現在、キャノーラ油、大豆油、コーン油、紅花油、綿実油、オリーブ油、胡麻油、荏胡麻油、亜麻仁油、紫蘇油、ココナッツ油など様々な植物油が販売されている。また、ラードや魚油なども食用油として認知度が高い。これらの油の大きな違いとして脂肪酸組成の違いがあげられる。例えば、オリーブ油やキャノーラ油はオレイン酸、コーン油はリノール酸、荏胡麻油や亜麻仁油はα-リノレン酸、ココナッツ油は中鎖脂肪酸が主な構成脂肪酸であり、さらに、魚油にはDHAやEPAが含まれる。栄養学的には、油は三大栄養素の一つであり、ヒトにとってリノール酸、α-リノレン酸は必須脂肪酸である。これは、ヒトはオレイン酸をリノール酸に変換するΔ12不飽和化酵素とリノール酸をα-リノレン酸に変換するω3/Δ15不飽和化酵素を持たないためである。摂取したリノール酸はヒトの体内で代謝されてアラキドン酸となり、これらのω6脂肪酸は炎症作用や血液凝固作用などが報告されている。一方、α-リノレン酸はEPAやDHAへと変換され、これらのω3脂肪酸は抗炎症作用などが報告されている。
それでは吸収されなかった油はどうなるのか。今までは排出されるだけと考えられていたが、排出に向かう途中には腸内細菌が生息する大腸を通過する必要がある。我々は、不飽和脂肪酸が腸内細菌にとってどのように代謝されるかに注目し、腸内細菌における不飽和脂肪酸の代謝について解析を行った結果、様々な新規な代謝産物を見出した。例えばリノール酸は、複数の水酸化脂肪酸やオキソ脂肪酸、共役脂肪酸、部分飽和脂肪酸などに代謝される。これらの代謝産物は、ヒトの体内では産生されず、腸内細菌に依存して産生されていることも明らかにしている。そこで腸内細菌によって産生されるこれらの修飾脂肪酸を腸内細菌由来酵素を活用して生産し、さらに純度95%以上まで精製をおこなったものを用い、腸管バリア機能制御、脂肪酸合成・脂質代謝制御、免疫制御、炎症抑制、抗酸化などの観点から生理機能評価を試みたところ、様々な興味深い機能を見いだした。例えば、リノール酸由来の修飾脂肪酸である水酸化脂肪酸HYA(10-hydroxy-cis-12-18:1)に腸管上皮バリアの損傷を回復する機能を、オキソ脂肪酸KetoA(10-oxo-cis-12-18:1)に核内受容体の一種であるPPARγを介した脂質代謝制御の可能性を、KetoC(10-oxo-trans-11-18:1)に酸化ストレス応答転写因子であるNrf2を介した抗酸化能を見いだしている。これらの結果は、腸内細菌に依存して腸管内に生成する脂肪酸分子種が、宿主であるヒトの健康に何らかの影響を与えている可能性を示唆している。以上のことより、植物油が生理機能を有する修飾脂肪酸の原料ともなりうる可能性が示唆された。
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