世界の植物油消費状況
 「世界最大の植物油生産国」はどこかご存知ですか? 答えはマレーシアで、生産量は1,320万トン(2001年)。次いで、中国、アメリカとなっています。中国、アメリカはいずれも広大な面積を誇る国だけに、なるほどと察しがつくかもしれませんが、マレーシアとはちょっと意外ですね。
 熱帯の国マレーシアの主要な油はパーム油。大豆などの一年生作物とは異なり、パームは一年中収穫が可能です。そして、果実であるため、すべて国内で搾油されてから流通するという事情を反映したものです。
 では、「世界最大の植物油消費国」はおわかりでしょうか。これは中国。こちらは国土の広さというより、人口の多さがヒントになったことでしょう。
 それでは、人口1人当たりの消費量やどんな植物油を消費しているのかという問いはどうでしょう。こうなると、正確なところは専門家でもなかなか分からないものです。今回は、世界主要国の植物油消費の特徴をご紹介しましょう。

1 世界最大の植物油消費国は中国

 世界の油に関する統計として信頼の高いOil World誌によれば、主要11種類の植物油の消費量は1位中国、2位インド、3位アメリカ合衆国の順となっています(表1)。この順位は人口の順位と一致しており、やはり消費量の多さは、人口の多さがひとつの決定要因となるようです。しかし、4位ブラジル、5位インドネシアになると消費量と人口のランキングが一致しなくなります。日本も人口では第7位ですが、植物油消費量では第8位です。これは、植物油の消費が人口だけではなく、それぞれの国の経済力や食料消費形態の相違にも影響されることを示しています。

表1  世界主要国の植物油消費ランキング

消費順位
国   名 植物油消費量
( 千トン )
人  口
( 百万人 )
1 中華人民共和国 15,197 1,272 (1)
2 インド 10,690 1,041 (2)
3 アメリカ合衆国 10,621 289 (3)
4 ブラジル連邦共和国 3,595 175 (5)
5 インドネシア共和国 3,305 218 (4)
(注)
Oil World誌による主要11種類の植物油消費量の合計値。
消費は工業原料用を含め、その国で何らかの形で利用されたものの合計値。
人口欄の()数字は、人口のランキング。

 なお、ここに示したデータは工業原料用に用いられたもの、油脂加工品等になって他国へ輸出されるものなどのすべてを含んでいます。したがって、それぞれの国の人が現実に消費した数量ではないことをおことわりしておきます。

2 国民1人当たり消費量は、マレーシアが最大

 国全体の消費量ではなく、国民1人当たりの消費量を見るとそのランキングは表2のようになります。1位はマレーシアで1人1年当たり113.4kgと群を抜いて多く、次いでベルギー(ルクセンブルクを含む)が73.5kg、デンマークが52.9kgと続きます。といってもマレーシアの人がアメリカの人の3倍も植物油を食べているわけではありません。
表2 国民一人当たり植物油消費量ランキング

順 位
国   名 一人当たり
消費量(kg)
1 マレーシア 113.4
2 ベルギー共和国 73.5
3 デンマーク王国 52.9
4 スペイン 43.2
5 アメリカ合衆国 36.8
(注)植物油消費量を人口で除したもの
 マレーシアは世界第一のパーム油生産国で年間1,160万トンを生産し、1,050万トンを世界各国に輸出しています。国内で消費する量は1割強の150万トンに過ぎませんが、それでも2,200万人の人口には過大な消費量です。実はこのほとんどが、脂肪酸などに二次加工され、国内外の化学工業に広く利用されているのです。とくによく知られているのは石鹸・洗剤で、日本でも多く使われています。
 かつて日本などの輸入国は、パーム油のまま輸入して自国で脂肪酸などに加工するのが一般的でしたが、いまではマレーシアで加工されたものを輸入する方式に変わってきました。このことがマレーシアの国内消費量を伸ばし、1人当たり消費量を大きいものにしているのです。
 ベルギーの70kgを超す消費量も似たような事情にあります。EUの心臓部に位置するこの国は、植物油を加工し、マーガリンや石鹸・洗剤に形を変えてEU域内やその他の地域へ供給していることで、1人当たり消費量が大きいものとなっています。
 ちなみに、同じ算出方法で求めた日本の1人当たり消費量は18.5kg。世界での順位は不明ですが、二次加工も含めた消費量はアメリカの半分程度に過ぎません。

3 バランス派、モノカルチュア派?多様な消費形態


 次に各国の植物油の消費形態をご紹介しましょう。同じように植物油を消費しても、その消費ぶりは国によって大きく異なっています。表3をご覧下さい。植物油の消費は、特定の植物油への依存が大きい国、様々な植物油をバランス良く消費する国、そして、その中間に属する国に分かれます。それぞれの代表国を取り上げて比較してみましょう。

表3 主要国の油種別植物油消費

   
大豆油 なたね油 ひまわり油 落花生油 オリーブ油 熱帯油脂
モノカルチュア派
ブラジル 86.4 0.7 1.7 0.7 0.7 4.6
アメリカ 71.6 6.7 1.5 1.4 1.9 7.4
アルゼンチン 15.3 0.3 74.8 0.7 2.1 2.1
マレーシア 2.0 0.0 0.5 0.0 0.0 97.1
インドネシア 1.1 0.0 0.0 0.3 0.0 98.4
ロシア 27.5 3.4 55.5 0.1 0.1 12.8
バランス派
日  本 30.9 38.0 1.0 0.0 1.3 21.9
中  国 26.2 28.8 1.6 16.6 0.0 16.4
イタリア 15.1 11.3 11.4 2.4 37.6 17.2
スペイン 16.7 1.1 27.7 0.0 36.7 14.8
フランス 6.7 34.2 30.2 2.4 5.9 18.7
インド 23.1 15.4 3.6 14.5 0.0 37.4
中 間 派
ベルギー 14.2 28.5 8.7 0.0 1.7 44.0
ドイツ 12.5 40.1 9.0 0.6 1.2 35.8
(資料)Oil World誌 2001年の数値
(注)各国の植物油消費総量に占める油種別数量の比率を示したもので、分類は次による
   モノカルチュア派:1種の植物油消費量が全体の50%以上を占める国
   バランス派   :どの油種も40%を超えず、様々な油が広く消費されている国
   中間派     :以上のいずれでもない国
   熱帯油脂は、パーム油、やし油、パーム核油の合計

*生産国はモノカルチュア派

 まず、ある特定の植物油の消費のウェイトが高い国、これを“モノカルチュア派”と名付けましょう。モノカルチュア派は、いずれも消費量が目立って高い植物油およびその原料の大生産国です。アメリカ、ブラジルは大豆、マレーシア、インドネシアはパーム、ロシアはひまわりの世界有数の生産国。つまりその植物油の大産地は大消費地でもあるというわけです。
 この中で変わり種はアルゼンチン。油糧原料の生産から見ると世界第3位の大豆生産国で、世界中に大豆油と大豆ミールを輸出していますが、国内消費はひまわり油が中心です。いまでは大豆の大生産国の仲間入りをしたアルゼンチンですが、かつてはひまわり油が中心。大豆の生産はこの10年ぐらいの間に急速に増加し、しかも大豆製油業は国内消費向けではなく輸出向け産業として発展してきました。そのため大豆の生産は伸びてもそれは国内消費に振り向けられず、国内の消費はかつてのままひまわり油が主体となっているのです。
 アメリカ、ブラジルは大豆と大豆油、マレーシア及びインドネシアはパーム油を世界中に供給する高い能力を持った国ですが、反面、世界有数のひまわり生産国のロシアは、国内供給に精一杯という状況です。

*多様性に富んだバランス派

 特定の植物油に偏ることなく、多様な油を消費している国を“バランス派”と名付けましょう。バランス派に属する国も様々な顔を有しています。
 まず、日本。残念ながら日本は国内で油糧原料を供給できません。しかし、世界でも希なバランスに優れた消費を行っており、表3にはないごま油、こめ油なども含め、多様な植物油を利用しています。国内に生産基盤を持たないことで、かえって消費需要に応じた自由な選択が可能になっているのです。
 逆に中国は世界有数の油糧原料の生産国で、なたね、落花生、綿実、ごまは世界最大の生産を誇り、大豆、ひまわりは有数の生産国でもあります。しかし、巨大な人口と増加する植物油需要に応えるには国内生産だけではまかなえず、大量の大豆、パーム油、なたねなどを輸入しなければならない状況にあります。中国の一人当たり消費量が1kg増加すれば、全体で130万トン(日本の消費量の約半分)の植物油が必要になります。
 インドは、油糧原料の作付け面積はアメリカに次いで大きいにもかかわらず、単位面積当たりの収量が世界の平均的な収量の2分の1以下にとどまっていることから国内消費量がまかなえず、約700万トンの植物油を生産する一方で600万トン近い量を輸入しなければなりません。もし、油糧原料の生産性が世界の平均並みに上昇すれば、10億の人口に十分に植物油を供給でき、国内でバランスある消費ができることになります。
 イタリア、スペインはご存じのとおりオリーブ油の生産国で、国内で消費する一方半数以上を海外に輸出していますが、両国には大きい差異があります。
 イタリアはオリーブ油以外には注目すべき国内生産はなく、他の油は輸入に頼らざるを得ないのですが、それだけでなく自国で十分生産できるオリーブ油も、国内生産の80%に当たる量を輸入しています。これはギリシャ、スペイン、チュニジアなどからオリーブ油を輸入し、イタリアでパッキングして、“イタリア産オリーブ油”として世界中に輸出しているためです。それだけイタリアがオリーブ油に関して高いブランド力を持っていることがわかりますね。
 一方、スペインは農業国で、オリーブだけではなく、ひまわりも多く生産しています。これに輸入した熱帯油脂を加えて植物油消費を形成しています。国内の農業生産を基礎に、不足分を輸入し、バランスのとれた消費を実現しているわけで、スペインこそ本当の意味での“バランス派”なのかもしれません。
 フランスもEUを代表する農業生産国です。最も多く生産される油糧種子はなたね、次いでひまわりですが、なたねは多くを輸出し、国内の植物油消費はなたね油とひまわり油を主体としています。スペインと同様に、“バランス派”の代表選手というところでしょうか。

*個性派の“中間派”

 “中間派”は“モノカルチュア派”“バランス派”の間に位置する国々です。代表にベルギーとドイツをあげました。
 ベルギーは、日本と同様に国内に油糧原料の生産基盤を持たない国です。したがって原料または植物油を輸入し、国内の需要を満たしています。冒頭に述べたように、EUの心臓部に位置して、食品産業、化学工業が発達し、植物油を加工した製品を各国に輸出しています。このためEUにありながら熱帯油脂の消費量が最も多いという特徴を有しているのです。
 最後にドイツ。なたねの生産が100万トンを超える国ですが、450~460万トンの油糧種子を輸入し、植物油の大生産国の一つになっています。植物油も輸入する一方、輸出も多いという特徴を有しています。中間派と位置づけましたが、なたね油と熱帯油脂で消費の75%以上を占めており、比較的偏った消費構造になっています。

*消費は変動する

 さあ、世界各国さまざまな消費の仕方がおわかりいただけたでしょうか。しかし、世界の植物油需給の変動に伴って植物油の消費は変動します。特に、植物油を多く輸入している国の変動は大きいものがあります。例えば、2000年の統計で分類すればインドは中間派に、また、ロシアのひまわり油の割合は70%を超えることになります。このように世界の需給が変動する中で、植物油を安定的に供給することが私たちの使命になっています。
PREVMENU