ごま油のお話し ― 香り豊かな食生活、そして、急変する国際市場 ―

1.ごまがたどってきた道

 ごまとごま油は、日本の食生活の中で最も古くから親しまれている食材の一つです。

 日本植物油協会が2003年2月に開催した講演会で、講師をお願いした伝統料理研究家の奥村 彪生先生は、講演のなかで次のように述べておられます。

 「古くは奈良時代に「油飯(あぶらいい)」という料理がありました。平安時代の辞書『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』に、この「油飯」についての解説があり、「ごま油にて飯を炊く」といったようなことが書かれています。

 日本には室町時代までは油で揚げたり炒めたりという調理技術はありませんでしたので、これはおそらくご飯を炊くときに、水と一緒にごま油を入れて炊いたものだろうと推測されます。」(植物油Information第29号をご覧ください)。

 この時代のごま油がどのようにして作られたのかについては、残念ながら資料はありませんが、ごまは、他の油糧種子に比べ油分が高い(約50%)ことから、強く圧搾することによって油が採取できるので、この時代から油として利用されていたことが推測されます。

 もっとも、ごま油も他の植物油と同じくお灯明の灯油として用いられるのが一般的で、そのほかには、革製品や繊維製品の塗料、金属類の研磨、そして食用に利用されていたようです。

 ただ、大変高価なものであったと想像されますので、庶民が広く利用できるものではなく、朝廷や貴族、神社仏閣の灯明などに用いられていたと考えられます。当時の神社仏閣にお参りすると、灯明から馥郁たる香りが漂い、そのことが更に信仰心を増幅したのではないでしょうか。

 ところで、ごまを漢字で表すと“胡麻"と書きます。“胡"は胡国(紀元前、中国は西域にあたる辺境の地を胡国と総称していました。)を意味し、胡国から中国を経由して日本にもたらされた農産物であることを意味しています。

 野菜のきゅうりを胡瓜、こしょうを胡椒と書くのも同じ意味で、これらが胡の国(西域諸国)からの伝来物であることを示しています。

 阿部芳郎先生監修の「油脂・油糧ハンドブック」によれば、ごまの原産地はアフリカのサバンナとする説が最も有力で、15,000km以上の旅をして東の果ての日本に到来したと述べられています。また、日本では、縄文時代の遺跡からごま種子が発見されており、かなり早い時期に日本に到来したのではないかとされています。

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