(2)播種の遅れと異常高温が及ぼす懸念
【1】 播種の遅れがもたらす早期の霜害懸念
史上最高の生産見込みは、私どもに一瞬の安堵感を与えましたが、本年の菜種生産については不安を与える情報がありました。平常の播種時期に土壌水分が過多であった地域では、発芽困難やぬかるみで農機具の操作ができないため、実際の播種が大幅に遅れることとなりました。カナダの菜種生産は気象条件に大きく左右されますが、特に気掛かりなのは収穫前に気温が低下し、早霜に襲われることです。
1992年に、播種から成育過程に理想的な天候に恵まれ、豊作と高品質が期待されていたにもかかわらず、播種前の霜により生産の大幅な減少と著しい品質の低下がもたらされた苦い経験があります。
今年の播種が大幅に遅れたことは、それだけ早期の霜害に遭遇する危険性が高いということとなります。幸い、いまのところ霜の情報はありませんが、今後の天候の推移に一喜一憂しなければなりません。
【2】 夏季の高温がもたらす生育障害の懸念
この8月、日本は各地で気温の最高記録を更新する猛暑に襲われましたが、カナダでは菜種の生育期に当たる7~8月が高温と少雨という天候で推移しました。この悪条件がどのような影響を及ぼすのかが懸念されます。
既に、カナダ統計局が8月23日に発表した「7月31日現在の農産物生産予想」において、菜種の生産量を920万トンに下方修正しました。日加なたね予備協議の数値に比較し60万トンの減少となりますが、それでも史上最高の豊作であった2005年に次ぐ生産量となっています。
ただ、カナダ統計局の予想は比較的高く設定される傾向にあります。前述したとおり、2006年産の生産について大幅な下方修正があったことからも、920万トンという数字には疑問符がつくかもしれません。
他方、アメリカ農務省が8月13日に公表した世界の農産物生産予測(Outlook)では、カナダの菜種生産が900万トンを下回るとの推測を行っています。その後の高温・乾燥気味の天候を考慮すれば、アメリカ農務省の予測が現実に近いと見られます。既に、これらの予測を受けて市場は反応し、菜種の価格はじりじりと上昇を続けています。
カナダの輸出業者は、私どもに対し次のような発言をしています。
「本年産菜種の品質の低下は避けられない。油分が低いなど品質が低下することから、日本は昨年より多くの菜種を輸入しなければならないことになるだろう」。
品質が悪いにもかかわらず価格が上昇するという矛盾に直面することになるのでしょうか。
植物油Information第53号でお伝えしたように、カナダの菜種関係者は2015年には菜種の生産を1,500万トンに拡大するという遠大な計画を策定しています。しかし、先頃発刊されたOECD/FAO共同の農業生産予測(OECD Agricultural Outlook)においては、2016年におけるカナダの全ての油糧種子生産を1,200万トンと見込んでいます。遠大な計画達成のため、カナダの菜種関係者は相当な努力を払わねばならない状況にあるようです。 |