3.新しい脂質所要量の理解
(2) 質の問題
 飽和(S)(注11)、モノ不飽和(M)、多価不飽和(P)(注12)の比率に関しては、血清コレステロール濃度への影響から、P/S=1が有力な指標とされている。Mについては、その抗酸化性、血清コレステロール濃度への好ましい影響などから、摂取が奨められている。しかし、現実的にはモノ不飽和酸の供給源は限られており(注13)、今回は日本人が摂取している脂質の構成(動物:植物:魚介=4:5:1)から算出して、S:M:P=3:4:3(1:1.3:1)が推奨された。先述のように、実際にはMは1~1。5と読んでも差し支えはない。
 n-6/n-3比の問題は一層やっかいである。近年、個々の脂肪酸の特徴的な生理活性が次第に明らかにされ、十分ではないがそれぞれの脂肪酸の所用量を提示できる下地ができてきている。n-3系多価不飽和脂肪酸(注14)の場合がとくにそうであるが、この問題は慎重に対処しなければならない。表2に示すように、栄養摂取状況に大きな格差がある全世界を対象としたFAO/WHOの推奨を含めて、欧米諸国ではn-6/n-3=4~10あるいは5~10を推奨している。しかし、この値はそれらの国での実状とは整合しないものである。すなわち、これらの国々では現実にはこの比は10あるいはそれ以上であり、4まで下げることは希望であっても実践できないことである。わが国では、過去20年間この比はほぼ一定(約4.2)に保たれ、その間において健康状態にとくに問題もないことなどから、この程度の値で良いであろう、少なくとも悪いという証拠は何もないというもっとも妥当な考えから決められている。それで、誰でも容易に実践できる値であることを特徴としている。しかし、種々の病態に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の有効性と、一般市民の独善的な強い憧れなどを考慮して、「健康人では」という条件を付している。言うまでもなく、病気の治癒に必要な量と所要量とは別の次元の問題であることは理解しておくべきであることを再度強調したい。

注11: 食品中の脂肪酸のうち、不飽和結合を持たないものを飽和脂肪酸と言う。動物性脂肪に多く含まれ、血清コレステロール濃度を上昇させることから、摂取に注意が必要な脂肪酸として、忌避されがちである。しかし、すべての飽和脂肪酸が上昇効果を示すのではな、ミリスチン酸(炭素数16)やパルミチン酸(炭素数16)に注意が必要である。
注12: 多価不飽和脂肪酸は、食事として一定量摂取しなければならない必須脂肪酸でもある。血清コレステロール濃度を低下させる働きがある。植物油に多く含まれていて、代表的なものはリノール酸(n-6系)である。注5を参照のこと。
注13: オレイン酸に代表されるモノ不飽和脂肪酸は食品中に普遍的に存在するが、十分量摂取するためにはかなりの工夫が必要である。オリーブ油やハイオレイックタイプの紅花油・ヒマワリ油、さらにはナタネ油などに多く含まれる。
注14: 注5に説明したように、n-3系多価不飽和脂肪酸には素晴らしい生理機能があるが、機能性はこのグループの個々の脂肪酸でかなり異なっている。したがって、n-3系全体としてだけでなく、個々の脂肪酸の摂取量にも注意が 必要となってくる。
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