トンカツ、フライのおいしさは、“パン粉”を付けて“油で揚げる”という調理法と結合して生まれました。小麦粉をまぶし、溶き卵をくぐらせ、パン粉を付けて揚げる、この何気ない一連の作業が、実はおいしさを生む重要な要素になっているのです。
まず、小麦粉。小麦粉に含まれる澱粉が素材と衣とを密着させ、素材の表面の水分を吸収してうま味が外に流出することを防ぎます。
次に溶き卵は、加熱すると凝固し、衣をしっかりとさせる働きをします。また、180度程度の高温に熱せられると良質のメラノイジンが発生し、食欲をそそる香ばしい香りを発します。
そしてパン粉。パン粉は多孔質であるため、少量の水分を一気に油に置き換えることが可能で、天ぷらの衣にはない独特のサクサク感を生み出します。
最後が、“揚げる”という調理法です。多めの油を用いるディープフライでは、素材が空気に触れることなく、包み込むように高温で一気に素材に熱を通すことができるので、素材が有している独自の風味を一瞬に封じ込めることができます。
西洋で生まれたカットレットが、日本で“揚げる”という調理法と出会うことによって、素材、パン粉、油が微妙に協力するすばらしい味のハーモニーを奏でているのです。日本人の味への探求心が、このようなすばらしい料理を作り出したと言えるかもしれません。
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