台湾の植物油製造業界は、1990年代に苦い経験を味わいました。1997年3月、新竹県で罹病した豚が発見されたのを皮切りに、口蹄疫が瞬く間に全島に拡大しました。当時の資料を紐解くと、同年3月から7月のわずか5ヶ月間で400万頭近い豚が処分されたという情報がありました。最終的には、台湾で飼育されていた豚の6割が処分されたとされています。
台湾は世界でも有数の豚飼育国で、口蹄疫発生以前は日本への豚の主要輸出国の一つでした。1996年における日本の豚肉(冷蔵、冷凍の合計)輸入量65万トンのうち約40%に当たる27万トンが台湾から輸入され、ハム・ソーセージなどの加工原料に使用されていました。口蹄疫は伝播性が強い伝染病で、畜産業に甚大な被害をもたらすため、ほとんどの国は口蹄疫発生国からの畜産物(生肉とその製品)の輸入を禁止しています。日本でも直ちに台湾からの豚肉輸入が禁止されました。
この一連の口蹄疫騒動は、台湾の養豚業界に壊滅的な打撃を与えました。当時、畜産の専門家は、台湾がこの時の口蹄疫から立ち直り、口蹄疫清浄国として世界から認められるためには最低でも5年を要するという見解を示していました。口蹄疫撲滅のため、台湾政府及び養豚関係者の懸命の努力が重ねられましたが、不幸にも、その後も小規模の口蹄疫が発生し、日本の輸入禁止措置は現在もなお継続しています。
豚肉は台湾の食生活に不可欠の食材です。このため、国内需要を満たすため台湾自身が豚肉の輸入を余儀なくされました。これに加え、2002年に台湾はWTOに加盟しましたが、これに伴って畜産物の輸入が増加することとなりました。域内養豚業に多大な損失を生じた口蹄疫は鎮静化したものの、畜産業は輸入畜産物との厳しい競争が続くこととなりました。
大豆ミールの主要な需要先である畜産業がこのような状況にあることから、台湾の植物油製造業は、「域内畜産業の後退→大豆ミール需要の減退→大豆ミールの生産量の制限→大豆油生産量の減少→輸入油依存の高まり→輸入油との競合の激化」という厳しい環境に直面することとなりました。
|