日本政府となたねに関連する産業界が共同で育ててきた会議に「日加なたね協議」があります。この協議は、なたねの安定供給を確保するため、1976年に日本政府(農林水産省)とカナダ政府(農業・農産食料省)の合意に基づいて発足し、今年で30年の歳月を数えるに至りました。この協議は当初は政府間の会議でしたが、なたねに関連する産業界(植物油製造業界と貿易業界)は第3回の協議から参加するようになり、現在では官民共同の会議となっています。
協議は、例年、7~8月にカナダで予備協議、11~12月に日本で本協議を開催する形式で進められています。このうち、予備協議は、日本の代表団がカナダの生産地を訪問し、その年のなたねの作柄を見ながらカナダの関係者と意見を交換する場となっています。
本年は、第30回記念の協議となるため、なたねの生産地ではない場所で開催されましたが、そこで、明らかになったのは、なたねの安定供給に対する不安でした。
ヨーロッパやアメリカが熱波に見舞われ、死亡事故にまで及んでいるという情報はしばしば報道されましたが、北国のカナダが同様の状況であったことはあまり知られていないようです。この夏、カナダでも6月から7月にかけて、連日摂氏30度を超す日々が続きました。この高温の日々は、なたねの生育にも大きな影響を及ぼしました。
カナダでは、3月末から4月にかけてなたねが播種されます。今年は例年になく土壌水分が豊富であったため一部で根腐れが見られましたが、初期成育は順調でした。ただ、土壌表面の水分が豊富なことが思わぬ弊害をもたらしました。一般に植物は、生育初期にはまず根を地中深くしっかりと張り、土壌中の水分・養分を十分に吸収できる態勢を整えてから地上部の生育に移ります。しかし、表面土壌の水分が豊富であったため、なたねの根が深くまで伸びなくても容易に水分を吸収できることから、根がしっかりと張らないままに地上部が成長する、いわゆる“軟弱徒長”現象が広範に見られました。この状態で連日の高温を迎えることになりました。高温で地表面に近い土壌は急速に乾燥し、凝固するという状態となったため、十分に地中に根を張っていなかったなたねの生育が止まり、早期に開花し、実らないままに枯死するという状況が広範に見られました。
今年のカナダ産なたねは、播種面積は前年より少し下回りましたが、表面上は初期成育が順調に見えたため、カナダ政府は6月末に1,000万トンを超す収穫もあり得るという予測を行いました。このため、私ども関係者はなたねの安定供給に何の不安もいだいていなかったのですが、天候の推移がこのような期待を否定することになりました。
7月21日に開催された第30回日加なたね予備協議では、本年の生産見込みについて、次の表のとおりの報告が行われました。
【表1 2006/07年カナダ産なたねの需給見込み】
ここで示した生産量は、7,631千トンから9,796千トンという幅のある予測値の中間値です。これまで、予測値がこれほど大きな幅で示されたことはありませんでした。予測に馴れた人たちでも、今年の作柄を過去の経験則で推し量ることは困難であったと言うことかもしれません。また、この会議で「収穫量についてはこれからの2週間の天候、品質は6週間の天候が決定要因になる。」という説明がありました。つまり、これからの2週間に適度の降水があれば収量は好転するが、高温・乾燥が続けば収量が更に減少するということを意味しています。私たちは期待を持ってその後のカナダの天候を注目してきましたが、残念ながら有効な降水はなく、収量の低下は確実な状況となりました。
後で述べますなたねの国際需給から見れば、何とか800万トンの生産が確保できることに期待を抱いています(なお、カナダ統計局による8月4日の予測では、なたねの生産量を8,125千トンとしています)。
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