菜種生産の限界に挑むカナダ

2.会議のポイント

今回の会議には、日本の農林水産省やカナダ政府農務・農産食品省をはじめ、日本の製油メーカー、商社、カナダの輸出業者、カナダ菜種協会(CCC)、日本植物油協会、油糧輸出入協議会等の多くの関係者が参加しました。日本側の団長は、日本植物油協会国際部会の小池賢二部会長、油糧輸出入協議会雑原料委員長の原尚敬副団長、一方のカナダ側の団長は、Mr. Tracy Lussier (Louis Dreyfus Commodities)でした。会議冒頭に、両国団長(Delegation Leader)より開会の挨拶及び団員の紹介が行われました。まず、Tracy Lussier 団長は、今年は、2025年を目標とする10カ年計画である“Keep it coming”を策定、生産量2,600万tを目指しているが、この計画の成功には、日本市場が重要であると強調しました。また、今年のカナダの生産農家は、作付の段階から困難な状況でのスタートとなったことや、カナダの生産農家は、生産のための必要な投資を行っているが、需要に見合った高品質のキャノーラを生産するためは、今後の数週間が勝負となっているとし、今回の会議で、現在および将来に焦点があてられるが、これまで同様、課題に正面から取り組むことが大事であるとの発言がありました。
一方、小池団長は、CCCが“Keep it coming”を策定し、野心的な目標を設定するなどの日本サイドに勇気を与えたことを評価するとともに、今年は、バンクーバーへの輸送貨車や輸出エレベーターの能力が限界となり、調達に支障が生じる状況となったことを指摘しました。そして、日加菜種協議会を通じたCCC等の努力もあり、物流全般のサプライチェーンの円滑化を目指す“Fair Rail for Grain Famers Act”が制定されたことから、今後の輸送の円滑化の状況を注深く見守っているとして、これまで長年に渡って築いてきた両国の信頼関係に基づき、引き続き、高品質なカナダ菜種の合理的価格での安定供給が十分確保されることへの期待を表明しました。
以下、会議の内容、ポイントを議題に沿って説明していきます。((1)、(4)は、日本側の説明、(2)、(3)、(5)はカナダ側の説明の要約です。)

(1)2014年における日本の油脂及び油糧種子市場の展望(Outlook of Oilseeds and Oils Market in Japan 2014)

2014年の植物油の需要の見通しについては、国内消費量も底を打った感があり、景気の回復基調の中で若干回復すると見込まれることから、全体として2013年より増加し、235万1千tが見込まれています。一方、供給も、需要を反映して国内生産量もやや回復することから、2013年をやや上回る246万6千tが見込まれます。現段階(今年1~5月)の供給実績は、2013年と比べて国内生産量は、1.9%増加する見込みです。また、菜種油の今年1~5月の生産実績は2013年より0.5%増となっていますが、2014年の菜種の需要については、年間を通じてみれば、2013年と同程度の240万tが見込まれるところです。2014年の菜種の輸入については、現段階(1~5月)でカナダからの菜種の輸入量は、前年同月比15.7%減少、オーストラリアからの輸入が12.8%増加しており、年間を通じてみれば、全体で240万t程度となる見通しとなっています。一方、菜種ミールの2014年の需要見通しに関しては、2013年を0.7%下回る139万2千tが見込まれ、供給は、2013年と同程度の146万tと見通されています。

(2) 2014年産菜種の作柄に関する生産農家の見解(Canola Farmers Perspective on 2014 Crop)

2013年産の菜種は、1,790万tの生産となりましたが、すでに収穫され、現在、よい状態で保管されています。旧穀の有り余る生産を受けて農家は貯蔵施設の不足のため、保管施設等に新たな投資を行うとともに、グレインバック等を活用しているところです。2013/14年のキャノーラの輸送に関しては、農家は出荷したくても、生産地エレベーターが一杯となり出荷出来ない状態が継続したこともあり、2014年5月、菜種生産者協会(CCGA)はカナダ運輸庁に対して、鉄道2社(CN及びCP)が輸送業者としての義務を果たさなかったことに関して、サービスレベルに関する不服申し立てを行い、現在、継続審議中です。結論を得るのには数か月かかるとみられます。

表紙

2014/15年は、積雪、低温湿潤の厳しい気象条件下での作付となり、サスカチュワンの南東部・マニトバなど一部には作付できない地域も生じています。播種後の洪水の影響は、現段階で不明ですが、これを免れた地域の生育状況は良好です。現時点における2014/15年のキャノーラの生育環境は、バラエティに富んでいます。現在、開花の時期に入っていますが、日中は晴れて、夜は涼しくなることが望まれています。農家はアワヨウトウ幼虫などの生育後期の病虫害発生防止に努めているところですが、昨年の大豊作の結果、土壌栄養が不足しており、施肥等の対応にも努力を傾注しているところです。
2014/15年は、旧穀の繰越在庫を良好に保つことに留意していますが、旧穀在庫が保管能力を圧迫しており、今後の出荷動向にも左右されるところです。
2014/15年のキャノーラに関するカナダ農家の懸念は、農家レベルの貯蔵能力と、引き続き輸送能力の問題です。

(3)2014/15カナダ産菜種の需給展望について(Canadian Supply and Demand Situation 2014/15)

2013/14年のカナダ菜種生産は、面積は対前年減でしたが単収の増加で1,790万tの記録的大増産となりました。
一方、2014/15年は、雪解けが遅く、低温湿潤の天候下で作付開始は遅れ、サスカチュワン州を始め作付進捗は、平年ベースに比較して遅れ気味で推移していましたが、その後、作付作業は急ピッチで進展し、6月中旬には、ほぼ平年並みで終了しました。しかし、6月下旬から7月初旬にかけてサスカチュワン州の東南部を中心に豪雨があり、洪水も発生したことから、その影響が懸念されるところです。

表紙

こうしたことを踏まえ、今年の単収は34.3㌴/㌈、収穫面積を19.97百万㌴(対前年比1.3%減)と想定し、生産は1,518万tと推計したところです。この生産量に昨年からの持越し在庫252万t(昨年59万t)に輸入を加えた1,778万t(対前年比5.3%減)が供給量として推定されました。これに対して、需要は、国内搾油が766万t(対前年比7%増)、輸出は862万t(対前年比1.8%減)と見込まれることから、需要合計は1,660万t(対前年比2.1%増)となることが想定されました。
この結果、在庫水準は当初推定より減少、118万t(前年252万t)となり、在庫率も7.12%(前年15.52%)まで低下すると見通されています。

表紙

(4) 2014年前半に日本に輸入された菜種の品質について(Quality Analysis on Imported Canola from Canada in the 1st half of 2014)

今年前半までの、カナダ菜種の品質に関して、まず、水分は近年一貫して低下し好ましいものになっています。油分は、2009年以降確実に上昇してきたところですが、昨年は、一転して低下しました。これに対して、今年前半の平均値は44.4%で、過去10年間の平均よりやや高いレベルとなっているところですが、2011年産のように平均油分45%程度をほぼ達成していたものに対しては、まだ若干低い状況です。

表紙

たんぱく質の含有量を窒素でみると、今年の数値は3.21%と、過去10年間の平均値レベルより低い値となっています。クロロフィルの含有量は、過去3年20ppm程度の高い数字が続いて精製コストにインパクトとなっています。
2013年産は平均で14.3ppmと現在まで低い値で推移しています。クロロフィルの低減は精製コストでの負荷が低減されることから、大変好ましく、今後とも継続的に低減する取り組みが期待されるところです。酸価(AV)のデータは0.84と、この3年間とも低い値。過去10年間の平均が1.20であることからすれば、大変良好な品質。よう素価は、今年の平均は112で、過去10年で最低の値。昨年の本協議において、オレイン酸、リノレン酸は品質改善のターゲットになっていないとのことからして、今後もこの面で安定的な品質が保たれると考えています。全体として、今年度の入港原料の分析値においては、カナダ側レポートと大変良く一致しているところです。

(5)カナダ搾油産業の変化、品質分析(Changes in the Canadian Crush Industry :Quality Analysis)

カナダにおける搾油工場は、全体で14ありますが、このうち最大はBUNGEの5、ADMが2、CARGILLが2、RICHARDSONが2、GRENCOREが1となっています。今後のカナダ菜種の搾油に関する展開を考える場合、カナダ菜種を搾油する米国の搾油プラントは、現在200万tの能力を持っていますが、こうした動向も視野に入れることも重要です。カナダ全体の年間搾油能力と実績は共に拡大しつつあり全体としてカナダの搾油能力は2016年には1,050万t程度となる見込みです。この結果、2015年には会社別シェアで、BUNGEの29%に変化はありませんが、CARGILLが前年の16%から21%にシェアを拡大させています。2025年には、国内搾油1,400万t、輸出1,200万tの目標が設定されています。

(6)最近のカナダ物流動静 (Update on Canadian Canola Market:Transportation,Logistics)

現在のカナダの鉄道路線は、カナディアン・パシフィック(CP;総延長22,500㎞)、カナダ・ナショナル(CN;総延長32,800㎞)の2本で、いずれもカナダ政府による規制下にあります。全部で穀物用の貨車は21,000車両あり、ピーク時の鉄道車両平均は週あたりの9,000車、冬期間は6,500~8,000の車の稼働範囲にあります。厳しい冬の環境下、サスカチュワン州の中心からバンクーバーまで1,600km、サンダーベイ(オンタリオ)へ1,300kmも離れている状況に、カナダの穀物輸送は挑戦しなくてはなりません。全体の穀物の5割程度は、バンクーバー港を利用しています。カナダの鉄道輸送の問題を回避するため、米国へのトラック輸送が拡大したことにも留意が必要です。港湾能力のキャバシティは一定確保されており、問題は、鉄道輸送にあります。2014年冬には、鉄道会社の出荷が1.5ヶ月遅れたことや、週当たり8,300車程度だったものが7,000車に低下しました。こうした事態を踏まえ、カナダ政府は車両供給(50万t;各社5,500車両相当)を増加させる指示を出すとともに、不履行に対する罰金を科すこととし、各社からその実施状況を報告させることを決定しました。また、カナダ政府は“Fair Rail for Grain Farmers Act”(穀物農家のための公正レール法)を成立させましたが、この法律は、各鉄道会社に対して、加工品を含む穀物を一週間最低50万t輸送する義務をかけるもので、2年間の時限立法(サンセット条項)として構成されています。

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