一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。
プロが選ぶには訳がある
-植物油の美味しさ大発見-
世界的な健康意識の高まりや、地球環境への配慮から、植物油に注目が集まっています。「こんな油あったんだ!」と思うような、新たな油との出会いにちょっとした驚きを感じることもあるのではないでしょうか。でもこの植物油って、どう使うのが正解なの? と疑問を抱く人は多いはず。そこで、この短期連載では、日々、植物油を使っている達人を突撃! 達人のお店とオススメ料理を紹介するとともに、家庭で料理する際のアドバイス等を伺います。
美食家に「京都で美味しいお肉を食べられるところを教えて」と聞いたら、かなりの確率で「Le 14e(ル・キャトーズィエム)」の名前が挙がるんじゃないでしょうか。
茂野眞さんが同店をオープンしたのは、2013年2月。そう、今年でちょうど10周年です。茂野さんは東京のフレンチレストランで修業を経て渡仏。パリへ渡り、「ラ・メゾン・クルティーヌ」、そして、熟成肉の美味しさで知られるビストロ「ル・セヴェロ」で研鑽を積みました。2009年に帰国後は、ステーキの美味しさでも知られる六本木の名ワインバー「祥瑞(しょんずい)」のシェフに。その後、独立し、「ル・キャトーズィエム」を開業します。
看板メニューは、なんといってもフライパンで“揚げ焼き”したステーキ。約5坪ほどの居心地が良い店に、今日も極上のステーキを目当てに食いしん坊たちが集います。食べていただけば分かるのですが(これを言ったらおしまいですが(笑))、茂野さんの焼き方はかなり独特。「色々なタイプの肉と接しているうちに、日本の肉には日本の焼き方があることが分かってきました」と、修行したフランスとも、また「祥瑞」とも異なる、“茂野流”とも言うべき焼き方で焼き上げます。そんな肉の名手とも焼きの達人とも異名をとる茂野さんが、油使いにも長けているのは言わずもがな。その茂野さんが教えてくれた、「フレンチドレッシング」が、簡単、かつ、とても美味しかったので、まずはご紹介しましょう!
●材料
ひまわり油 適量
マスタード 適量
塩・胡椒 適量
レモン 適量
① マスタードをボールに入れ、塩・胡椒をする。「マスタードをたっぷり使うのがポイントです」。
②①にひまわり油を入れ、泡だて器で混ぜ、乳化させる。「かき混ぜながら、油を入れると乳化しやすくなります。ある程度の硬さになるまでかき混ぜてください」。
③レモンを入れる。
それだけです(笑)。「クセのないひまわり油が一番美味しく仕上がると思います。「祥瑞」では、ステーキを焼く際にひまわり油を使っていました。酸化に強いのがいいですね」
さて、ひまわり油のフレンチドレッシング、お味のほうですが、これは……! 市販のドレッシングを買う必要がないくらいの美味しさです。大げさではなく、ちょっとした衝撃を受けました。茂野さん曰く、「茹でた野菜に良く合います。茹でて冷ましたネギに付けてもいいと思います」。早速、試してみたところ、なるほど野菜がエンドレスでいただけそうです。……というか、このドレッシングだけでお酒が飲めそうなんですけど!
では、改めて茂野さんのこと、そして、「ル・キャトーズィエム」についてご紹介しましょう。
独立し、店を構えるにあたり、神戸出身の茂野さんが京都を選んだのは、「京都ってパリに似ているなと思ったんです。鴨川がセーヌ河のようにも思えました」。たしかに京都とパリは姉妹都市の関係にあります……。
肉のラインナップはその時々で変わりますが、この日、黒板のメニューに書かれていたのは、山形の経産牛のリブロ―ス、いわて田村牧場の短角牛のイチボ、そして、椎名牛のカイノミの3種類(各100g2,800円)。字面だけで美味しそうでしょ? 気分が高まります。
この肉を、茂野さんがフライパンでの“揚げ焼き”するわけですが、素人目にはちょっと驚く位に油を使います。高温に熱した植物油のなかに塊肉を入れ、フライパンを傾け、手前にためた油を、スプーンですくって肉に回しかけ続けます。高速でまんべんなく肉に油をかけまわすのは、「肉に厚さがあると全体を焼くのに時間がかかります。油をかけて全体を素早く焼き上げることで、こんがりした部分が薄く仕上がり、中の赤い部分が多くなります」。
フライパンで焼き上げた肉は油を切るため、2分ほど250℃に熱したオーブンへ。
「かなりの高温で焼いているので、油はほとんど飛んでいますが、オーブンでさらに油を抜きます」と茂野さん。たしかに、いただいたステーキに油っぽさは皆無。あんなに使っていたのに! あれは幻だったのでしょうか(笑)。
焼き上がったステーキの表面は、黒々としていてカリっ&ザクっ。カリカリの中の赤身肉は、噛めば噛むほどに奥深いうま味が襲ってきます。脂のふくよかさや香りの高さ、そして、いつまでも続く肉の余韻──。「肉を食べる」という行為を神々しくさえ感じました。
──お察しいただけたでしょうか。パリにいた頃、休日には肉職人ユーゴ・デノワイエさんの店で働いていたという茂野さん、肉への思い入れはかなり強いようです。
「ええ、肉は好きですね。食べるのも好きですし、焼くのも好きです。油を熱したフライパンの中に入れる時の音、やがて小さくなる油の気泡などもたまりません。香りもいい。毎回、同じではなく、駆け引きがあるところも楽しいです!」
この方、肉について、1日中、話していられるんだろうなあ(笑)。
落ち着いたところで、茂野さんに家庭でステーキを焼く際のアドバイスをいただきましょう(笑)。芸術的でさえある高度な“揚げ焼き”は家庭では難しそうですが、少しでも美味しく焼く方法があればぜひ教えていただきたいところです。
「よく言われることですが、肉は焼く前に常温に戻すこと、とくに塊肉の場合は絶対です! 常温に戻すことで火が入りやすくなります。冷たいままの状態で焼くと、肉がしまりすぎてしまうんですよ。また、ご家庭ではグリエパンを使うといいと思います」
ちなみに油は何を使っているのでしょう? 家庭でステーキを焼くとなると、牛脂を使う人も多いのでは……?
「牛脂を使うとべたっと重たくなってしまうんです。その肉の牛脂を使えればまだいいとは思うのですが、肉そのものを味わっていただきたいので私は使いません。店では精製した菜種油の白絞油(しらしめゆ)を使っています」
そして、さすが“揚げ焼きの達人”、ステーキには欠かせないフレンチフライにもこだわりが詰まっています。「ル キャトーズィエム」では、皮をむいてから一度、お湯で洗い、でんぷん質をとり、150℃で揚げます。さらに、その後、180℃で二度揚げ。「高温で揚げることでカリっと仕上がります」。時間があるときは、二度揚げの前に、粗熱を取って冷凍しているのだとか! 「理論はよくわかりませんが、一度、冷凍したもののほうが、中がとろっとするんです」。そんな「ル キャトーズィエム」のフレンチフライは、カリっと香ばしく、そして、ほくほくとした甘さがあり、主役級の存在感。病みつきになります。
もうひとつステーキと並ぶ同店の名物が、「ブラータとフレッシュトマト」(2,500円)です。ブラータとは、イタリア原産のフレッシュチーズのこと。)モッツァレラの中にクリームが詰まっています。オリーブオイルをたっぷりかけていただきます。トマトは、茂野さんが最近、夢中になっているという京都の農家のものだけあって、フレッシュ感、甘み、硬さ──、すべてがパーフェクト。クリーミィーなブラータと混然一体となって、「うふふ。私、美味しいでしょ~♡」とセクシーに誘惑してきます。受けて立ちましょう(笑)。
前菜は少数精鋭。「牛スネ肉のカリカリ焼」(1,800円)、「牛肉と野菜の煮込み」(2,000円)、ハンバーグ(150g2,500円)など、肉をさばいた際に余った素材を、積極的に使っています。
小さな店には、希代の焼き手である茂野さんの肉へのあふれんばかりの愛情が充満していて、みんな幸せオーラ全開で肉を頬ばっていました。京都に行ったら足を運びたい一店がまた増えてしまいました……。茂野さんの焼く肉を食べたいのはもちろんですが、あの芸術的な焼き技、ぜひもう一度見てみたいという想いもあります(笑)。油も輝いていましたよ!
ル キャトーズィエム
住所:京都市上京区伊勢屋町393-3 ポガンビル2F
Tel.:075-231-7009
営業時間:18:00~L.O.21:30、土17:00~L.O.21:30
定休日:水・日曜休
取材・文/長谷川あや 撮影/中庭愉生
取材協力/一般社団法人 日本植物油協会