「2つの脂肪組織に対するビタミンE同族体の効果」
神奈川工科大学 健康医療科学部 管理栄養学科 教授
清瀬 千佳子
脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類が存在する。本研究では、ビタミンEの中のα-トコフェロール(α体)ならびにδ-トコフェロール(δ体)に白色脂肪細胞のベージュ化への誘導並びに抗炎症効果、また褐色脂肪細胞のUPC1増強効果があるかどうかについて検討を行った。その結果、マウス前駆脂肪細胞である3T3-L1の分化誘導時にα体を細胞に添加するとPPARγ,PGC-1α,UCP1の遺伝子発現がいずれも有意に上昇した(Fig.1)。その効果はα体よりもδ体の方がより強い事も明らかにしており、これはδ体がp38-MAPKのリン酸化を促進する事でPGC-1αの発現を誘導するためであると考察した1),2)。一方、δ体の摂取はマウス鼠径部褐色組織中のUPC1のタンパク質発現も有意に上昇させる事も明らかにしている事からδ体は白色脂肪細胞のベージュ化への誘導および褐色脂肪組織のUCP1の増強効果がある事を示唆した。続いて、脂肪細胞に対してα-およびδ体に抗炎症作用があるかどうか、炎症誘導した白色脂肪細胞を用いて検討した所、δ体に抗炎症作用がある事を明らかにした 3)。さらに、炎症誘導された褐色脂肪細胞で遺伝子発現が低下したUCP1をδ体が有意に回復する事も明らかにした4)。以上の結果より、δ-トコフェロールは抗肥満及び抗炎症作用を有する可能性を示唆した。
1) R. Tanaka-Yachi, C. Kiyose et.al. J.Oleo Sci, 66, 171-179, 2017
2) R. Tanaka-Yachi, C. Kiyose et. al. B.B.R.C.,506, 53-59, 2018
3) C. Kiyose et.al. J. Oleo Sci., 70, 1307-1315, 2021
4) R. Tanaka-Yachi, C. Kiyose et.al. J. Oleo Sci.,71, 1647-1653, 2022.
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