一般社団法人 日本植物油協会 社団法人日本植物油協会は、日本で植物油を生産している企業で構成している非営利の業界団体です。

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植物油サロン

食に経験や造詣が深い著名人、食に係わるプロフェッショナル、植物油業界関係者などの方々に、自らの経験や体験をベースに、
食事、食材、健康、栄養、そして植物油にまつわるさまざまな思い出や持論を自由に語っていただきます。

第21回 「食は命なり。運命なり」 医学博士・管理栄養士 本多京子さん

栄養学という「科学」は、本当に面白い

医学博士・管理栄養士 本多京子さん

今のように立派な冷蔵庫もコンビニもなかった小学生の頃、着物屋で働く母のために卵焼きを作りとても喜んでもらえたことが、現在の私の原点と言えるのでしょう。母の代わりに近所の肉屋さんや八百屋さんに出かけては、その店のご主人に食材の成り立ちや違いを事細かに質問する女の子で、どの店のご主人も食材の特徴や栄養や調理方法をとても熱心に教えてくれたものです。小学校1年の頃にはお肉は多少の脂があった方が美味しいことを理解していましたし、当然ながらお釣りのやりとりで金銭感覚も身について行きました。今思えば、近所の商店街のご主人たちが自然に私に“食育”を実践してくれていたのです。母が購入していた料理雑誌を見ながら、世の中には様々な美味なるものが存在することを知り、漢字はまず食べ物から覚え始めました。小学校5年の頃には、肉じゃがに始まり、サバの味噌煮、ほうれん草の胡麻和えまで、クッキー等も含めて一般的な献立をほぼマスターしていましたね。

私が育った時代はいわゆる団塊の世代とも重なって、憧れの職業がスチュワーデスという時代でしたが、母の「こんなに料理が上手なんだから、これを生かさない手はないわ!」という一言で、大学の卒業証書と栄養士の免許を一気に取得できる道を選択しました。栄養学という学問は本当に楽しくて、大学では必死に学んで総代で卒業し、女性の地位向上の表彰を受けるまでに至りました。その後、早稲田大学の体育生理学の研究員を経て東京医科大学で博士号を取得し、以後プロ野球をはじめとするスポーツ選手に栄養指導を行なったり、食品・化粧品メーカーの商品開発やアドバイザーまで携わってきました。でも本来の性分としては、ビジネスライクというか“契約”することがあまり好きではない自由人なんですよね(笑)・・・。栄養士という職業は、じつは時代というか、その時々のトレンドが仕事相手だと思って取り組んでいます。たとえば“ネバネバ食材”がいまブームだとしたら、成分は水溶性食物繊維が大半を占め、内蔵の粘膜をまもる働きがあって、その食物繊維はコレステロールや中性脂肪の排出や、血糖値と血圧の上昇を抑える働きがあるんですといった解説をするんですが・・・。栄養学という「科学」は、本当に奥深くて面白いんですよ。

私たちの身体は、肌も爪も髪の毛も全部食べ物で出来ていますから、やっぱりしっかり食事をするって事が大切ですよね。健康のためにコラーゲンドリンク飲んだりする方もいらしゃるんですけど、たとえそういうものを摂ったとしても、それを生かすために必要な栄養素を食事から摂っている人に限って初めて効果が出るものだという事を、ぜひご理解いただきたですね。このことを多くの方がご存知ないような気がしてなりません。

農業は人を哲学者にする

よく栄養バランスの良い食事とは何かを問われるのですが、現代人がなぜ栄養バランスを理解できないのかといえば、それは食のスタイルが変わってきたからです。本来、日本人の食事は一汁三菜が基本。その献立であれば食べる量が適量で、そして栄養のバランスも保たれるということを経験的に理解していたはずなのです。そして、家庭の食卓が様変わりしています。家族バラバラに食べるのが普通になってしまった「孤食」、一つの好きなものだけ食べる「固食」・・・。最近は大皿に総菜を何種類か盛って食卓に並べておき、各自が好きなだけ食べるという「個食」のスタイルが増えています。しかも、料理の内容は肉や炒め物、揚げ物が中心。大皿はそれぞれ、お父さんの好きなもの、息子の好きなもの、娘の好きなものと、みんなの好きなものばかりを集めている家庭が多く、どうしても主菜に偏りがちのメニューになってしまいます。

でも本当は、冷蔵庫の野菜を中心に献立を考えて、主菜を後から考えても遅くはないんです。演劇でも主役ばかり目立って脇役の存在が映えていない舞台は駄目ですよね。それは献立にも同じことが言えるのです。私自身が実践しているのは、野菜料理をまず二つ考えます。その野菜料理に合わせて、じゃあお肉にしようかしら、お魚にしようかしらっていう風に、後から主菜を組み合わせていますね。そして主采が一つ、副菜二つがあった時に、その三つの料理法を重ならないようにするのが大事なんです。煮物ばかりだと塩分が高くなってしまいますし、油を使ったものばかりだとカロリーが高くなってしまうので、調理法と味を変えるのがコツですね。カロリー計算しなくても、栄養計算が感覚的に行なえるようになれば理想的です。最近とくに危惧しているのは、食卓から小鉢が減っていること。お刺身とかお肉の炒め物などの“ごちそう感”ばかりが強調されて、和えものとか酢のものが食卓から減少している・・・。小鉢を献立に取り入れることによって、栄養バランスが良くなってカロリーを抑えることができるんです。いずれにしましても、その食材の性質とその料理法を知らないと、栄養学は語れないことになります。意識と知識の差が、その人の料理には明確に出てきてしまうことになります。

私は畑に出て年間26種類の野菜を作っているんですが、自給自足って最高の贅沢なんですよ。人がおおらかになるためには、農業をやるといいと思うんです。日によっては全くうまくいかない日もあって、たとえば人参の間引きとかって本当に大変なんですよ。一緒に蒔いた三粒の種で競り合って育たないと、1本が上手く育たない・・・。農業というものは、人を哲学者にしたり、雑草のごとく生きる強さを教えてくれるんです。

食べ物によって、人の健康も心も変わっていく

ここ数年は食育関連の仕事が多いですよね。様々な団体が主催する料理イベントとか、食品メーカーの食育担当の方へ講義したり・・・。まさに食は社会を反映しているというか、食べる人と作る人との間に距離が生まれてしまった結果として『食育』が必要になったのでしょう。今見えてきた問題点は、子どもだけでなく、その親、そしてその親(祖父母)にも食育が必要だということです。食育活動をしていると、子どもは素直に「食」の大切さを理解するのですが、一部のお母さんには「食」への知識や体験に乏しい方がいらっしゃるのも事実です。そんなお母さんが子どもに作ったお弁当は、バランスを考えずに子どもが喜ぶものばかりを入れたり、逆に栄養バランスだけを考えて既製の栄養補助食品だったりと、貧しい内容のものが多く残念に思いますね。またお父さん方も、いわゆるメタボの方達に食事指導した時に、生活習慣とともに食生活の改善が必要だと説いたにも関わらず、高カロリーの食事を続けてしまっていたり・・・。結局は、「食べること」をどう考えるかが根本です。食を大切に思うか、二の次三の次にするかで、何を選び、どのように食べるかが違ってくるはずです。生きることは、すなわち食べること。その原点は家庭であり、子どもも大人も自分で食を選択できる能力を身に付けることが大切な時代になってきました。食を通して、その人の生活ばかりではなく、一生が見えてくる。ですから食に対して真摯に向き合って生きていって欲しいですよね。食べることを大切にしている方って、素敵な方が多いような気がしますし・・・。

現代人は、肉や魚、穀類や豆、乳製品など、食品そのものに含まれる油、いわゆる“見えない油”を知らず知らずに摂っている傾向にあります。その一方で、植物油はその料理の美味しさの鍵を握っていて、香りを生かすことのできる大切な調味料ですから、適量を賢く使って欲しいですね。特に若い女性は、摂取している栄養のバランスが悪い人が増えています。今は健康的に過ごせているかもしれませんが、乱れた食生活を続けていると、年齢を重ねていくにつれて問題が発生する可能性が高まります。そういった意味でも、仕事や家事などに忙しい女性達にとって、手軽に取り入れられて、栄養素を効率良く補うことができる植物油は欠かせない存在だと思います。

私の好きな言葉に「食は命なり。運命なり」があります。水野南北という江戸時代中期の頃の観相学の大家で、食べ物を通してその人物の価値観を占って大当たりした方の言葉。運命の吉凶は食で決まることを熱心に説いた方なのですが、私も食べ物によって人の健康も心も変わっていくのではないかと考えています。

プロフィール 本多 京子

本多 京子

実践女子大学食物学科卒業後、早稲田大学教育学部体育生理学教室研究員を経て東京医科大学で博士号を取得。

2007年4月に策定された国民運動「新健康フロンティア戦略」の健康大使。日本体育大学女子短期大学では小児栄養学を担当。

現在NPO日本食育協会並びに日本食育学会理事。プロ野球のほかラグビー、スキー、相撲などのスポーツ選手に対する栄養指導の経験を有する。
またエステティックの専門校講師や日本紅茶協会ティーインストラクター会長なども務める。テレビや雑誌・新聞などの健康や栄養に関するアドバイスやレシピ制作に加えて、自ら出版物の企画を手掛けるなど多忙な毎日を過ごしている。

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