最近、植物油と健康について、メディアにも多く取り上げられるようになりました。その中には、科学的見地に立った適切なものもありますが、一部の専門家と称する人たちが、科学的に検証もされていない説をメディアに繰り返し流し続けてケースも散見されます。
ここでは、日本の民間放送のネットワーク全国FM放送協議会(JFN:JAPAN FM NETWORK ASSOCIATION)が「健康ラジオ~ワンポイント・アドバイス」として昨年放送した、司会の本郷朋子さんと日本植物油協会専務理事の齊藤との「植物油と健康」をテーマとした対談をJFNのご了解を得て、協会HP用に再編したものをご紹介します。
(本郷)お元気ですか?本郷朋子です。今回は「植物油と健康」をテーマに日本植物油協会 専務理事・齊藤昭さんにお話を伺います。
(本郷)最近、色々な種類の植物油が注目されていますが、まずは、「植物油の栄養」について教えて下さい。
(齊藤)植物油の栄養を考える上で、なにより重要なことは、油は命を支えるエネルギーの供給源だということです。日本は、いま世界一の長寿国とされています。織田信長の好んだ敦盛の一節に「人間五十年」とありますが、戦後間もない昭和22年でも平均寿命は52歳に止まっていました。以後、急速に伸びて、現在我が国の「平均寿命」は世界トップで女性は86歳です。この驚異的な伸びは、医療の進歩に加え栄養摂取の改善に伴うエネルギー量の拡大に支えられたものです。食生活では、特に食肉、乳製品類に加えて植物油の摂取量の増加が特徴的で、それまでの日本型食生活では摂取不足だった動物性たんぱく質と脂質の適正な摂取が実現されました。日本の「食」は、このバランス関係が最適であったと言えます。
(本郷) 植物油とエネルギーの関係をもう少し詳しく教えてください。
(齊藤)植物油は、そのまま栄養素としての脂質そのものでもあるという特徴を持つ食品です。したがって植物油の栄養価値は、そのまま植物性脂質の栄養価値という言葉に置き換えることができます。生命とエネルギーは表裏一体の関係にあります。
3大栄養素とされるたんぱく質、炭水化物及び脂質が重要なエネルギー供給源ですが、炭水化物の代表選手、ご飯のエネルギー量は、茶碗1杯で約250kcal。植物油なら大さじ2杯強でこれを摂ることができます。
(本郷)「油は太る」というイメージを持っている方が多いかと思いますが。
(齊藤)油といえば、カロリーということで、メタボ対策で、脂肪の摂取を減らす必要があると考える傾向があります。これに関しては、国内外で色々な実践や研究が積み重ねられています。最新の調査研究では、「脂肪を減らした食事のグループ」と「炭水化物を減らした食事のグループ」を比較した場合、後者の方が脂肪量、体重とも減少、循環器リスクも低下することが確認されています。脂肪ではなく炭水化物の摂り過ぎが肥満を招くことを不思議に思われる方もいるかもしれませんが、体は炭水化物を必要なエネルギーとして利用し、使われない残りが脂肪に変換されることが、メタボの有力な原因のひとつとなると考えられます。
(本郷)メタボ対策として植物油を減少させるべきではないということですね。
(齊藤)そうですね。ただ、一方で、炭水化物に含まれる糖類も脳の栄養供給など必須であり、メタボ対策として、極端な糖質制限ダイエットに走るのは、いかがなものかと考えます。なお、理解しておいていただきたいことは、植物油を代表とする油脂には、大きく3つの機能・役割があることです。一つは、命を支えるエネルギー源であること、二つ目は、体内におよそ60兆個もある細胞の構成要素であり、体そのものを作っていること、そして、最近とみに注目されているのが、生体の調整機能を有していることです。こうした機能・役割を持っている植物油を必要な量、十分摂取することは、命と健康維持にとって極めて重要であるということです。
(本郷)「健康を支える植物油のメリット」について教えて下さい。
(齊藤)まずは、健康のベースとなる、命そのものを維持するのに不可欠な「必須脂肪酸」があります。これは、生きていく限りどうしても食事から摂る必要がありますが、かつては日本で最も食されてきた大豆油などに比較的豊富に含まれるリノール酸などです。
(本郷)どのように摂ればいいのですか。
(齊藤)最近、必須脂肪酸であるリノール酸摂取を否定的にとらえ、サラダ油にはリノール酸がたくさん入っているとして、体に悪いなどと吹聴する方もおられます。こうした評価は主に実験動物による大量摂取観察などに基づくものです。旧来から繰り返される、こうした批判は、科学とは程遠いものです。このことは、例えば、塩で考えればいいのですが、塩は、体にとって必須ですが、多く摂りすぎると弊害になるのは当たり前です。リノール酸は、必須脂肪酸ですから、必ず摂取する必要があります。一方で、現実の日本人のリノール酸の摂取は、平均的に見れば大量摂取には程遠いレベルです。リノール酸の代謝物であるアラキドン酸を批判する向きもありますが、海馬を含む脳の大切な機能の多くに関わっており、最近では、認知機能を改善する効果が期待されるなど、人体機能の維持に重要な役割を果たしています。とはいえ、お塩がそうであるように、どんな効用があるものでも摂りすぎれば弊害となるのは当然であり、何ごともバランスが重要であることはいうまでもありません。
(本郷)では、「健康を支える植物油のメリット」について教えて下さい。特に最近、不飽和脂肪酸という言葉を良く耳にしますが。
(齊藤)飽和脂肪酸は、比較的、動物性脂肪に多く含まれていますが厚生労働省が5年に一度発表している最新のガイドライン、「日本人の食事摂取基準2015」は、動脈硬化性疾患の発症予防のために飽和脂肪酸の摂取量を制限する一方で不飽和脂肪酸の摂取量を同時に増加させることが重要なポイントとされています。
この意味からも、不飽和脂肪酸や必須脂肪酸を豊富に持つ植物油をバランスよく摂取することが重要です。
(本郷)不飽和脂肪酸にはどんな種類がありますか?
(齊藤)必須脂肪酸のリノール酸も不飽和脂肪酸の一種ですし、近年、消費量が増加しているオリーブ油や日本で一番食べられている菜種油などは、不飽和脂肪酸のオレイン酸が多く含まれています。また、最近、よく取り上げられブームとなっているものに不飽和脂肪の一種でω(オメガ)3と呼ばれる油があります。代表格としては、α-リノレン酸がありますが、これは一般的に最も多く消費されている菜種油、大豆油のほか、アマニ油やえごま油などにも含まれています。α-リノレン酸は体内でDHA・EPAなどに変換されます。
(本郷)「健康を支える植物油のメリット」について教えて下さい。
(齊藤)例えば、植物油で調理するとビタミンA、E、D、Kなどの成分は、油に溶けて体内に吸収されやすくなります。また、にんじんやピーマンなどの緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンも、植物油と一緒に摂ると吸収がよくなり、栄養効果もアップします。ビタミンEは抗酸化ビタミンの代表的なもので、血管を強め、血液循環をよくし、老化のスピードを抑え、細胞を酸化から守ってくれますが、日本人はビタミンEの約3割近くを植物油から摂っています。植物油で短時間に加熱調理することで、水溶性ビタミンであるビタミンCの損失が少なくなるといった効果も期待出来ます。
(本郷)その他の効果は?
(齊藤)さらに、植物油で調理することで食物繊維が豊富な野菜や海藻、きのこなどのカサが減り、なめらかに食べやすくなるので、多く摂取でき、便秘解消の有力のサポーターになります。また、植物油で調理することにより、薄味でも美味しく仕上げる力があるので減塩効果もありヘルシーな食事ができます。その他、短時間での調理で素材のうま味を閉じ込め、栄養素の損失も少なくなり、味わい豊かな食事ができるといったメリットもあります。
(本郷)植物油にはどんな種類があり、それぞれどんな特色を持っていますか。
(齊藤)日本で最も多く消費されている植物油は、「菜種油」です。「キャノーラ油」という名称で有名ですが、オリーブ油同様、オレイン酸が多いこと、飽和脂肪酸が植物油の中では少ないことが特徴で、オメガ3のα-リノレン酸も含まれています。
一方、戦後、最も消費されてきたのが、「大豆油」です。菜種油とは対照的で、リノール酸が約半分と豊富な油ですが、α-リノレン酸が含まれているのは菜種油と同様です。
次に日本人の食生活に欠かせないのが「ごま油」です。オレイン酸とリノール酸がほぼ同量含まれていて、また、リグナンという特有の成分が含まれ、強い抗酸化力を発揮しています。
次にお米を精米する際に出る米ぬかから作られる国産原料の油が「米油」です。γ(ガンマ)-オリザノールという、米特有の天然抗酸化成分などを有しています。
また、一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、世界で一番生産、消費されている油が、アブラヤシの果肉から取れる、「パーム油」です。パルミチン酸という飽和脂肪酸が多く、酸化に対する安定性が並はずれて高い等の特徴を有しています。パーム油は、こうした特色を生かしてインスタント麺、パン、菓子、マーガリン、チョコレートなど、極めて多くの食品群に使用されています。
ココナッツ油には、中鎖脂肪酸(ちゅうさしぼうさん)が多く含まれています。中鎖脂肪酸は食べた後、素早く分解され、エネルギーになりやすいため、脂肪として蓄積されにくく、腎臓病の食事療法や手術後のエネルギー補給、高齢者の低栄養状態の改善など様々な場面に使われています。
(本郷)今日は、色々なお話、ありがとうございました。もっと詳しいことをお知りに
なりたい方は日本植物油協会のホームページ(https://www.oil.or.jp/)をご覧ください。植物油を毎日の食生活に上手に取り入れたいですね!
以上、昨年、FMで放送された植物油に関する対談をHP用に概要整理してご紹介しました。限られた放送時間内での説明であり、意を尽くしていない部分もありますので、詳しくは、当協会ホームページの各種情報を参照して頂ければ幸いです。
近年、メディア等を通じて植物油に対する関心が高まっています。その中には、科学的見地に立った適切なものもありますが、センセーショナルで過激なものも散見されます。こうした発言は、耳目を引きますが、何らかの意図が隠されている場合が多いのも事実です。
植物油は、世界中で使用されており、国内外の多くの科学者が研究対象とし精緻な研究が進められております。極端に効能を強調したり、一方で、全面否定する説については、責任ある科学者によって科学的に検証・確認されているものなのかどうか、慎重に検討してみる必要があります。
私ども日本植物油協会各社は、品質管理等に最善の注意を払って商品をお届けしております。最近、オリーブオイルの品質等に関する報道がなされていますが、当協会の各社が販売しているオリーブオイルは、他の商品同様、品質管理を徹底しており、安心して利用して頂ければ幸いです。
今後とも、私ども日本植物油協会は、多くの専門家の先生方と共に日本栄養士会、栄養改善普及会等とも連携して、科学的見地に基づいた植物油に関する正確な情報の提供に努めて参ります。協会ホームページを始め、各地を巡回して各種講演会を実施する一方で、出版、報道等で、植物油に関するより正確な情報を提供して参る所存ですので、皆様のご理解を賜れば幸いです。