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やや唐突ですが、この世から植物油がなくなってしまったらどうなるでしょう。天ぷらも、炒め物も、サラダも、もう食べられなくなりますね。さらに、植物油は家庭での調理に使われるだけでなく、さまざまな加工食品の原材料となって食卓に登場しています。だから、植物油がなくなったら私たちの食生活はとても味気ないものになってしまうでしょう。そればかりではありません。植物油が作られる工程では、たくさんの有用な副産物が生まれ、食用にとどまらず生活の至るところで利用されています。ですから植物油がなければ、食生活はもとより生活全般が不便なものになってしまうのはまちがいありません。
私たちの身の回りにありながら、植物油との関わりをあまり意識せずに利用されている副産物や植物油加工製品が意外に多いことに気づきます。今回はこれらの一部を食べられるものを中心にご紹介します。 |
◆副産物は主産物? こんなところにも植物油の仲間がいます
植物油の生産は、大豆、なたね、ごまなど油糧種子と呼ばれる種子を搾るところからはじまります。最初に抽出された油は「原油」、原油を搾った残りは「ミール(=油かす)」と呼ばれます(ミールは、「脱脂大豆」などと呼ばれることもあります)。“かす”というと何となく廃棄物のように聞こえますが、実は、さまざまな用途に利用されるすぐれものなのです。エコロジーが重要な社会問題となり、食品製造工程で排出される残滓の有効利用が法律で義務づけられるようになりましたが、製油業にとっては“油の絞りかす”は貴重な資源です。さまざまな用途に活用して、食品製造業の中では残滓が発生しない珍しい業種になっています。大豆を例に取れば、1トンの大豆から採れる原油が200kg弱で、800kg近くがミールになります。名前は“かす”でも、量も多く、栄養成分に優れたミールは副産物ではなく立派な主産物なのです。植物油製造業は、植物油とミールという2つの主産物を生み出す産業ということができるでしょう。
さて、このミール、どんな用途があるのか、具体的な活用先を大豆のミール(脱脂大豆)を例に取ってご紹介しましょう。大豆ミールに含まれる主な成分は良質の植物たんぱくです。そのままで、家畜飼料に広く利用されています。日本で家畜飼料に利用される大豆ミールは400万トン弱、そのうち300万トン程度を日本の製油業が供給しています。BSE発生で肉骨粉の使用が制限されている中で、大豆ミールをはじめ油糧種子のミールは、貴重なたんぱく質飼料としてますます重要性を増しています。
肥料原料としてもミールは有効で、特になたねミールは有機肥料の主要原料の一つになっています。
加工食品に目を向けると、しょうゆの原料に利用されることはよく知られていますが、脱脂大豆から抽出・生成したたんぱく質から 、“からあげ”“がんもどき”様のたんぱく食品が作られています。身近な商品では、和風即席麺に添えられている乾燥油揚げが代表的な大豆たんぱく食品です。また、優れた乳化性、結着性、粘弾性の性質を活用した品質改良剤として、パンや麺類、水産加工品、ハム・ソーセージ、アイスクリームなど、大豆からはちょっと連想できない食品にも使われています。
大豆たんぱくを加水分解して得られるペプチドは、スポーツ飲料など栄養補強剤に広く利用され、大豆かすから抽出されるβアミラーゼは、大福の皮などに添加して、いつまでも柔らかいもちもち感を保つ硬化防止剤として活用されます。
大豆以外では、綿実油かすからは、虫歯予防に効果があるキシリトール、米ぬかからは制ガン効果があるとされるイノシトールが抽出され、食品・医薬の両面で役立っています。このほか、なたねかすに含まれるたんぱくの利用可能性など、これからも“かす”の効率的利用の研究開発が進むことが期待されています。一方、原料から取り出された原油は精製されてサラダ油などの商品になりますが、その過程でも多くの副産物が生まれます。代表的なもののひとつは「レシチン」。優れた天然乳化剤である大豆レシチンは広い用途があります。マーガリン、アイスクリーム、菓子などの品質改良剤として利用され、また、油に添加して油撥ねを抑える効果もあります。更にその成分を分離して動脈硬化症の予防薬・治療薬としても使われます。
植物油に多く含まれる「ビタミンE(別名トコフェロール)」は、油の精製工程で一部が取り除かれますが、これも重要な副産物。天然ビタミンEとして健康食品や化粧品の原料となったり、天然の酸化防止剤として加工食品の製造に利用されています。
さて、植物油生産工程で発生する副産物利用の一例を食用の用途を中心にご紹介しましたが、食用以外にも石けん、繊維、化粧品、印刷インキなど驚くほどたくさんの物が、いわば植物油の“兄弟”として生まれています。そのすべてを書き出せばきりがありませんが、原料の大豆がどういう風に形を変えて生活のお役に立っているかというイメージをイラストにしてみました(図1)。大豆油生産がどれほど多くの製品と関わっているか、おわかりいただけるのではないでしょうか。
図1・大豆油加工製品およびその生産プロセスの副産物 |
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