「日本人の食事摂取基準(2020年版)」脂溶性ビタミンについて

2.日本人の食事摂取基準(2020年版脂溶性ビタミンについて)

安田 柊

 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において、脂溶性ビタミンのうち大きな改定があったのは、ビタミンDである。
 ビタミンDの大きな特徴は、経口摂取のみならず、皮膚でその多くが産生されることである。摂取と皮膚での産生によって、生体内に取り込まれたビタミンDは、肝臓で25水酸化ビタミンD[25(OH)D]に変換されるが、この血中濃度は経口および皮膚での産生によるビタミンD量を反映し、血中半減期も長いことから、ビタミンD栄養状態の最も良い指標として用いられている。

岸野 重信

 これまで、ビタミンDの目安量は、「血清副甲状腺ホルモン濃度(ビタミンD不足により上昇し、骨吸収を促進)が上昇しない血中25(OH)D濃度の20ng/mLを維持できるような摂取量」として5.5µg/日が算定されていた。ただし、これには大きな問題が存在する。1点目は、血中濃度と摂取量のデータが異なる集団から得られたものを使用していることである。具体的には、血中25(OH)D濃度の平均値が20ng/mL以上であった性・年齢区分の国民健康・栄養調査におけるビタミンD摂取中央値が用いられている。2点目は、ビタミンDは、年齢を問わず大半の日本人において不足・欠乏しており、20ng/mLを下回る者は40~50%程度存在することである。すなわち、国民健康・栄養調査の対象者も半数程度はビタミンDが欠乏している可能性が考えられる。「目安量」とは、「特定の集団において、ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量」、すなわち特定の集団において不足状態を示す人がほとんど観察されない量と定義されている。そうすると国民健康・栄養調査のビタミンD摂取中央値を用いた場合、目安用の概念との矛盾が生じる。そこで、2020年版では算定根拠の大幅な見直しが図られた。

安田 柊

 2020年版で参考にされたのが、アメリカ・カナダの食事摂取基準である。ここでは、日照が全くない状況下(アラスカの冬季)において、骨折予防に対して最大効果を示す血清25(OH)D濃度20ng/mLを維持できるビタミンDの推奨量として、70歳以下に対し15µg/日とされている。これを日本人に適応するため、日照により最低限産生されると考えられるビタミンD量(札幌の冬季で5.0µg/日の産生と想定)を加味し、10µg/日を摂取で補うことが考えられた。ただし、食事摂取基準では実現可能性を考慮する必要があり、現在の日本人のビタミンD摂取量を把握する必要がある。ビタミンDは、総摂取量の約80%が魚貝類に由来するため、摂取量の日間変動が非常に大きい特徴をもつ。その際、1日限りの調査であり、かつ過度の過小申告の可能性を含む国民健康・栄養調査のデータを参考にするのは妥当ではない。そこで、比較的丁寧な方法で行われた、4季節4日間(合計16日間)の食事調査のデータを用いたところ、現在の日本人のビタミンD摂取量が8.3µg/日程度と算出されたため、値を丸めて8.5µg/日を目安量とした。ただし、表の脚注に、「ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である。」とも言及されている。つまり、ビタミンD不足のリスクが高ければ、より多く摂取する必要がある。我々は運動習慣や日照曝露の状況、日焼け止めの使用、魚類の摂取を質問項目に含むビタミンD不足リスクの簡易質問票(VDDQ-J)を開発したのでこちらも活用して頂きつつ、今後、より適切なビタミンD摂取量を算定するために、日本人における日照曝露時間やビタミンDの習慣的摂取量及び血清25(OH)D濃度の相互関係を明らかにするような研究を進める必要があるものと思われる。

PREVMENUNEXT