●地域における介護予防活動への活用
有料老人ホームで行った介入研究では、比較的小さな集団を対象として「高齢者の老化を遅らせるための食生活指針」の有効性を確かめました。これを、地域へと広げた介護予防活動においても同様の効果が期待できるのか否か検証するため、4年間の大規模な地域介入研究を行いました。現在、全国で行われている介護予防事業「一般高齢者施策」の科学的根拠となった研究です。
介入の効果は、明瞭です。図7-1と7-2は、介入地域の肉類と油脂類の摂取頻度の変化を、介入前(1992~1996年:観察研究期間)と介入後(1996~2000年:介入研究期間)で比較しています。介入後は「高齢者の老化を遅らさせるための食生活指針」が地域で広く普及し、実践されたため、これらの摂取頻度が有意に増加しています。介入前の4年間の摂取頻度の減少は老化による変化です。高齢者は、特別の介入を行わない場合には、老化に伴い食品摂取が減少していく様子がわかります。国民健康・栄養調査成績によれば、介入後の期間において肉類や油脂類の摂取量はともに減少することなく同水準で推移しているため、1996年以降の変化は介入効果と考えられます。
【 図7-1 肉類を2日に1回以上食べる人の割合の変化 -N村介入研究 1996年~-
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【 図7-2 油脂類を2日に1回以上食べる人の割合の変化
】
図8は、同様に介入前・後のそれぞれ4年間における血清アルブミンの変化を比較しています。介入前4年間では、血清アルブミンが有意に低下しているのに対し、介入後は有意に増加しています。介入前4年間の低下は老化による変化です。介入後は食品摂取習慣が改善され、栄養状態が向上していることがわかります。この大規模な研究成果からも、筆者らが開発した「高齢者の老化を遅らさせるための食生活指針」が、高齢者の栄養改善に有効なことが実証され、高齢期においても肉類や油脂類が極めて重要な食品群であることが明らかになりました。
肉類や油脂類の摂取が血清コレステロール値の増加を招き、心臓病リスクを危惧する向きがあります。たしかに、この介入研究においても血清総コレステロールの増加が認められました。しかし、高齢期においては、個別疾病の死亡リスクより総死亡リスクを低下させる条件、すなわち、いずれの疾病からも身体を防御できる条件がより重要です。アメリカの有名な研究(文献Kronmalら)は、60歳以降では、血清総コレステロールが高くなるにしたがい総死亡リスクがむしろ低下することを示し、高齢者では血清総コレステロールが高い高齢者ほど健康上有利なことを明らかにしました。私たちが実施した介入研究は、栄養改善が高齢者の総死亡リスクを低下させることも示しています。高齢者の栄養改善は、血清コレステロールに対しても好影響を及ぼすのです。
【 図8 血清アルブミン値の変化 】
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