日本人の食事摂取基準(2025年版)
-ビタミン不足と骨粗鬆症-
静岡県立総合病院・リサーチサポートセンター・臨床研究部長 田中 清
骨粗鬆症は「骨折リスクの増大した状態」と定義される。骨折していなくてもリスクが高まっていれば予防・治療の対象ということであり、骨粗鬆症は生活習慣病的に理解され、したがって栄養・運動による予防が重要な意味を持つ。
ビタミン欠乏 (deficiency)により、脚気(ビタミンB1)や壊血病(ビタミンC)などの欠乏症が起こるが、日本など先進国では欠乏症は、ほぼ克服されたとして健康増進におけるビタミンの意義が軽視されがちである。しかし、近年欠乏より軽度の不足 (insufficiency)であっても種々の疾患リスクとなることが注目されている。ビタミン不足者の割合は高く、不足回避に必要な摂取量は欠乏予防のための量よりはるかに大きい。
骨はコラーゲンの枠組みの上にリン酸カルシウムが沈着して(石灰化)形成される。腸管からのカルシウム・リンの吸収促進がビタミンD(以下VD)の最も基本的作用であり、VD欠乏により石灰化障害(くる病・骨軟化症)が起こる。不足の場合、石灰化障害は起こらないが、血中カルシウム濃度維持のため骨吸収が亢進し、骨折リスクが上昇する。最近、日本人の79%がVD欠乏、98%がVD不足と、日本人のほとんどが欠乏・不足であると報告されている。石灰化障害予防に必要なVDの摂取量は2.5μg/日だが、骨折予防には10~20μg/日が推奨されている。 VDは肝・腎での活性化により活性型VDとなり作用するが、腎での活性化は厳密に調節され安全性は高い。活性型VDは全身に作用するホルモンであり、VD不足はサルコペニア・感染症・がんなど多くの疾患リスクとなる。VD不足の是正により、骨折に限らず多くの疾患リスクが低下する。 骨折リスクは骨密度の他、骨質によっても規定され、ビタミンB12・葉酸・ビタミンB6不足による高ホモシステイン(Hcy)血症は、骨質低下から骨折リスクとなる。また非椎体骨折のほとんどは転倒によって起こり、転倒防止も重要な骨折予防である。VDは骨・筋肉両方への作用から骨折リスクを低下させる。日本人のほとんどはVD欠乏・不足であり、その是正による骨折・慢性疾患予防は社会的にも重要な意義を持つ。
転倒・骨折は、要介護の原因疾患の第3位である。日本人の食事摂取基準2025年版において、骨粗鬆症が初めて取り上げられたが、健康寿命の重要な短縮要因としての運動器疾患の重要性が注目されるようになったものと筆者は考えている。 本講演では骨粗鬆症とVD不足を中心に述べたが、他のビタミン不足もまた疾患リスクとなることが注目されている(ビタミンK不足による骨折リスク、高Hcy血症による動脈硬化・骨折・認知症リスク、ビタミンC不足による心血管疾患リスクなど)。ビタミン栄養状態の維持は、社会的にも大きな意義を持つ。
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