2 ケニアからの便り
― 自給率向上を目指してパーム油生産拡大に取り組む ―
ケニアは赤道直下の国。アフリカの東海岸沿いに位置し、世界第2位の淡水湖であるビクトリア湖、アフリカ第2の高峰ケニア山などがあります。日本ではライオンやチーターといった野生動物や槍を持ったマサイ族のイメージが強いのではないでしょうか。
ケニアの人口は約3,000万人、国土は約58万平方キロメートル、国民1人当たりのGDPは約300ドル(日本の100分の1)の発展途上国です。紅茶、コーヒー、園芸作物(野菜、果物、花卉)などの農産物をヨーロッパや中東に輸出するほか、観光が重要な外貨獲得源となっています。日本には白身魚の切り身(主にナイルパーチ)、マカダミアナッツや紅茶を輸出し、自動車や機械を日本から輸入しています。
民族構成は、ほとんどがアフリカ系ケニア人ですが、インド人を中心としたアジア系ケニア人や英国による植民地時代に入植した欧州系ケニア人が、少ないながらもケニア経済の重要な位置を占めています。宗教はキリスト教が約66%、イスラム教6%、その他は土着の宗教やヒンドゥー教などが信仰されています。 |
“Kimbo”ブランドが育んだケニアの植物油消費
ケニアの食用植物油消費については、19世紀末に海岸地方の鉄道建設のためケニアに連れてこられたインドの人たちの間で消費されていたのに始まるという見方や、西部ケニアで落花生から採れる油脂を利用していたことが起源ではないかとの見方があります。いずれにしても植物油の消費はそれほど多いものではなく、アフリカ系ケニア人は動物由来の油脂に依存し、インド系の人たちは牛の乳から得られるギー又は輸入した油脂を利用していました。
綿実は、第2次世界大戦前まで油脂原料としてほとんど使用されていなかったのですが、1941年に、ウガンダのカキラ地域でマダヴァニィ・グループが搾油機5機を備えた小さな工場で綿実油の生産を開始しました。第2次世界大戦後、同グループの植物油生産は短期間に安定的に増加し、1952年からはカキラ駅の周辺で大規模な工場が操業を開始しました。この時期、ケニアで消費される主な植物油は、国内産ひまし油と、輸入されるひまし油、ココナッツオイル、パーム油で、少量ながらコプラ、綿実、落花生、ゼラニウムなどが油脂原料として使用されていました。
ケニアにおいて植物油脂が大量に消費されるようになったのは、East African Industries社(EAI)が“Kimbo(Kenya Industrial Management Board)料理用油脂”の生産を始めたことによるところが大きいとされています。当時、EAIはケニア産業開発会社(Kenya's IndustrialDevelopment Corporation)、英連邦開発会社(Commonwealth Development Corporation)及びUnilever Groupによって経営されていました。
第2次世界大戦初期には、国内供給の維持だけではなく、港湾の船積みスペースを確保することや、戦争遂行のため支配国である英国の油脂関連施設の製造能力を維持することなどが目的とされ、食用油生産の多様化が必要となりました。
戦後は、戦時下に緊急生産を要求された物品の多くが生産されなくなるなかで、“Kimbo”はその後も生産が続けられ、販売量を増加させていきました。Kimboの生産のため、多くの原材料を東アフリカ各地から購入することが必要となり、ウガンダから綿実油や落花生油、ケニア及びタンザニアからココナッツ油やその他の植物油などが輸入されました。
Kimboは、Bidco Oil Refineries社及びKapa Oil Ltd.が市場に参入する1980年代まで東アフリカの植物油市場を独占していました。EAIは、その後社名をUnileverに変更しましたが、Unilever社の経営転換により、ケニア人に親しまれてきた“Kimbo”ブランドを2002年にBidco Oil Refineries社に売却しました。
増加する植物油消費と輸入
1961年におけるケニアの1人1年当たり植物油脂消費量は2~3kgに過ぎないものでしたが、2001年には約5.7kgに増加しました。この需要の増加に応じて、油脂原料及び油脂の輸入拡大が必要となりました。
現在のケニアの食用植物油需要量は、35~38万トンと見込まれますが、このうち、国内生産は1/3にも満たない状況で、輸入の約90%がマレーシアからのパーム油となっています。
最近では、モンバサ港におけるパーム油輸入(バルク)は、石油に次ぐ第2位の取扱高となっています。植物油脂の国内生産を拡大するための努力が行われていますが、しばらくは輸入に多くを依存しなければならない状況が続くと見られています。食用油脂の需給を体系的に示す統計には欠きますが、概ねの需給を次に示しました。 |
食用油脂の生産と輸出入
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2000年 |
2001年 |
輸 入(モンバサ港)
パーム油(バルク)
生 産
ギー及び油脂
料理用油
輸 出
油糧種子・核 |
329,512
216,591
5,015
1,117 |
441,705
250,226
5,410
2,372 |
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資料:ケニア港湾庁、Statistical Abstract2002、ケニア統計局 |
(単位/トン) |
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多様化する消費者ニーズ
- 固形状から液状へ、健康志向も強まる -
ケニアの消費者ニーズは、多様なものへとなりつつあります。先にも述べた“Kimbo”はケニア国民の間で以前から広く親しまれてきたブランドですが、このほかKasukuブランドがポピュラーなものとなっています。しかし、これらは常温で固形状であるため、料理が冷めると固まってしまうという欠点があります。このため、最近では、とうもろこし油やひまわり油などの液状植物油の消費が増加してきました。また、南アフリカ共和国製のスプレー式の食用油も市場で見受けられるようになりました。
家庭用の植物油は、50gから20リットルくらいの大きさまで多様なパッケージで販売されていますが、近年の経済状態の悪化から、より小さなパッケージに人気があります。また、パッケージがアルミニウムからプラスチックにシフトしていますが、一方でプラスチック容器はリサイクルが困難といった問題点を含んでいます。
ケニアでも、他の国と同様に食品と健康に対する消費者の関心が高まり、食用油について低コレステロールや高ビタミンの製品を選ぶ傾向が高まっています。最近消費が増えてきた液状の植物油には、コレステロール・フリーを謳ったものが増え、KimboやKasukuブランドにもビタミンを添加した商品が増えています。
安い輸入油に押される国内生産
ケニアでは、多様な種類の油料原料が商業的に栽培されています。その主なものは、ひまわり、ごま、大豆、菜種、ココナッツ、ひまし、サフラワーです。これらのうち、ココナッツの産地はコースト地方に限定されていますが、その他のものはケニア国内全ての県で栽培されています。植物油の原料作物が最も多く栽培されていたのは1987年で、栽培面積は113千ヘクタールでした。しかし、油脂消費の安定的な拡大に対応して安い輸入植物油が増加したため、国内栽培面積は次第に減少する傾向にあります。
ケニアには、約30の工場において、圧搾(粉砕)、抽出、精製、加工(水素添加)等の工程が行われています。総抽出能力は年間約265,500トンですが、精製能力は植物油輸入量の増加に合わせて拡充され、約342,000トンとなっています。特に、パーム油の精製加工のための能力が増加しました。その反面、政府が輸入拡大政策と輸入油に対する優遇税制を実施してきたため、安い輸入の増加に伴い、国内で圧搾、抽出、精製を行うことが経済的に劣るものとなりました。
食用油消費市場の拡大に伴って、政府は植物油脂の国内生産を奨励する一方、植物油の輸入関税を引き下げ、安い食用油の輸入を促進するといった政策を行ってきました。現在、パーム油(パーム核油を除く。)については、全て関税は無税となっています。
ケニアの食用油輸入の約90%がマレーシアからのパーム油で、一方、Kimbo及びKasukuの商品名の製品を、タンザニアやウガンダなどの東アフリカ地域へ輸出しています。また、輸入された食用油の一部が、これらの国へ再輸出されることもあります。
パーム油生産拡大への試み
植物油の国内生産を高めようとする計画も動き始めました。
FAOは、ケニアの食用油国内生産の促進を目的として、オイル含有率の高いパーム種の栽培計画を推進しています。このFAOの計画では、コスタリカからパーム樹を持ち込み、ケニア西部地域での生産の可能性調査が行われています。ケニア西部地域は、ひまわり、落花生、サフラワー、シムシム、亜麻仁といった伝統的な油料植物の生育地域が含まれています。この地域の気象は、日差しは強く、スコール的な降雨があり、年間の気温変動幅はパーム樹生育に好ましく、マレーシアと同じくらいパーム樹の生育に適した土地と判断されています。
製糖企業であるムミアス社が、FAOの事業に協力してパームの栽培可能性調査を実施しています。同社は、小規模農場で働く4万人の農業従事者の栽培ネットワークを構築し、2年計画に基づいてコスタリカから約1,500株のパーム苗を輸入し、現地では既に多くの成長したパーム樹が立ち並んでいます。パームは3年で収穫可能な経済樹に成長し、年間に1ヘクタール当たり約20トンの果実が収穫できます。この調査研究は、今後10年以上の歳月を要するものの、大規模生産者が概ね2万本規模のパーム樹を栽培できることを示唆するものでした。FAOの計画はまだ初期の段階ですが、植物油供給の輸入依存を脱却する可能性をケニアに提供するものとして期待されています。
* 海外植物油事情の記事は、日本貿易振興会(JETRO)パリ・センターの植村悌明さん、 及びケニア・センター石原好仁さんから寄せられた情報に基づいて作成しています。 |
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