい料理」をお楽しみ下さい。
東京は参宮橋の駅近くの住宅街にあるスペイン料理レストラン『ロス レイエス マーゴス』は、オープンから26年を経過した知る人ぞ知る名店。スペインのカタロニア地方とバスク地方の料理をメインとしています。特にバスク地方は“食はバスクにあり”と言われるほど美食で知られる地方で、多くの優秀な料理人を輩出し、スペイン料理をリードする三つ星レストランも数多く存在するそうです。
「一般的にフランス料理は素材を引き上げる料理、イタリア料理は素材を重ねる料理と言われますが、スペイン料理は素材の味を引き出す料理と表現されています。シンプルで素朴なのですが、驚くほどしっかりとうま味が詰まっているのが特徴。それを引き出しているのがオリーブオイルと言っても良いでしょう。ガスパチョにしてもオムレツにしても・・・。」
と語っていただいたのは、お店を切り盛りされている太田料理長。
「素材からにじみ出る出汁(だし)とオリーブオイルを混ぜ合わせて乳化させることで、全体にコクが出て、口当たりもまろやかになり、味わいに厚みが出てくる。それでいて決して重くはならない。スペイン料理にとって、やはりオリーブオイルは味覚の決め手なんですね」
前菜として一品目にご提供いただいたのは、『自家製ブティファラ(ソーセージ)と白インゲン豆のアリオリ・ソース添え』。スペインでは生ハムや腸詰めなどの保存食が発達しており、出汁の材料にもなっているそうです。
「私どものブティファラは、国産豚の粗挽き肉に胡椒とパセリを加え一日休ませてから、腸に詰めています。そしてどちらかと言えば濃厚なお肉とシンプルなインゲンの組み合わせを見事に結び付けているのがアリオリ・ソースです」
アリオリ・ソースは“白い万能ソース”とも呼ばれ、ニンニクとオリーブオイルだけで作るのが正統派とのこと。容器にニンニク、塩を入れ、丁寧に潰す。そこに微量ずつオリーブオイルを入れながら混ぜ続けます。
「容器を逆さにしてもこぼれない、もったりとクリーム状というのがテクスチャーとしての目安ですね。ニンニクとオリーブオイルは分離しやすいので、卵黄を少し加えた方が作りやすいかも知れません。焼いた肉類や茹でた野菜類に合わせても、あるいはバターの代わりにパンに塗ってもよいですし・・・。シーザーサラダやポテトと和えたり、パエリアにかけたり・・・。まさに万能なスペイン版マヨネーズですね」
アリオリ・ソースの作りたてのフレッシュさは、何ものにも代えがたい刺激的な味わいを備えているとのこと。植物油を使って乳化させることは、レシピ全般を美味しくする大きな手段のひとつであると太田料理長は考えています。
「たとえばサラダでも、葉類に塩やお酢などの調味料だけではなく植物油を少し混ぜることで、液体が乳化して全体に万遍なく味が行き渡るようになります。ですからサラダに植物油を活用しないない手はないんですよ」
スペイン料理といえば、パエリア、トルティージャ、ガスパチョ・・・。広く知られた名前はありますが、スペインの人々が普通に食べているスペイン料理を出して欲しいなら、この店を訪れるのが良いと思います。二品目にご提供いただいた『タコのガリシア風』も、まさにそんな代表格と言えるでしょう。
「スペインの北西に位置するガリシア地方の名物と言えば、タコなんです。この『タコのガリシア風』は、茹でて、切って、オリーブオイルをかけるだけという素朴な料理なのですが、それだけに奥が深い。タコそのものの美味しさを味わうなら、これがベストのレシピかなとも思います。お祭りの屋台に出されていた料理で、持ち運びや保全性に優れていますから、これから秋の行楽シーズンに向けて、お弁当入れても良いのではないでしょうか」
タコとジャガイモを茹でて皿に乗せ、パプリカ(パウダー)、オリーブオイルをかけて、粗塩を振って完成する温かいタバス(小皿料理)。その作り方のポイントは、とにかくタコをふんわりとした食感に仕上げることにあります。
「生の真ダコをたたいて柔らかくしてから・・・たっぷりのお湯(硬水を少し足すと臭みが取れます)で30~40分煮ます。一気にすべて茹でた方が味が良くなりますね。目安は皮がはがれない程度。茹で過ぎるとタコのゼラチン質が取れてしまいます。日本ではタコに歯ごたえを残すためにサッと茹でますが、ゆっくりと柔らかく茹でてあげることがポイントです。タコを、形は保ちながら歯を使わず舌で食べる感覚に茹で上げたジャガイモに乗せると、ボリューム感が出て見た目もキレイなんですよ」
タコとジャガイモの相性は抜群で、仕上げのオリーブオイルがほんのりフルーティーに、そして風味豊かにふたつの素材を融合しています。この料理は茹でる料理ですが、スペイン料理では鉄板焼のことを『プランチャ』と呼びます。この作り方のヒケツについてもうかがってみました。
「シンプルな料理ほど、オリーブオイルで仕上げることに(素材を引き立てる)ことに向いています。『プランチャ』とは、主にイカや貝類の鉄板焼きのこと。フライパンに油を入れてから焼くのではなくて、素材そのものをオリーブオイルでコーティングしておいてから焼くと熱が早く伝わり、あとで油を入れた際に温度が下がることを防ぎ、余分な油が酸化すること防ぎます。しかも素材にイヤな臭いがつかないし、使う油の量の少なくて済むなどメリットはとっても大きいんです。だだエキストラ・バージンを使用すると、加熱した時の臭いがお好みに合わない方もいらっしゃるかも知れませんし、素材が焦げやすくよどんでしまいますので、加熱する料理の場合は、オリーブオイルが2、サラダ油やひまわり油を8くらいの割合で使われることをおすすめします。エキストラ・バージンは仕上げに使うイメージの方が良いのかも知れませんね」
一日に5食も食べるスペインの人々の食へのこだわりは非常に強く、食べることが日常生活の中心にあります。最後にご提供いただいた『バカラオ(塩たら)のピルピル』も、スペインの日常に根ざした伝統的な料理ということができます。そしてスペインはオリーブオイルの生産量が世界第1位の国でもあります。
「鍋に火を入れているときに“ピルピル”という音がするから、という単純な名前のスペイン料理です。名前も調理法も単純ですが、味は抜群。一人暮らしの自炊にもおすすめです。ひたひたのオリーブオイルで仕上げることで、うま味が溶け出しています。揚げる感覚の料理ではなくて、いわばオイル煮ですね」
魚の出汁とオリーブオイルを長い時間をかけて揺らして乳化させることで、ふくよかで芳醇なソースに変化していきます。絶妙な塩気とガーリックテイストがたまりません。
「オリーブオイルを土鍋に入れて、ニンニクの薄切りと鷹の爪を温めてから一度取り出します。三日間ほどかけて水で戻した塩タラ(※塩を抜きながら水分を吸わせてあげる)を弱火で皮の方から温めて、ゼラチン質を取り除いてあげます。ある程度の水分が出たら、オリーブオイルを足して鍋をゆらしてあげると乳化していきます・・・。うまく乳化しないときは、一度タラを取り出しスプーンなどでオリーブオイルを激しく混ぜると乳化しやすいですよ。あまりオイルの温度を上げ過ぎないこと。低過ぎても良くないけれど、上げ過ぎの方がより悪いと思います」
日本ではタラというと鍋のイメージが強いですが、こうしたお洒落な食べ方がスペイン料理にはあります。美味しいパンと白ワインと合わせて食べたい・・・。そう思わせる一品であることは疑う余地もありません。
「パエリアを作る時も、オリーブオイルを少し多めに使うことが“炊き込みご飯”にならないヒケツなのです。スペイン料理ではオリーブオイルがまとめ役になって、それぞれの食材の多様な味覚がひとつの器に混在しながら見事に融合しているレシピが多いんです。その味わいの一体感には、他の料理には見られない醍醐味を感じていますね」
南は地中海、西は大西洋、北は北海と3つの違う性質の海に囲まれているスペイン。タカタロニア、バスク、ガリシア、アンダルシアなど、それぞれの地方には特徴ある料理が存在する中で、「ロス レイエス マーゴス」には、カタロニア・バスク地方を中心としたタバス(小皿料理)、魚や肉料理など、50種以上のメニューがある。中でもパエリアは一人前から作るので、あれこれ食べたい方に喜ばれているとのこと。デザートもすべて手作り。緑に囲まれたナチュラルな白い壁の一軒家レストランには、木製の家具に黒板に書かれたメニューなど、気楽に食事ができる雰囲気がある。
お店のホームページはこちら http://www.los-reyes-magos.net/