搾油業を廃業された後も、西川さんの先代は油の卸・小売の商売を続けてこられましたが、今は奥様とお二人で油の小売だけを営んでおられます。取扱商品の種類を限定されているため、お店の中で商品が並んでいるスペースは小さいものでした。
「お取り扱いの商品の種類を限定しているのは何故ですか?」
- 油屋は、油という商品と一緒に、使い方などの商品に関する知識も売っています。だから、数多く扱うことはできません。お客さんが生半可な知識だけで油をお買いになって、誤った使い方をされるのは、結局、油屋にとっても良いこととは思いません。「この油やったら、西川で買うてこい」と言ってもらう、信用とは、そんなところから生まれてくるんですな。
「対面販売だからできることですね。お客さんは、地元の顧客が多いのでしょうか?」
- 地元の方は、みんな近くのスーパーへ行かはりますな。うちのお客さんで京都の人は少なく、東京のお客さんが一番多いと思います。観光のついでにお立ち寄りになり、みやげに1本買うてくれはった人から、また買いたいという注文が来ます。一度うちの油を使うた人は、次も、次もと、うちの油を指定して買うてくれはります。最近は、インターネットでうちの店が紹介されているらしく、結構、お客様も増え、電話でのお問い合わせが来ます。ありがたいことどす。
「意外なお答えでした。京都の人は、自分の決めた店は変えない気質があるので、油の小売専門店が成立するのだと思っていました。」
- ほかの商品や他所のお店のことは分かりませんけど、うちはそんな状態ですな。欲を出さんかったら、油の小売専門でもやっていけます。西川の油は信用できると言ってもろたら、どこのお客さんもみんな同じです」。
「ボトルのラベルは、みんな西川油店となっていますが?」
― うちでは製造してませんさかい、特定のメーカーさんから斗缶を仕入れて、今も、手作業でボトルに詰めています。自信の商品はごま油で、お客さんから繰り返し注文があります。どこで作っていただいているかは、秘密にしといてください。
【 図8 少数の商品が並ぶ西川油店 】
西川さんのご商売の極意、少しは分かったような気になりました。
お店を訪問した際、最初に目に留まったのは屋根の上に取り付けられた屋号をデザインした小粋な外灯でした。「に・し・か・わ」の4文字で、大きい袋を背負った大黒様のシルエットがデザインされています。
【 図9 西川油店の店構えと外灯 】
この大黒様は京都の書家がデザインされたもので、達筆の西川夫人が台紙にお書きになり、友人の工芸家が無料で外灯を制作されたと伺いました。ご近所の方が油を買い求めに来なくとも、このようにして地域で支えられている西川油店。京都へお越しの際はお尋ねになり、ご自慢のごま油をおみやげにお求めになってはいかがでしょうか。
西川油店に関する情報 住所:京都市下京区油小路七条油小路町286 電話:075-343-0733
(付録)ドイツで見つけたあぶらやさん
ドイツのツェレという古い街で見つけた油専門店です。幾種ものオリーブオイルを取りそろえ(写真左)、お客様は好みのオリーブ油を、気に入ったガラスボトルに詰めて買うことができます。同じような店は、同じくドイツのリューネンブルクや、フランスのパリでも見かけました。西川油店は量り売りを止められましたが、ヨーロッパでは、まだ量り売りのお店が残っています。
【 図10 ツェレ(ドイツ)で見かけたあぶらやさん 】
(左) 幾種ものオリーブ油が蛇口つきの壺で陳列され、
(右) お客は、好みのオリーブ油とガラス瓶を選び、油を詰めて買い求めることができます。 |
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