印刷インキの歴史は、印刷技術の発展と並行しています。1450年ごろ、ドイツのヨハネス・グーテンベルクが活版印刷技術を開発しました。この発明は、「火薬」、「羅針盤」とともにルネサンス三大発明の一つと位置付けられています。グーテンベルクの発明の優れた点は、活版印刷に求められる次のすべての技術を体系的に作り上げたことでした。
- ① 両面刷りのできる活版印刷機、
- ② 鉛と錫の合金の活字
- ③ 大量の活字を製造する技術。
- ④ 連続印刷に耐える油性の印刷インキ
このうち、本稿の主題である印刷インキは、「油煤にアマニ油を混ぜたもの」と推測され、製造法は定かではありませんが、今日の印刷インキと基本は変わらないものであったとされています。
活版印刷技術の発明は、それまで模写でしか得られなかった高価な聖書や書籍を大衆に広げ、当時のヨーロッパの知的文化の向上に貢献するものでした。特に聖書は、教会に備えられた高価な複写しか目にすることができなかった人々(それも限られた階級の)は、印刷技術の開発により聖書に身近に接することができるようになりました。とはいえ、グーテンベルクが印刷・発行した聖書は、大衆の手に届くにはまだまだ高価なものであったようです。
しかし、印刷された聖書が広範に出回ることによってキリスト教の教義を多くの人が理解するところとなり、その後の宗教改革をもたらす力の基となったことは、慧眼のグーテンベルクにも予期できなかったことかもしれません。そして、聖書だけではなく多くの文書が印刷され、普及できるようになったことは、ルネサンスの進展に大きく貢献するものでもありました。
図1 グーテンベルクの肖像
資料:ウィキぺディア コモンズ
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