平成22年も挑戦は続けられます。2年目の事業推進をどうするのか、寺嶋さん達は頭をひねります。種子を蒔き、子実を収穫し、油を絞るだけで参加者が満足しないことははっきりしていました。受け身で文化や歴史の話を聞くだけでは満足できないことも見えてきました。
「エゴマを丸ごと分からなあかん。」 ここでも京都の女性の大胆さが前進の力になります。「行政で考えたらあかん。町の人に考えてもらお」。人々の感動を推進力にするための結論がこれでした。
「荏胡麻丸ごと体験事業」と銘打って、会合の時間と場所を設定しましたが、後は参加者の自主性に任せます。“丸ごと体験”の議論は「たべものクラブ」「アロマクラブ」「エコライフクラブ」「文化歴史クラブ」を誕生させました。エゴマという一つの農作物を起点に、人々の思いが様々な分野に広がった結果でした。“エゴマは油の原料”とするのでなく、エゴマという素材を軸に人々の想像力を広げていくのが、このプロジェクトの本当の狙いだったのかもしれません。エゴマを素材に“生活丸ごと体験”を実行しようとしたのです。
昨年の経験を基礎にエゴマ栽培の苦労が繰り返されましたが、この年の夏は記録的な灼熱地獄。炎天下の作業は何時にもまして大変でしたが、“日焼けも美人の条件”と割り切れば、炎天下の作業に参加することへのためらいが吹っ切れました。参加者は黙々と作業を続け、そして収穫の時期を迎えます。
【 図5 炎天下の農作業二題 】
5-1 8月のマルチかけ
5-2 9月の追肥
資料:「エゴマ油復活プロジェクト、平成22年の記録」から
油を絞るだけではおもしろくないという意見は、歴史に倣って灯明を灯してみようとなり、それなら灯明皿と行灯の製作も自前でやろうと発展していきます。エゴマ栽培がいつの間にか陶芸教室、木工教室にまで広がります。行灯作りには伝統の染料“べんがら”が用いられます。京都の民家を彩る伝統の“べんがら”を塗るのにもエゴマ油が利用され、また一つ知識が増えました。知識の広がりは人々の好奇心を掻き立て、前進の力になっていきます。
【 図6 楽しいときは、みんな子供になります 】
6-1 木工教室 行灯作り
6-2 灯明皿作り
資料:図5に同じ
11月末、待ちに待った油を絞る日が再びやってきました。「こんな小さな実から油が絞れるのか?」という疑問は、最初の一滴が出てきたときの歓声に変わります。大人も子供も、自然の持つ力に圧倒されたと言ってもいいでしょう。プロジェクトに参加したことの喜びが溢れる瞬間でもありました。
2年目の戦果は、エゴマ子実が約6kg、このうち2.3kgを搾油して500mlのエゴマ油が得られました。残りの子実は食べ物クラブなどで利用しました。子実だけではなく、葉を佃煮にしたり、お茶の葉の代わりに利用することにも挑戦します。アロマテラピーには、油だけではなく葉や茎の香りの利用を考案する努力が続けられます。エゴマ油で石鹸作りへの挑戦や間伐材で作った木工品にエゴマ油を塗って仕上げるだけでなく、栽培期間を通じて自然の力を学ぶことがエコライフの考え方につながります。
【 図7 油が出てくるぞ! 】
―沸き上がる歓声と拍手―
資料:図5に同じ
そして12月5日、離宮八幡宮の階段に並べられた多くの手製の行灯と石灯籠とに灯がともされました。幽玄の灯火に一斉に上がる感動の声は、寺嶋さん達の1年の苦労を補ってあまりあるものでした。
「さあ来年はどないしよう。来年になって考えたらええわ」。こんなつぶやきが出たかどうか、確かではありません。
【 図8 幽玄の灯りと童女 】
資料:図5に同じ
寺嶋さんにはすばらしい仲間がいます。離宮八幡宮の神官(禰宜)津田定豊・庸子ご夫妻も寺嶋さんの心強い協力者。そして各クラブの責任者の皆様も大切な協力者です。「町の人の仲が良くなったのが成果です」との言葉が示すとおり、気負いも成果を誇ることもない姿が多くの協力者を作り出していきました。そして仕掛け人自身も一人の参加者に変貌していきます。
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