さて本題の、そうめんと植物油の出会いです。
そうめんとは、うどんのように薄くのばしためん板を切るのではなく、小麦粉に含まれるグルテンの弾力性を活用して、“撚り(より)”をかけた1本のめん紐(線)を限りなく細くのばして作られる麺です。ここに植物油との出会いがありました。
そうめんは製造法によって名称が変わりますが、伝統的そうめんである手延べそうめんについて、JAS法は、「小麦粉を原料とし、これに食塩、水等を加えて練り合わせた後、食用植物油、でん粉、小麦粉を塗付してよりをかけながら順次引き延ばしてめんとし、乾燥したものであって、製めんの工程において熟成が行われたものであり、かつ小引き工程又は門干し工程においてめん線を引き延ばす行為を手作業により行うもの」と製造法を定義しています。機械製乾めんとの大きな違いは、仕上げの工程が手作業であることと、生地を次第に引き延ばしてめんとしていく各工程で熟成が繰り返し行われることにあります。そして植物油が用いられていることが必要です。手延べそうめんは、もともとはすべての工程が文字通り人手によって行なわれていましたが、最近は一部の工程の機械化が進み量産化が図られるようになりました。
【 図5 手延べそうめんの製造工程(基本例) 】
―工程で何度も熟成を繰り返します―
日数 |
製造工程 |
熟成に要する時間 |
1日目 |
原材料の仕入れ
捏前(こねまえ)作業(捏ね機)
板切(いたきり)作業(板切機)
油返し熟成 (手作業)
細目(ほそめ)作業 (細目機)
熟成
小撚(こより)作業 (小撚機)
熟成
掛巻(かけまき)作業 (手作業)
熟成
小引(こびき)作業 (手作業)
熟成 |
2~3時間
1時間
1時間
1時間
13時間 |
2日目 |
門干し作業 (手作業)
屋外乾燥作業 (手作業)
切断作業
結束・箱詰 (結束機) |
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提供:全国乾麺協同組合連合会
手延べそうめん製造の特徴は、図5に示したとおり製造工程で熟成を繰り返すことにあります。しかし熟成作業を十数回も繰り返すため、製造に一日以上の時間を必要とすることになります。その過程でめんの表面が乾燥して延ばすことができないという問題が発生します。この問題を解決するため、先人たちは植物油を利用したのです。
手延べそうめんの製造工程の一つに、油返しという工程があります。これは、めんの表面に食用油(総重量の約1%程度)を塗りながら細く引き延ばしていく工程です。油返しを行うのは、めん表面の乾燥を防ぎ、めん同士の付着を防ぎ、そしてそうめんに独特の風味を与えるためです。つまり植物油を塗ることが乾燥や付着を避けるだけではなく、表面が空気に触れることなく時間をかけて熟成させる効果を生むことになります。また食塩とともに長期の保存におけるめんの変質を防止し、ゆでたときにしっかりと形を保ち、歯切れのよい食味を出すことができるようになります。
【 図6 油返しの工程 】
―植物油を塗りながらめんを延ばします―
油返しに用いる植物油は一般に綿実油が多いのですが、産地によってごま油を使用することもあります。綿実油が多く用いられる理由は、融点が高く、安定性(酸化しにくい)が高く、風味がさっぱりしていて油臭さがないことにあります。無論、価格がほどほどであることも経営上重要な要素になっています。
もっとも、我が国で綿実油が製造されるようになった歴史は浅く、手延べそうめんに綿実油が用いられるようになったのは、日本でも綿花生産が盛んとなり、綿実油生産が行われるようになった明治期からで、それ以前は主としてごま油、クルミ油、カヤ油などが使われていたようです。これらの国産原料が姿を消し、国産原料の綿実油から輸入原料の綿実油へと変化を遂げつつ、手延べそうめんの伝統が守られてきました。
綿実油以外の植物油では、小豆島などのそうめんでは、ごま油やオリーブ油を使用したものもありますが、価格が高いことからあまり一般的とはいえないようです。
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