需給の逼迫感は、大豆の国際価格の上昇を招きます。世界の大豆価格を主導するシカゴ商品取引所の大豆価格は、南米の作柄悪化が伝えられた時期から徐々に上昇に転じ、6月には1ブッシェル当たり14ドルを超える水準に達し、その後瞬く間に16ドルを超え、7月には17ドルを超えて2008年に記録した史上最高値を一挙に更新することとなりました。
2008年の農産物国際価格の高騰は、記憶に新しいところですが、今年の価格上昇は、2008年とは明らかに様相が異なるものとなっています。
2008年は大豆の生産は南北アメリカとも順調であり、貿易量も拡大しましたが、中国の菜種の減産、ヨーロッパのヒマワリ種子の減産などにより油糧種子全体の生産量が単年度の需要量を下回ることとなりました。しかし大豆はじめ油糧種子の価格を押し上げたのは、需給よりも投機資金の商品市場への流入がより大きい要因となりました。世界的に信用不安が広がる中で、行き場を失った投機資金が金融市場から商品市場に流れ込み、先ず石油の価格を押し上げ、次いでバイオディーゼルの普及で石油との関連性を深めていた植物油脂とその原料である油糧種子の価格を押し上げました。しかし一方ではリーマンショックに起因する世界的な経済停滞が進む中で食料をはじめとする消費の収縮が懸念され、危険を感じ取った投機資金は商品市場から一斉に引き揚げ、価格が急落することとなりました。
これに対し今年の価格高騰は、投機資金の動きも否定できませんが、大豆の減産情報による需給逼迫が基本要因となっています。シカゴの大豆価格は、7月18日にそれまでの最高値であった16.58ドル/ブッシェル(2008年7月3日、終値)を更新する16.83ドル/ブッシェルを記録したのち、翌日には17ドルを超え、7月20日に17.57ドル/ブッシェルの最高値を記録しました。その後、行き過ぎの是正がありましたが、アメリカの干ばつ被害が拡大する情報が伝えられるに伴い、8月には再び17ドル台を超え、8月30日には17.70ドルと最高値記録を更新し、さらに上昇する気配を見せています(図5参照)。
アメリカの干ばつ被害は既に述べたような状態にあり、作柄の若干の改善が期待できるとしても市場に与えるインパクトは弱く、このような大豆価格の高値は南米の播種状況が伝えられるまで続くものと見込まれます。世界の他の油糧種子市場は、大豆に追随して動きます。我が国で最も生産量の多い菜種油の原料である菜種は、主要供給国であるカナダが大増産にあるにもかかわらず、大豆価格の高騰に追随して高値を続け、「豊作の中の高値」という矛盾を生じています(植物油INFORMATION第82号)参照。
【 図5 シカゴ商品取引所の大豆価格の推移 】
資料:シカゴ商品取引所における大豆先物価格(期近もの)のセツルメント価格
注:2008年と2012年では営業日が異なるため、2つの間の月日は一致しない |
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