植物油との出会いが生んだ世界の即席麺

1.“てんぷら”が大発明のヒントに
― 即席麺の知られざる誕生秘話 ―

 即席麺の誕生は、日清食品株式会社の創業者である故安藤百福氏のご労苦を抜いて語ることはできないでしょう。世界で最初の即席麺である「チキンラーメン」が世に出たのは昭和33年8月でした。

 世界でも画期的なこの商品は、お湯をかけるだけですぐに食べられる食品として爆発的な売れ行きを見せ、瞬く間に市場が広がっていきました。

*調理に要する時間について、「3分間待つのだぞ」というCMのよく知られた台詞がありましたが、発売当初に調理時間が示されていたかどうかは不明で、後の新製品発売時に1〜3分間という時間が記載され、1990年代に3分間(鍋で煮る場合は1分間)が定着したそうです(日本即席食品工業協会からの情報)。

 “即席食品の父”とも仰ぐべき安藤百福氏は先年ご逝去されましたが、関係の皆様のお許しを得て即席麺誕生の足跡をたどってみましょう。

 氏には、かねて想い描いておられた夢がありました。その夢こそ、まさに家庭でお湯さえあればすぐ食べられるラーメンの開発だったのです。その夢を実現するため、文字通り寝食を忘れて研究に没頭されました。そして、その夢のラーメン開発を支えた試行錯誤の場は、図1に示されている小さな小屋でした。

 理事長をお務めであった信用組合の倒産に直面し、経済的に困窮されていた氏は、昔なじみの大工さんに頼んで庭の片隅に雨露を凌ぐだけの小屋を建て、中古の製麺機や中華鍋等の機器・材料をなんとか調達して開発に没頭されたのです。

 世界に広がる即席麺が、このような小屋から誕生したことに、改めて新鮮な驚きを覚えますね。


【 図1 チキンラーメン誕生の場(再現) 】
−大阪府池田市「インスタントラーメン発明記念館」展示−
図1 チキンラーメン誕生の場(再現)
資料:日本即席食品工業協会提供

 安藤さんは、開発に当たって次の五つの目標を掲げておられました。

 ① おいしくて飽きがこない味。
 ② 家庭の台所に常備できる保存性。
 ③ 調理に手間が掛からない。
 ④ 値段を安く。
 ⑤ 安全で衛生的。

 この目標に向かって様々な試行錯誤が繰り返されますが、満足のいく製品はそう簡単に仕上がりません。いくつもの壁にぶつかりました。

 一つ目の壁は麺そのものに味をつける方法でした。小麦粉にスープを練り込むとボソボソに切れて麺の体をなさず、麺を蒸してからスープに漬けると粘りついて乾燥しにくくなるなどの失敗を重ね、最後に行き着いたのが、麺に如雨露(じょうろ)でスープをふりかけ、生乾きのところで揉みほぐす方法で、麺に均一に味を染み込ませることができたのです。

 二つ目の大きな壁は、乾燥方法でした。麺を長期保存するためには十分な乾燥が必要になりますが、自然乾燥では時間が掛かり、ムラも生じ、衛生面の問題がありました。

 発明のヒントは、身近に何気なくあるものです。台所で奥様が天ぷらを揚げているのを見た氏の脳裏には、天ぷらの原理を利用することが瞬間にひらめいたのです。味を染み込ませた麺を高温の油で揚げると麺に含まれる水分がはじき飛ばされ、麺は乾燥状態になり、しかも水分が抜けたあとに微細な空洞が形成されます。この麺にお湯を注ぐと、その空洞からお湯が吸収されてスープが溶け出し、麺はもとの柔らかさを取り戻します。そして、油によるうまみも加わります。難問氷解の瞬間でした。

 世界に誇る日本の発明は、天ぷらという日本の代表的な油料理が大きなヒントになり、その後の“3分間待つのだぞ!”の名セリフにつながったのです。油とのごく日常的なつきあいの中で、何気ない瞬間をも逃さない注意力が偉大な前進につながりました。

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