3.新しい脂質所要量の理解
(1) 量の問題
 脂質の必要性は理論的には必須脂肪酸としてだけであり、その量は多めに見積もってもエネルギー比で3%(量として約8g)を越えることはない。しかし実際にはエネルギー比で26%強(約60g)を摂取している。この大きなギャップを埋めるには特別の考慮が必要である。必須脂肪酸が不足しないために必要な量を概算してみると、脂質エネルギー比はおよそ13%と計算される。日本人の脂質摂取量の年次変化と脳出血の低下、感染症の減少、そして平均余命の延長との関係などを勘案すると、この13%という値は決して健康的な摂取量とはいえない。疫学研究の結果もエネルギー比15%以上がより健康的に安全であることを指摘(注7)している。脂質の摂取量が低下すると、糖質の摂取割合が増し、血清トリグリセリドの上昇をもたらす(注8)可能性が大きい。また、食塩の摂取量が増し、逆にカルシウムの摂取は減少する傾向は、世界の栄養摂取状況の比較からも十分読みとれる。そこで、現在の食生活をも考慮して、下限値としてエネルギー比20%が決められた。
 一方、上限値については、一般にエネルギー比30%以上になると心疾患や肥満の増加、耐糖能異常(注9)、高脂血症の増加などをみるようになる。沖縄県におけるように、28%を超える脂質を摂取していても平均余命が長い地域もあるが、日本人の体質素因を考慮すれば上限値としてはエネルギー比25%が妥当とみなされる。少なくとも、血清コレステロール(注10)に関しては、この値は推奨できる。
注7: 脂肪摂取の下限を決めるのは難しいが、15エネルギー%程度の摂取では健康維持が難しいことは、1965年頃の日本人の健康状態を思い浮かべれば理解できよう。
注8: われわれは生活活動に応じたエネルギー(カロリー)を毎日摂取しなければならないので、脂肪の摂取量が少なくなると、当然糖質(炭水化物)の摂取量が多くなる。そのような食事では、体内でのトリグリセリド(脂肪)合成が盛んとなり、血清中のトリグリセリド濃度が高くなる。高トリグリセリド血症もまた動脈硬化の危険因子である。
注9: 血糖(グルコース)はいろんな臓器・組織にとって重要なエネルギー源であり、インスリンと呼ばれるホルモンの助けを借りて細胞内に取り込み利用している。このグルコース処理能力に異常が生じた状態を耐糖能異常と言う。糖尿病の危険信号である。
注10: 血清コレステロール濃度が高い場合には、薬物療法に先立って食事の脂肪量を減らすこと奨められ、米国ではまず30エネルギー%に、それでも効果が認められないときには25エネルギー%にまで下げることが奨められている。
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