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最後に、いくつかの国について、ちょっと変わった植物油の生産や消費の特徴をご紹介しながら、サッカーとの関連を探ってみましょう。
《ロシア共和国》
ひまわりの世界最大の産地が、極寒の地シベリアを含むロシアであることをご存じですか? 私たちは、“ひまわり”といえば燦々と降りそそぐ太陽の下で咲き誇る大輪の花を思い浮かべます。これは、大輪のひまわりと強烈な陽ざしの太陽を重ねて見る固定観念が形成されているためかもしれませんね。もっとも、植物油の原料になるひまわりは背がそれほど高くなく、花の大きさも中輪で、油分の多い品種に改良されており、ロシアだけではなくヨーロッパで広く栽培されています。
したがって、ロシアでは消費される植物油の70%以上がひまわり油となっています。1種類の油に消費が集中している点は、強豪国ブラジル(大豆油85%)、アルゼンチン(ひまわり油75%)と同じですが、一人当たりの植物油消費量は12
kgと少なく、サッカー強豪国の要件から外れます。しかし、広大な大地に広がるひまわりのように、グラウンドを広く使って、大輪を咲かせる可能性を秘めていると言えるのではないでしょうか。
《アルゼンチン共和国》
ひまわりの世界第2位の生産国はアルゼンチンです。この国の植物油消費はとても変わっています。それは、世界第3位の大豆油の生産国で、その生産量はひまわり油の約2倍に達しているにもかかわらず、国内で消費される植物油の75%はひまわり油という奇妙な状況が見られることです。
アルゼンチンは大豆生産国としては後発国に属しますが、広い国土を利用してこの10年ほどの間に急速に大豆の生産を拡大し、いまでは世界第3位の生産を誇るようになりました。しかし、国内の植物油消費は大豆が増加する以前に形成されていますので、ひまわり油を主体にしたパターンとなっているのです。このため、大豆と大豆油はもっぱら輸出に回り、国内ではほとんど消費されていません。大河ラプラタ川の河口には世界最大規模の製油工場が建設され、世界中へ大豆油と大豆ミールを販売しています。マラドーナは大輪のひまわりそのものを象徴するヒーローでしたが、彼に次ぐ大豆時代のスーパースターはもっぱら海外に流出しているということになるのでしょうか。
ロシアとは異なり、アルゼンチンには四季があり夏期が長い傾向にあります。明るい太陽の下に地平の果てまでと思われるほどにひまわり畑が広がっている風景は一見の価値があります。
このほか、ひまわり油消費の多い国は、フランス、スペイン、イタリアなどです。ひまわり油はサッカー強豪国のなかで大きい地位を占めていることがわかります。
《アメリカ合衆国》
植物油の生産大国といえば、何をさしおいてもアメリカでしょう。世界最大の大豆生産、世界最大の植物油生産を誇っています。あまりにも大きい大豆の存在の陰に隠れていますが、あらゆる種類の植物油が生産・消費され、さながら植物油のデパートのようです。
大豆油のようなスーパースター不在で、サッカー強豪国の名称を得るに至っていないアメリカですが、野球、陸上競技など多くのスポーツ部門で世界をリードしています。ロサンゼルス・オリンピックをきっかけに、それまでマイナーだったバレーボールで一気に世界の強豪になったことから見ても、案外近い将来にサッカー強豪国の仲間入りをするかもしれません。
《ベルギー》
表Bで、ベルギーの植物油消費量が異常に多いことにお気づきと思います。EUの心臓部に位置する国土面積3万平方キロ・メートル、人口1000万人(いずれも日本の10分の1以下)の小国で、原材料の生産もほとんどない国ですが、さまざまな原材料を多量に輸入し、植物油の生産、輸出入ともに大きいという特徴があります。しかし、その多くは化学工業へ利用されるほか、マーガリン、チョコレート、ベーカリー製品などに形を変えて世界へ輸出されているので、実際の国内消費量は近隣諸国と同じぐらいであると見られます。一見、大型に見せて警戒心を負わせ、その実、細かい巧妙なパスをつなぐ組織的な攻撃で相手を幻惑するサッカーというところでしょうか。
《イタリア共和国》
オリーブ油の代表は、なんと言ってもイタリアです。健康的な食生活として地中海料理が日本で注目を浴び、その源泉がオリーブ油であるということで、にわかにオリーブ油ブームが生じたことはよくご存じのことと思います。しかし、イタリアの植物油消費を子細に調べると、さまざまな植物油をまんべんなく利用していることがわかります。健康的な食生活の秘訣はオリーブ油だけではなく、実は多様な植物油をバランスよく利用しているところにあることが見えてきます。国内でふんだんに生産されるオリーブ油を軸に、外国から輸入されるさまざまな植物油が組み合わされているのです。
世界最高峰とされるセリエAに、イタリアはもとより、世界各国から優れた選手が集まっているのとよく似通っていますね。スーパースターが豪快に活躍する回りを、それに劣らない能力を持ったバイプレーヤーが繰り広げる華麗な組織プレー。そんなプレーを植物油消費に重ね合わせてみるのも愉しいものです。
《チュニジア共和国》
オリーブ油と言えば、スペインが最大の生産国で、イタリア、ギリシャまでは良く知られていますが、これらに次ぐオリーブ油生産国はどこでしょうと問いかけると、植物油の専門家でもとっさに国名が出てきません。
意外にもアフリカのサッカー強豪国チュニジアも世界指折りのオリーブ油生産国なのです。一人当たりの植物油消費量は30kg近く、サッカー強豪国の資格十分というところです。しかし、国内で消費される植物油で最も多いのは輸入される大豆油です。オリーブ油は、国内の消費も多いのですが、むしろ主要な輸出品となっています。しかし、輸出の多くはイタリアやスペインにいったん輸出され、そこから改めて世界に流通する間接輸出が主体になっています。サッカーで言えば、ゴール前セットプレーからの間接フリー・キックを起点とした攻撃が得意かもしれませんね。
《中華人民共和国》
さて、アジアの地域に目を向けてみましょう。アメリカと並ぶ植物油のデパートは、実は隣国の中国なのです。なたね、落花生の生産量は世界1位で、大豆、綿実なども有数の生産を誇っています。さらに、大豆やなたねを輸入して大量の植物油を生産しているため、“植物油生産大国はサッカー強豪国”となる第1の資格は十分に備えています。
膨大な人口を支えるため植物油の輸入量も多く、たとえば2000年に輸入されたなたね油は240万トンですが、これは日本の植物油総供給量に相当します。これだけの供給が行われても、一人当たり消費量は11kgと推計されています。サッカー強豪国となる第2の資格には程遠いということになるようです。でも、植物油の消費は急速に増加していますし、海岸の都市部では一人1年当たり消費量は日本とほぼ同じ水準に達しています。バランスのとれた植物油摂取で、総合力に優れたサッカー強豪国が誕生する日も遠くないでしょう。
《大韓民国》
アジアの中のサッカーでは、日本のライバルである韓国の植物油事情はどうなっているのでしょうか。日本と同様に原料生産に乏しい国のため、海外から大豆や大豆油を輸入し、国内消費を満たしています。ウルグアイラウンド農業交渉の結果、植物油の輸入関税を大幅に引き下げた影響から、アメリカなどからの大豆油輸入が急増し、いまでは輸入油が国内消費量の過半を占めるようになりました。
韓国の製油業界は、このような逆境に懸命に立ち向かっています。最後まで勝負をあきらめない粘り強いサッカープレーとよく似ています。残念ながら、生産・消費ともサッカー強豪国の要件は満たしていないのですが、植物油の消費には他の国には見られない特長があります。
韓国料理といえば、香り高いごま油が思い浮かびますね。韓国のごま油消費量は3万トン程度で中国、日本に次いで第3位にありますが、植物油消費量の3.8%を占め、中国、日本(それぞれ1.6%)を上回り、韓国の食生活にとって欠かせないものになっています。ごま油には、抗酸化作用による酸化安定性に優れ、体内活性効果のあるとされるリグナンが含まれています。絶体絶命の状況から起死回生のスーパープレーがしばしば生まれるのは、香り高いごま油パワーのおかげではないでしょうか。
《日 本》
さて、しんがりは日本。植物油の原料生産がコメ以外には皆無に等しい状況ですが、大量の原料輸入によって、植物油の大生産国の仲間入りをしています。大豆油生産世界第7位、なたね油生産同5位の実力はサッカー強豪国の資格十分というところですが、消費量がいま一歩というところです。日本の植物油消費の特徴は、何といってもさまざまな植物油を取り入れたバランスの良さにあります。大豆、なたね、パーム、オリーブ、コーン、ひまわり、べに花、ごまなどの植物油をまんべんなく消費し、植物油消費のデパートと称することができます。
この姿は、フランス、ブラジル、イタリアなど多くの国から指導者や選手を招き、さまざまなプレー・パターンを取り入れているサッカーそっくりといえるのではないでしょうか。一人当たりの消費量はいま一歩でも、脂肪酸バランスに優れた消費の仕方で優位に立っています。中でも、他の国では消費されることがまれなこめ油が多く利用されていることです(なたね油、大豆油、パーム油に次ぐ第4位の消費量になっています)。こめ油の特長は加熱安定性に優れていることです。熱くなったゲームにも冷静で安定した力を発揮するキーマンがいることは心強いことですが、こめ油がその条件を備えているのではないでしょうか。ただ、植物油の輸出・輸入が少なく、海外の荒波にもまれていないという弱みがありますが、製油業界も国際競争に備えて構造改革を進め、パワーアップに努めています。日本サッカーも海外との交流が頻繁になり、パワーが飛躍的に向上しましたが、製油業界もサッカーを見習って、国際的に通用する強豪国の資格を得たいと願っております。 |
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