動脈硬化性疾患の予防と治療には、食事を含めた生活習慣の是正が基本である。周知の通り、食事療法は薬物療法に比べて介入試験が困難で、ランダム化比較試験とコホート研究との結果の相違もあり、明確にできていない点が多い。しかし、長年の多くの臨床研究を踏まえ、個々の患者の病態とライフスタイルを把握して食事内容を考え、その効果を適時評価し調整することが大切である。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」および「脂質異常症診療ガイド2018年板」の食事療法の項では、脂質を中心にシステマティック・レビューの方法で、日本人に適応できるもの、外来で実際に用いられるものを作成した。また、「日本人の食事摂取基準2020年版」では、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」をふまえた内容になっている。
治療には、これまでの生化学および生理学的な脂質代謝の知見をふまえ、臨床的に様々な脂肪酸やコレステロールなどの摂取過剰あるいは制限で、明らかにされている効果や不明である点を知ることが必要である。しかし、食事と血清脂質の関係では、多くの誤解が生じている。まず個人差は大きいものの、食事でLDLコレステロール(LDL-C)はおよそ7~13%あるいはそれ以上変動する。多くのエビデンスによって、LDL-Cが高い人はコレステロールも飽和脂肪酸も過剰摂取は避けることが推奨され、正常の方でも過剰摂取が続けば数値は上昇してくるので注意する。
一部の神経細胞を除き身体全体でコレステロールは合成され、肝臓はおよそ10%ほどである。肝臓は、むしろ、LDL受容体その他を介して血清中のコレステロールの調節(出し入れ)を70%担っている。カイロミクロン、VLDL、LDL、HDLなどのリポ蛋白は臓器間の脂質のやりとりを担っており、リポ蛋白が血管壁に侵入・沈着して、エネルギー源にならないコレステロールが蓄積することにより粥状動脈硬化を引き起こす。食事は一般に300mg/日ほどのコレステロールを摂取し、身体全体で600~1,200mg/日合成されているが、肝臓でコレステロールから作られる胆汁酸は3g/日合成され、腸管循環によって再利用されている。すなわち、食事摂取量が全体と比べて少ないから食事は影響しないという単純なものではない。また不飽和脂肪酸もLDL-Cを減らすというのは、同等エネルギーの飽和脂肪酸や炭水化物と比較してという話であり、摂取過剰は控えるべきである。
総じて、食事療法では、LDL-C血症では、総エネルギー摂取量を適正に管理し、飽和脂肪酸、コレステロール、トランス脂肪酸の摂取を減らす。高トリグリセライド血症では適正体重を維持する、または目指すように総エネルギー摂取量を考慮し、炭水化物エネルギー比率をやや低めにし、アルコールの過剰摂取を制限する。管理栄養士が中心となって、個々の身体活動量や病態、栄養状態を把握して適正な栄養食事指導をプランニングすることが理想であるが、モチベーションの維持・向上とともに、指導を受ける側に分かりやすい内容で、継続できる食事パターンと療法となるように考慮する必要がある。
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