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  食事中に含まれるコレステロールと血中コレステロールとは分けて考える必要があります。食事からコレステロールを多少多めに摂取しても、虚血性心疾患罹患率を増加させるほどにLDL-コレステロールを増加させることはありませんが、毎日、多量に摂取する場合には、虚血性心疾患や癌の罹患率を増加させる可能性があることから、上限値を設定しています。


コレステロール摂取の下限

 血中総コレステロール値が低い集団(160mg/dl以下)は死亡率が高いという調査結果があります。しかし、これは血中総コレステロール値が低いことが死亡率を高くするのではなく、感染症、癌、肝疾患、気管支炎、胃潰瘍及び貧血の基礎疾患をもった人は総コレステロール値が低くなるので死亡率が高くなると考えられています。低コレステロール血症自体が脳出血などの疾病を発症する可能性は否定できていませんが、低コレステロール血症の人にコレステロール摂取量を増加させると疾病罹患率が減少することも調べられていません。このような理由で、コレステロール摂取目標量の下限値の設定はされていません。


コレステロール摂取の上限

 欧米人対象の研究報告では、コレステロールを多く摂取するとLDL-コレステロール値が上昇することが知られ、虚血性心疾患の罹患率が高まることが懸念されます。

 しかし、欧米人を対象とした大規模コホート研究では、コレステロールや卵の摂取量と虚血性心疾患及び脳卒中の発症率との間には有意な関連は認められていません。

 日本人は欧米人よりも1日当たりのコレステロール摂取量が平均して100mg程度多いことから、摂取量過多による疾病発症のリスクが問題とされます。日本人を対象にした最近の大規模コホート研究では、女性が鶏卵(コレステロールを約250mg含む)を習慣的に多く摂取するほど、血中総コレステロールが増加していたという結果が得られています。また、有意ではないものの、卵を2個/日以上摂取する群(総対象者の上位1.3%)では、卵を1個/日の群に比べ、がん死亡の相対危険が約2倍になるという結果も示されました。さらに、ハワイ在住の日系中年男性を対象とした観察研究では、コレステロール摂取量が“325mg/1000 kcal摂取エネルギー”以上になると虚血性心疾患による死亡率が有意に高まることが認められています。このため、日系中年男性の325mg/1000kcalから求めた値を上限値(目標量)とすることとしました。

 第6次改定「栄養所要量」では、「通常の日本人の食事摂取から、一般にはコレステロールの摂取量を制限する必要はないが、高コレステロール血症体質の人では、コレステロールの摂取量を1日300mg以下に抑えることが望ましい。」とし、一般的な日本人に対しコレステロールの摂取量制限は設けていませんでした。しかし、今回の「摂取基準」では、18歳以上の男に対し750mg、女に対し600mgの上限値を設定し、より厳しい基準としています。これは、飽和脂肪酸ほどには虚血性心疾患の罹患率に影響を及ぼさないものの、多量のコレステロール摂取によりLDL-コレステロール値が増加し、虚血性心疾患の罹患率が増加したり、癌の罹患が増加する可能性があるという考え方によるものです。

 また、高コレステロール血症の人に対しては別項目を設け、高いLDL-コレステロール値は虚血性心疾患罹患の多くの危険因子の一つであることを強調し、他の危険因子を考慮した個人別治療の重要性に言及しています。



 以上のとおり、「日本人の食事摂取基準(2005年版)」のうち、脂質に関する部分の要点を解説しましたが、より詳しく知りたい方には、第一出版(株)から発行されている「食事摂取基準」の本文を読んでいただくことをお奨めします。

 また、摂取基準策定のため、多くの論文のレビューを行いましたが、この本文に文献として記載されている論文は、レビューした論文の一部にすぎません。

 コレステロールに関しては、「コレステロール摂取基準の考え方」(日本栄養・食糧学会誌第58巻第2号、69-83(2005年))に、コレステロール摂取基準策定に用いたすべての論文が記載してありますので、参考にしていただければ幸いです。
PREVMENUNEXT