豊作の中の需給逼迫というパラドックス

1.2012年産カナダの菜種は史上最高の1,600万トン超へ

(1)第36回日加菜種予備協議

 今年の7月24、25日の両日、カナダのアルバータ州グランドプレーリー市で、第36回日加菜種予備協議が開催されました。

 日加菜種協議は、1977年に日本、カナダ両国首相の合意に基づく政府間協議として発足しました。菜種の安定供給を求める日本、菜種の生産拡大のために安定した需要国を求めるカナダ、そんな両国政府の思いがこの協議の発足に結びつきました。このころ、カナダで生産される菜種の80~90%は日本に向けて輸出されており、日本にとってもカナダが最も安定した供給国でした。カナダの菜種生産者にとって日本は不可欠の存在であり、日本にとっても同様の事情にありました。お互いが重要な存在であることを確認しあうことも、この協議発足の理由でした。そしてカナダは日本を世界で最も安定した重要な顧客として位置づけ、今日まで安定した菜種の供給を続けてきました。

 第1回目の会合は、政府間のみで開催されましたが、第2回目からは製油産業界と輸入業界の参加が認められ、以後、官民の共同による協議体として36年の歴史を刻みました。2国間の官民共同の協議体が、これだけの歴史を重ねている例は少ないかもしれません。

 協議は、取引数量などを取り決めるものではなく、両国の菜種に関する情報の交換を行い、カナダ側は日本が求める品質の菜種生産を推進し、日本がそれを安定的に購入することによって、両国の関連産業の発展と食生活の向上を期待することを内容としています。現在では、夏季(7月)に日本代表団がカナダを訪問してカナダの菜種生育状況を把握し、秋(11月末)にカナダ代表団が来日し、その年の菜種の生産状況、サンプル調査による品質の状況及び向後1年間の需給予測などの情報を提供することが恒例化しています。

 これらの定例的な協議事項に加え、両国が抱える問題を話し合い、解決を図ることも重要な課題となっています。これまでに農薬の規制、遺伝子組み換え食品の規制、食品表示問題、カナダの港湾能力の改善、貿易政策にかかわる問題など幅広い分野において、両国の菜種貿易が円滑に進むように議論を重ね、問題の解決を図ってきました。

(2)2012年のカナダ産菜種の生産と需給の予測

 会議において、カナダ側から2012年産菜種の生産予測と、今後1年間の需給展望が示されました。

 ① 生産量は1,600万トン越えのレコード

 会議で示された2012年の生産見込みは、我々を驚かせるものでした。カナダの輸出業者による見込みは、1,650万トンの史上最高の数量でした。カナダの菜種関係者(生産農家、輸出・流通業、製油産業、政府など)で構成するカナダ菜種協会(Canola Council of Canada)は、2006年に、2015年を目標年次とする「菜種増産計画(Growing Great 2015)」を策定し、官民が協力して生産の増強に取り組んできましたが、そこで示された目標生産量は1,500万トンでしたので、目標年次より3年早く目標を突破したこととなります。そして数量だけではなく菜種の品質向上も目を見張るものがあることが特徴ですが、これについては後に述べることとしましょう。

 表1は2012年の菜種生産量の見込みと、2012/13作物年度における需給の展望を示しています。


【 表1 カナダの菜種の需給展望(2012/13作物年度) 】
(単位:千トン)
2008/09 2009/10 2010/11 2011/12
(見込)
2012/13
(予測)
栽培面積(千エーカー) 16,048 15,680 16,128 17,816 20,848
単収(bu/acre) 34.7 34.9 33.7 36.2 35.0
           
期首在庫 1,462 1,662 2,125 1,391 532
生産量 12,644 12,417 12,327 14,619 16,548
輸入量 121 128 235 124 183
供給量合計 14,227 14,207 14,687 16,134 17,262
           
国内搾油量 4,280 4,789 6,190 6,828 7,203
種子用・飼料用 377 168 321 363 324
輸出量 7,908 7,125 6,785 8,412 8,955
需要量合計 12,565 12,082 13,296 15,602 16,481
           
期末在庫 1,662 2,123 1,391 532 781
期末在庫率(%) 13.2 17.6 10.5 3.4 4.7
注:2010/11作物年度までは政府統計局資料、2011/12及び2012/13作物年度は輸出業界 による予測数値

 栽培面積は2,085万エーカー(約844万ヘクタール)と史上最大となりました。カナダにおける菜種の播種は4~5月に行われますが、例年はこの時期には降雨が多く、発芽不良や生育不良が生じることがしばしばありましたが、2012年は目立った水分過多問題が生じることなく、理想的な天候が続いたため、このような栽培面積となりました。ただ乾燥気味の気候が続いたため単収については、過去10年間の平均である35ブッシェル/1エーカー(約1,960kg/1ヘクタール)と見込んでいます。日加菜種予備協議の後に降雨に恵まれたようですので、天候に恵まれればこの数字はもう少し高くなるかもしれず、生産量が1,700万トンを超えることも視野に入ってきました。

 ② 豊作に関わらず需給はタイト

 このように生産は記録的な豊作となりましたが、需給は逼迫状態が続くと予測されています。菜種に対する需要が一段と強くなっていることによるものです。世界の大豆生産は、2011年秋のアメリカ、2012年春の南米と不作が続きました。そして本年のアメリカ中西部を襲っている記録的旱魃により2年続きの不作が避けられない状況にあります。このため、大豆に代わって菜種を求める動きも強くなると見込まれます。

 表1では、2011/12作物年度末(2012年7月末)の在庫数量を53万トンと見込んでいます。これを在庫率に換算すると3.4%であり、わずか0.4ヶ月分の需要しか満たせない数量です。つまり現在時点では綱渡り的な需給事情にあることを示しています。そして、2012/13作物年度末の在庫数量も78万トン(在庫率4.7%、0.5か月分に相当)と低いものと見込んでいます。

 需給がタイト感を強めている第一の要因は、カナダ国内の搾油量がさらに拡大して、720万トンを超えると見込まれることにあります。先に述べましたように、以前はカナダ産菜種の80~90%は日本に輸出され、日本の製油産業が最大の需要者であり、カナダ国内で搾油される菜種の数量はわずかなものに過ぎませんでした。しかし菜種の生産が増加するに伴い、カナダの製油産業は搾油能力を高め、現在では年間800万トンの菜種を処理する能力があるとされています。2012/13作物年度においては、カナダ国内で720万トン強の菜種が搾油される状態となりました。

 第二の要因は、輸出が増加すると見込まれることです。表2は、2012/13作物年度における相手国別の輸出量の見込みを示しています。日本は過去30年にわたって安定した需要国であり、2012/13作物年度にも220万トンを輸入すると見込まれています。そして中国がこれを上回る300万トン近い菜種を輸入すると見込まれています。3年前まで、中国は世界最大の菜種生産国でありました。しかし中国の菜種生産地は内陸部に位置し、近辺の製油工場で搾油が行われていました。しかしこの数年の間に沿岸部に大規模な菜種油製造工場が建設され、年間500万トンの搾油能力を有することとなりました。沿岸部の製油工場が、内陸部で生産される菜種を利用することは非常なコスト高になることから、これらの工場は原料となる菜種を輸入に依存することとなり、瞬く間に日本を追い越す輸入国となりました。そしてEUも菜種油を原料とするバイオディーゼルの生産を増やすにしたがいカナダからの菜種輸入を増やすものと見込まれています。

 カナダ国内の搾油量の増加と海外における需要の増加が、供給量の増加にもかかわらず需給にタイト感をもたらしています。


【 表2 カナダ産菜種の相手国別輸出見込み(2012/13作物年度) 】
(単位:千トン)
輸出相手国 2008/09 2009/10 2010/11 2011/12
(見込)
2012/13
(予測)
日本 2,066 2,032 2,341 2,248 2,220
中国 2,874 2,211 922 2,780 2,920
メキシコ 1,163 1,249 1,346 1,373 1,417
アメリカ 698 579 330 425 403
パキスタン 385 313 838 477 670
アラブ首長国連合 530 473 853 695 833
バングラディッシュ 129 115 92 201 183
E U     288 214 308
その他   95      
合 計 7,845 7,067 7,010 8,412 8,955
注:2010/11までは、カナダ政府統計、2011/12及び2012/13作物年度は、カナダの輸出 業界の予測。
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