いつまでも元気は、適正な食生活と運動から
2.食生活の変化からなる長寿と食事の関係

●自立高齢者の低栄養予測指標

  老化対策には、病気の治療法は通用しません。したがって,老化が進んでしまった結果として現れる障害をスクリーニングして対応するのではすでに遅く、自立高齢者の老化が加速されることを予測することが重要となります。この考え方に基づいて開発されたのが、自立高齢者の低栄養予測指標です。高齢者が低栄養状態に至らないように予防的介入を必要とする集団を特定するために用いられる指標です。これまで、高齢者の低栄養を予測できるツールはありませんでした。この指標は、血清アルブミン値が4.0g/dL以上の自立高齢者約300名を2年間追跡して開発されました。血清アルブミン値の低下が、平均的な低下の2倍以上の速度で低下することを予測している項目は、次の4項目でした。

    (1) 老研式活動能力指標「手段的自立」の障害(満点は5点,表1の1~5の項目)
    (2)「過去1年間の入院歴」
    (3)「過去1年間の転倒歴」
    (4)「趣味やけいこごとをしないこと(時々する程度ではしないに含める)」

  さらに,これらの項目相互の間には、血清アルブミンを低下させる相乗的効果のあることを確認しました。これらのいずれの項目にも該当しないグループを基準とすると、1項目が該当するグループ及び2項目以上が該当するグループの血清アルブミン低下の相対危険度は,それぞれ約2倍,約7倍となります。転倒歴、入院歴及び「手段的自立」の障害は、身体活動量を抑制する項目です。趣味やけいこごとをしないことは、生活活動量の少ないライフスタイルです。このデータは、高齢期は生活活動量の減少が身体栄養状態の低下を引き起こす原因となることを示しています。この結果は、「栄養改善は静的な生活時間を減らす」ことが重要なことを示しています。アクティブライフがいかに大切であるかがおわかりいただけるでしょう。

  高齢者の主要死因の一つである肺炎のリスクファクターは低栄養です。栄養状態の低下による「老化の加速」は、特に感染症の罹患リスクを高めます。簡易生命表の疾患別死亡確率によると、男女ともに80歳以上層の肺炎死亡確率は、心臓病や脳卒中より高くなっています。そして、男女ともに肺炎による死亡確率のみが高まる傾向にあります。80歳以上の男性が肺炎で死亡することによって失われる平均余命は1.02歳で、見逃せない問題です。高齢者の栄養改善を進めることが、いかに大切であるかということをきちんと認識しなければなりません。肉類、卵、牛乳・乳製品、油脂類も摂取する多様性に富んだ食習慣の普及啓発を急がなければなりません。

  高齢者は,中年期の病気リスクを乗り越えた人生の勝者なのです。したがって、高齢者の健康長寿を実現するためには、疾病予防より老化遅延を保健対策の最優先事項としなければなりません。

  いま、いずれの年齢層においてもメタボリックシンドロームのみが重要視されるような風潮にあります。健やかな高齢化社会の実現のために、本当に何が求められているのかをきちんと把握することが大切であることを知っていただきたいと思います。


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