現在、新型コロナの影響もあり、免疫の働きが改めて注目されています。体の中の免疫細胞の半分以上は腸管に集まっていると言われており、腸管局所だけではなく、体全体の免疫機能に影響を与え、病原体に対する生体防御や免疫疾患の発症に関わっています。さらには糖尿病などの生活習慣病はこれまで免疫とは関わりのないと思われていた病気ですが、これらの疾患にも免疫が関与していることが分かってきています。これらのことから現在、免疫機能の個人差を含め、健康や疾患と腸管との関わりが注目されています。特に免疫を制御する因子としての食事成分や腸内細菌に着目した研究が進められています。
その中で私たちは油に着目した研究から、以下の知見を得ています。
- 1.スフィンゴミエリンなどを起点に代謝・産生される脂質代謝物であるスフィンゴシン1リン酸が、IgA抗体を産生する細胞の体内動態を制御することでワクチン効果に影響を与える。
- 2.スフィンゴシン1リン酸は、腸管上皮細胞層に存在する上皮細胞間Tリンパ球の遊走にも関わることで、腸管の最表面でのバリア機能において重要な働きをしている。
- 3.パーム油に多く含まれるパルミチン酸が体内でスフィンゴ脂質に変換され、腸管IgA抗体の産生を増強する。
- 4.ω6脂肪酸の一つであるアラキドン酸由来のロイコトリエンB4とその受容体であるBLT1を介した制御が、IgA抗体産生細胞の腸内細菌依存的な増殖を制御している。
- 5.ω3脂肪酸であるαリノレン酸を多く含む亜麻仁油の摂取により、体内の様々な部位で異なる脂質代謝物が産生され、異なる経路でアレルギーや炎症反応を抑制する。
- 6.ココナッツ油の摂取により体内で産生されるミード酸が、アレルギー性皮膚炎を抑制する。
さらに最近の研究から、免疫制御を行う脂質代謝物は、私たちの体内だけではなく腸内細菌や発酵食品に含まれている微生物によっても作られていることが分かってきました。これら腸内細菌を始めとする微生物によって産生される有用な代謝物は「ポストバイオティクス」という新しい概念として注目されています。私たちが最近行った研究から、例えば納豆菌などを含む枯草菌の一種にオメガ3脂肪酸を加えることで、抗アレルギー性脂質を産生できることを発見しています。
これらを考えると、同じものを食べても効果は人によって異なる原因の一つが、私たち自身や腸内細菌がもつ代謝の違いにあると考えられます。このような背景のもと、私たちは生体や腸内細菌が持つ代謝活性を指標にした個別化もしくは層別化の栄養指導システムの構築を目指した研究を行っているところです。これらの研究では、動物モデルを用いた基礎研究だけではなく、私たちが独自に日本各地に立ち上げたコホートから集めた情報やサンプルを用いて解析を進めており、現在までに4千名近くのデータを収集しています。
これらのデータをバイオインフォマティクスの技術を用いて解析し、推定される経路を動物モデルなどで検証するというリバーストランスレーショナル研究により、新たな腸内環境の機能を明らかにできると期待しています。
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