一般社団法人日本植物油協会は、
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プロが選ぶには訳がある
-植物油の美味しさ大発見-
~シェフ御用達の植物油のおいしい魔法~
Vol.2 「イタリアンに欠かせないオリーブオイルは万能選手」FINE DEL MONDO(名古屋・新瑞橋)
近頃では自宅に複数の植物油を常備している人は少なくない。もはや多くの人が、植物油は揚げ物に使うだけでなく、素材を美味しくいただく、料理を美味しく仕上げるための調味料であると認識している。といっても、昨今の健康志向の流れで、続々と新たな植物油が登場しており、知識の方が追い付いていかないのが正直なところだ。 この企画では、油づかいに長けた料理人たちによる植物油を使った珠玉の料理をピックアップし、全5回に渡って紹介していく。シェフには、家庭で植物油を上手に使いこなすためのアドバイスも尋ねた。
Vol.02は、郷土料理を得意とする名古屋・新瑞橋のイタリア料理店「FINE DEL MONDO(フィーネデルモンド)」へと足を運んだ。イタリア料理といって思いつく食材はなんだろうか。実際にアンケートをとったわけではないが、筆頭にくるのはオリーブオイルではないかと筆者は思っている。今回、同店のシェフの小安秀和氏は、それぞれに異なるオリーブオイルを使った3つの料理を用意してくれた。
profile
FINE DEL MONDO(フィーネデルモンド)シェフ 小安秀和
高校時代にテレビ番組で見たスターシェフに憧れてイタリア料理のシェフを志す。東京で5年働いたあと、郷土料理色が強い料理を出していた師匠の影響もあり、「一度はイタリアで働きたいとイタリアへ。エミリア=ロマーニャ州、ピエモンテ州、サルデーニャ(サルディニア)島などで研鑽を積む。帰国後は、「縁あって無一文で、知り合いが数えるくらいしかいない名古屋にやってきました」(小安シェフ)。その後、名古屋の店で働き、帰国から7年半後の2014年11月、「フィーネデルモンド」をオープンする。
歴史と知恵が培ったイタリア20州の郷土料理には、オリーブオイルが欠かせない。
住宅街にあるその店は、地域に馴染んでいて、地元の人々に愛されているオーラ漂う一軒。北イタリアを中心に修業をしたシェフの小安秀和氏は、イタリアのトラットリアのようにカジュアルに郷土色あふれる店が作りたいと、2014年11月、この「フィーネデルモンド」をオープンする。
小安シェフ:イタリアには地域に根差した郷土料理があります。洗練されたイタリア料理も素敵なのですが、イタリアで記憶に残っているのは、地方の食堂でおばあちゃんが作ってくれた料理だったりするんです。クリエイティブな料理ももちろん魅力的ですが、僕はイタリアの人が日常的に食べている、特別なものではないけれど、歴史が作ってきた料理を提供したいと考えました。
そう考えるに至ったのは、やはり現地イタリアでの経験が大きかったという。
小安シェフ:イタリアに行って、料理を作るという仕事がこれほど楽しいことと初めて知りました(笑)。イタリアの生活のリズムに触れ、自分が作りたい料理を作りながら、人間らしく生きていきたいと考えるようになりました。
店名の「フィーネデルモンド」というのは、イタリア語で「この世の果て(ワールズエンド)」を意味する。
小安シェフ:現地では、ものすごく美味しいものを食べたときに、世界の果てまで飛んでいくくらい美味しいという意味合いで、「フィーネデルモンドの美味しさだよ」といった表現を使うことがあるんです。イタリアと日本はフィーネデルモンドの距離だけど、心は繋がっていたいという願いも込めました。
イタリアの郷土料理にこだわる小安シェフは、定番メニューに加え、イタリアの各州をテーマにしたフェアも開催している。
小安シェフ:イタリアは20州で成り立っていますが、すでに15、6州は取り上げていて、フィナーレは間近です(笑)。フェアではテーマとなる州のコース料理を提供しています。
州ごとのフェアを開催することで、その州に関する知識を得たり、新たな魅力を感じたりと、小安氏自身にも学びは多いという。そもそも同店では、何種類くらいのオリーブオイルを使い分けているのだろうか。
小安シェフ:カルパッチョに使うもの、肉を焼いて仕上げるものなど、4種ほどでしょうか。あまり多すぎても使い切れないので、厳選したものを使っています。なかでもトスカーナ産のオリーブオイルは、この店を始める前から仕入れているもので、付き合いも長いんです。インポーターさんは、日本でオリーブオイルがこれほど一般化する前から輸入していると言っています。
トスカーナ産のオリーブオイルは野菜の旨みをまとめて華やぎを添える。
このトスカーナ産のオリーブオイルを使用して作る料理のひとつが、たまねぎや人参、セロリ、蕪など10種類以上の野菜を使った「いろいろ野菜のミネストローネスープ」だ。
小安シェフ:トスカーナでよく食べられているように、黒キャベツと白いんげん豆も入れています。あとは季節の野菜、今日はカリフラワーを使いました。野菜は、水で煮込むのではなく、蒸し煮にして、汗をかかせています。オリーブオイルと塩を入れて、焦げ付かないような火力で煮込むことで凝縮感が出るんです。液体のなかに角切りの野菜が入ったスープとは違う、混然一体となった旨味を味わってください。
このじっくりと火を通し切ったことで凝縮された旨味をまとめるという、重要な役割を果たすのがオリーブオイルなのだと言う。
小安シェフ:トスカーナ産のオリーブオイルで、レッチーノ、モライオーロ、フラントイヨをブレンドしたものなのですが、さわやかな青っぽさがあり、これが野菜や豆と非常に良く合うんです。
まずはオリーブオイルを使わずにいただく。それでももちろん美味しい。そこに、オリーブオイルを垂らすことで、ミネストローネの表情は一気に豊かになる。野菜たちが雄弁になる、と言えばいいのだろうか。華やぎがぐっと増すのだが、スープの最後の仕上げに自宅でも手軽に取り入れられる。
オリーブオイル×イタリアの魚醬で海の幸を引き立てるドレッシングに。
続いて登場したのは、シチリアのオリーブオイルを使った「本日の魚のカルパッチョ オレンジとセミドライトマト」だ。この日は島根県産の鯵。花畑のように鮮やかな見た目にも食欲をそそられる。
小安シェフ:オリーブオイルは、シチリア産のノヴェッロのオリーブオイルを使用していますが、これをイタリアの魚醬(コラトゥーラ)と合わせて、ドレッシングのように使っています。魚醬1に対して、オリーブオイル2をスプーンで混ぜたものに、魚にまとわせました。
ノヴェッロとは、その年、収穫されたオリーブから作られた搾りたてのオリーブオイルのこと。イタリアやスペインなど、北半球で作られたものは、早いものだと11月上旬には日本にやってくる。
小安シェフ:オリーブオイルも、料理の地方性と合わせたいと思っています。僕個人の考えですが、シチリアやプーリアなど海に近いところのオリーブオイルは魚に、山で作られたオリーブオイルは肉に合うような気がするんです。
"まるでレモンの香水"オリーブオイルのフレーバーをジェラートに活かして。
デザートには、「自家製ミルクジェラード」を用意してくれた。これに、レモンのオリーブオイルをかけていただく。
小安シェフ:イタリアでは新しいオリーブオイルができたとき、ミルクなどニュートラルな味わいのジェラートにかけて試食することがあるんです。パンだとお腹がいっぱいになってしまいますからね。すごくいいアイデアだと思いました。卵やバニラが入っていない、シンプルさがオリーブオイルの味わいを引き立てていいんでしょうね。
レモンのオリーブオイル自体は決して珍しいものではないが、シェフによるとこのオリーブオイルは、「香りがずば抜けている」と言う。
小安シェフ:オリーブオイルを絞るときに一緒にレモンを入れ、遠心分離機にかけて作っているそうです。オリーブ(モレスカ)とレモンを6:4の割合で合わせ、エイジングもかけているとか。インポートされている方は、”レモンの香水”だと言っていましたが、たしかにそれくらい香りが高い。ぜひ一度、"飲んで"みてほしいです。魚にかけても美味しいですよ。
フレッシュなレモンとオリーブの青みを感じるオイルは、まさに“レモンの香水”だ。ジェラートによって冷えることで、オイルの風味はさら立ち上がる。
最後に、小安シェフに、家庭でオリーブオイルを使いこなすためのアドバイスを聞いた。
小安シェフ:油はどうしたって劣化していきます。時間をかけて使うものではないので、開栓したらガツガツ使うことをおすすめしたいですね(笑)。卵かけごはんに垂らしてもいいですし、やはりサラダに使うのがいいかなと思います。市販のドレッシングは、ドレッシングの味が強く、野菜の味をぼかしてしまいますが、オリーブオイルは、野菜そのものが美味しいただける調味料としてとても優秀です。少量の良質のオリーブオイルで野菜の表面がコーティングされることで、野菜がへたりにくくなりますし、その上にかけた塩やビネガーや酸が立ちます。醤油にオリーブオイルをたらして刺身に使うのもおすすめです。オリーブオイルは、さまざまな使い方ができる万能選手。上手に使いこなすことで、世界が広がると思います。
イタリア料理になくてはならないオリーブオイルだが、一括りにオリーブオイルと言っても産地によってやフレーバーによって、食材との合わせ方・活かし方はさまざま。イタリア人の食生活の知恵としても根付いているオリーブオイルの多彩なバリエーションが、私たちの食卓をより豊かにしてくれることは間違いない。
文・長谷川あや、写真・中庭愉生
取材協力:一般社団法人 日本植物油協会
restaurant information
住所:愛知県名古屋市瑞穂区姫宮町2-75-2 ネオ新瑞 1025
Tel:050-5594-3731
営業時間:平日:17:00~22:30(最終入店 21時前)土・日・祝:17:00~23:00(最終入店 21時前) 定休日:月曜日・第3火曜日 ※月曜日が祝日の場合は営業。翌火曜休。
席数:18席(カウンター4席・テーブル14席)