大豆油の生産量が減少を続けている背景には、原料である大豆価格が高騰を続け、菜種に比較して収益条件が悪化していることがあります。
2007年初頭から世界の農産物価格は傾向的に上昇を続けましたが、中でも大豆価格の上昇は急速で2008年7月、シカゴ先物市場における大豆価格は1ブッシェル当たり16ドル48セントという史上最高値を記録しました(ちなみに、それ以前の最高値は、1973年6月の12.12ドルでした)。その後、各農産物の増産の情報が伝えられるに伴って投機資金が商品市場から徐々に撤退しはじめ、この時期をピークに農産物価格は一斉に低下の途をたどり、小麦やトウモロコシの価格は高騰前の水準にもどりました。しかし、大豆、菜種等油糧種子の価格だけは元の水準にまで下がることがありませんでした。シカゴ市場の大豆価格は、一時期8ドル半ばまで下げた後再度上昇に転じ、2009,10年にかけて持続的に上昇を続けました。最近(2011年2月)の大豆の価格は14ドル/ブッシェルを超え、世界の在庫水準の低下から2008年の高値を更新するとの声も聞こえるようになりました。
一方、景気の停滞によって国内の消費市場が活気を欠き、大豆はじめ油糧種子価格の上昇に見合った製品(油)価格を実現することが困難な状況が続いています。図2は、大豆と大豆油の国際価格(シカゴ市場)と国内の大豆油価格の変化を示しています。
【 図2 大豆、大豆油の内外価格比較 】
(2005年平均を100とする指数の変化)
資料:日本銀行「企業物価指数」、シカゴ商品取引所 注 :国内大豆油価格は、「企業物価指数」(2005年平均=100)
シカゴの価格は2005年平均を100として指数化し、輸入為替変動による
調整を加えたもの
交易条件指数=国内の大豆油価格/シカゴ市場の大豆価格×100。この指数が
100であれば両者の変化が均衡し、100を下回れば大豆油価格が不利な条件に置か
れていることを示す。
我が国で生産される大豆油の原料はすべてが輸入品であり、シカゴ市場で形成された価格が基準になって輸入価格が決定します。そして、製品(油とミール)の価格が、大豆価格の動きに連動することが必要になります。しかし、国内の大豆油の価格は、2006年には国際的な価格の動静と併行していましたが、2007年以降の国際価格高騰について行くことができない状況が続いています。特に、2009~10年には国際価格が上昇したにもかかわらず、国内の大豆油価格が2006年当時より低迷するという状態が生じました。このため、国内の大豆油とその原料である大豆との交易条件指数は、2008年末を除き常に100を下回り、国内の大豆油価格が不利な条件に置かれていることを示しています。このような状態が続く中では、大豆を搾油することが難しくなります。
実は、この状況は菜種も同じですが、大豆に比べれば相対的には条件がよいことと、菜種油の需要が強いことが菜種油生産量を押し上げている要因でした。しかし、菜種の国際価格(ウィニペッグ市場先物価格)は、最近になって急上昇の気配にあり、菜種を搾油する経済条件が悪化してきました。国際的な原料価格と連動する国内市場を作り上げていくことは、植物油の安定供給にとって最も重要な課題となっています。
これらの指標は一つの見方に過ぎず、実際の搾油に当たっては、その他の経済条件や市場の動向等を見ながら決定されることは言うまでもありません。
【 図3 菜種油の価格と交易条件 】
(2005年平均=100とする指数)
資料:日本銀行「企業物価指数」、ウィニペッグ商品取引所
注 :交易条件指数=国内の菜種油価格指数/ウィニペッグ菜種価格指数×100
ウィニペッグ市場の菜種価格指数は、2005年平均を100として指数化し、 輸入為替変動による調整を加えたもの
|