新しい菜種生産拡大計画は “Keep It Coming” と命名され、2014年がその実行の初年度となります。計画を「目標を引き寄せよう」と仮訳しますが、カナダの菜種関係者があらゆる力を結集して、目標を引き寄せる努力を継続するという決意を示しています。
まず、その概要を一覧表にしてお示ししましょう。
【 表3 新菜種生産拡大計画 “Keep It Coming” の概要 】
資料:カナダ菜種協会ウェブサイトから
高い生産目標
まず、”Great Growth 2015” に対して1,100万トンの増加を目指す2,600万トンという高い生産目標を据えた背景は、どのようなものなのでしょうか。これについては詳細には記されていませんが、次のような事情が背景にあります。
- ① アメリカにおいて菜種油が健康の維持に寄与すると表示することが認められて以来、アメリカにおける菜種油消費が増加し、これに伴って、同国向けにカナダの菜種と菜種油の輸出が急増していること。
- ② アメリカにおけるトランス脂肪酸を巡る論議を背景として、部分水素添加油脂に代わり、酸化安定性の高い菜種油の需要が一層高まるとの認識があること。そのことは、高オレイン酸形質を有する品種の生産を一層拡大するとの目標で明らかにされています。
- ③ EUにおいて、菜種油をバイオディーゼル原料に使用することが継続していること。
このような事情を背景として菜種油の需要は高まる一方であり、全力を傾注してその需要に応えることが目標設定の基本となっています。同時に、2,600万トンという生産目標は、現在の環境条件や技術水準において、カナダが生産できる菜種の限界を示す数値であるとも考えられます。”Keep It Coming” は、カナダの菜種関係者が生産の限界に挑む計画であると評価できるかもしれません
面積の拡大と反収の向上
この野心的な目標は、生産(収穫)面積の増加と単収の向上によって達成するとしています。
- (1) 収穫面積の目標
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菜種の収穫を期待できる面積(収穫面積)の目標は、2,200万エーカー(約890万ヘクタール)に設定されました。この数値は、カナダの耕地面積の賦存量から見て限界に近い面積でしょう。これまでもカナダの菜種関係者は、耕地面積賦存量から見て2000万エーカー強が菜種生産に振り向けられる限界ではないかという発言を繰り返してきました。このため、この数値は達成が可能な目標であると思われますが、適正な輪作体系を維持しつつ他の農産物との競合を制して菜種の収穫面積を確保できるのかどうかについては、困難が多いものと見込まれます。
*収穫面積=菜種種子の播種面積―生育不良などによる収穫できない面積
- (2)単収の目標
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一方、単収は基準年を30%上回る1エーカー当たり52ブッシェル(1ヘクタール当たり2.91トン)を見込んでいます。しかし、2013年産の約40ブッシェルという高い単収は、理想的な天候に恵まれるという条件のなかで実現されたものであったことを考慮すると、達成の困難度が極めて高い目標であると考えられます。カナダの菜種関係者も、単収の向上は最も重要で、かつ、最も達成困難な目標であることを十分に認識しています。
このため、カナダ菜種協会は図3のようなロゴを掲げ、2025年までに52ブッシェルの達成が重要課題であることを訴えています。そして、この目標の達成のため、カナダ菜種協会は次のように呼びかけ、農家の努力を期待しています。
"It’s amazing one more bushel what Canadian canola can do” カナダの菜種にできること、それは驚異の1ブッシェル増収(仮訳)
【 図3 Keep It Comingのロゴ 】
資料:Canola Council of Canada ウェブサイトから
この呼びかけは、30%上昇という数値は重いものと感じられるかもしれないが、毎年1エーカー当たり1ブッシェルずつ向上させていけば、目標年に52ブッシェルを達成できるので、決してハードルが高すぎるものではないとの意味を込めたものでしょう。
とはいえ、すべての農家が毎年1ブッシェルの増収を積み重ねることは容易ではありませんが、カナダの菜種生産において、農場によっては52ブッシェルを超える単収を実現している事例が多く見られます。このことは、現在普及している菜種種子には、条件さえ整えばこのように高い単収を実現できる能力があることを示しています。
このため、これまでのように高収量品種の開発菜種を進める一方で、菜種栽培技術の改良に関わる試験研究機関、各地に配置された農業指導員(アグロノミスト)は、優れた成績を上げた農場の事例を分析し、汎用性のある栽培技術として体系化し、普遍性のある技術として広範に伝達して行くことに務めることを呼びかけています。
カナダ国内の菜種搾油能力と輸出の拡大
カナダ国内の菜種搾油企業は、この数年の間に菜種搾油能力(菜種を搾る能力)を段階的に引き上げ、現在では年間800万トンの菜種を搾油する能力を有するとされています。また、現実の搾油数量は700万トンを超え、カナダ産菜種の最大の需要者となりました。
Keep It Coming計画では、搾油能力は更に増強され、現行能力の2倍近くになると見込んでいます。このような水準になれば、現在はアメリカが主体となっている菜種油の需要先を、更に他の地域に広げていくことが必要になります。
また、種子の輸出量も現行より50%の増加を見込んでいます。国別の輸出目標は示されていませんが、日本向けには200万トン強が継続され、中国はじめアジア諸国とヨーロッパ向け輸出の拡大が企図されているようです、
このように、菜種とそれから生産される菜種油の輸出を拡大するためには、世界の主要な需要国で実施されている貿易障壁の撤廃を求めることが必要になります。Great Growth 2015においても同様の議論がありましたが、そのことが計画に明記されることはありませんでした。今回の計画で具体的に示されたことは、カナダが国際的な貿易障壁撤廃に向けて官民挙げて運動を展開することを宣言したものと理解できます。
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