(1)効果的な栄養素の組み合わせ
体内時計は24時間より少し(およそ30分)ずれているので、ヒトを含む動物では24時間に合わせるために、外界の光刺激に合わせて体内時計をリセットしています(図2参照)。しかし最近の研究によれば、給餌の繰り返しの刺激によって末梢臓器の体内時計がリセットされることが確認され、光刺激による視交叉上核を介さない別のシステムでリセットされることがあることが明らかになってきました(図3参照)。
これまでの研究で、夜行性であるマウスに日中に摂餌させた場合、肝臓の体内時計の位相が変化する作用は食餌の量と摂餌回数によって影響され、食餌内容のグルセミックインデックス値(血糖上昇指数)が高いほどリセットしやすいことがわかっています。またグルコース単独では肝臓の時計のリセット効果は弱く、グルコースとカゼインなど複数の栄養素の組み合わせの方が効果的で、マウスに与える餌としては栄養素を組み合わせた複合飼料であるAIN-93Mが一番効果的でした。つまりバランスの良い餌を与える食餌ほど体内時計のリセット効果が高いことが分かりました。
*グルセミックインデックス値(血糖上昇指数)とは、炭水化物を摂取した場合の血糖値の上昇の程度を、 基準となる栄養素(ブドウ糖)と比較した場合の指数のこと。
(2)長い絶食時間後の食餌の体内時計リセット効果
マウスは一般的には夜間に餌を食べ続けるのですが、よく観察すると、夜間の始め(ヒトの朝食に相当します)に多く食べ、また夜間の終わり頃(ヒトの夕食)に少し多めに食べるという行動をとります。そこでヒトの食生活を意識し、マウスに1日2回の給餌を行ってみました。まず1日1回の給餌を3時間おきに行ったところ、設定した給餌時刻に従って肝臓の時計遺伝子がリセットされました。つまり1日1回の食餌の場合では、どのような時間であっても体内時計をリセットさせる能力を有することが分かります。
次に1日2食で給餌間隔を変えて(16時間と8時間)実験を行ってみました。ヒトの場合、朝食は夕食に比較し、長い絶食の後に食べることとなります。ちなみに英語のbreakfastとは、絶食を断つ最初の食事という意味です。この給餌実験では、16時間空けて食べる食餌を朝食、8時間空けて食べる食餌を夕食としました。その結果1日2食で食餌総量が同じである場合には、短い絶食を空けた食餌(8時間絶食、ヒトの夕食に相当)よりも長い絶食を空けた食餌(16時間絶食、ヒトの朝食に相当)の方が体内時計がリセットされやすいことが分かりました。
また朝食のウエイトを変化させた給餌を行った場合、朝食のウエイトが低い場合でも朝食後に体内時計がリセットされましたが、朝食のウエイトをさらに低くすると、今度は夕食後にリセットするという結果が得られました。このリセット作用には、インスリンの分泌が重要であることが分かっています。
これらの実験結果と、3に述べました食事の取り方と肥満の研究結果とを合わせて考えると、朝食にウエイトを置いた食餌は体内時計のリセットと、肥満防止という二つの観点から是非実行したい食餌行動であると言えるでしょう。
【 図3 体内時計の模式図と同調刺激の種類 】
体内時計は多層構造からなる。概日リズムを日内リズムに同調する刺激として光と食事があげられる。食事性同調には、視交叉上核は不要である。
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(3)夜遅い食事は体内時計を狂わせる
次に1日に3食を給餌することとして、餌を与える間隔を変える実験を行いました。朝食・昼食・夕食を給餌するグループで、夕食の時刻を夕方6時から、10時、11時と遅らせるにしたがって肝臓の体内時計遺伝子のピークが遅い方向に引っ張られることが観察されました。そこで夕食の餌の半分を夕方6時に与え、残り半分を11時に与えるようにしたところ、肝臓の体内時計遺伝子のピークは夕方6時に夕食を与えるグループのそれに近づき、異常が解消されるようになりました。このことから肝臓の時計遺伝子発現リズムの位相は、夕食を摂る時間帯によっても変化することが分かり、夜遅くに摂る食事が体内時計を狂わす原因になることが確認できました。
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