アメリカ中西部に広がる広大な大地(Great Plain)は、小麦、大麦、大豆、トウモロコシなど穀物・油糧種子の大産地です。この大平原で生産される膨大な農産物が、世界の食料供給を支えてきたと言っても過言ではないでしょう。ブラジルやアルゼンチンなど新しい生産国が台頭するまで、アメリカ中西部の農産物生産が、世界の農産物需給を決定する要因でした。人々はこれを「世界の台所」と称しました。
西部開拓から始まった大平原の農業は、厳しい大自然との闘いでもありました。中でも、作物の生育に必要な水分を天水だけに頼らねばならないことから、高温・乾燥の天候が続くと干ばつの被害がしばしば発生しました。また大平原には風を遮る障害物がなく、農場の土壌が強風で失われる土壌流亡被害もしばしば発生しました。
ダスト・ボウル(Dust Bowl)という言葉があります。1930年代にアメリカの大平原でしばしば発生した災害です。日本の農業では、生産力を高めるため耕地を深く掘り、有機物を施肥することが推奨されますが、アメリカの大平原で耕地を深く掘ると、高温乾燥の時期には乾ききった土壌が強風で飛ばされ、砂嵐のような状態となって土壌が消失します。これがダスト・ボウルと称される現象です。これを避けるため、現在のアメリカ大平原の農法は、ノー・ティル(No tillage、不耕起栽培)が普及するようになりました。このノー・ティルは、土壌の流出と水分の消失を防止することに効果があり、持続性ある農業(Sustainability)を実行するうえでの基本作業となっています。
干ばつだけではなく、多すぎる降水量も問題となります。降水過多により土壌水分が高すぎる場合には、播種した種子が発芽しなかったり、発芽しても根腐れを生じて生育不良となり、病虫害も多発するという問題が発生します。春先にミシシッピー川が氾濫し、水害の情報が伝えられることも珍しくありません。
今年の春(4~5月)、大平原の土壌水分は申し分なく、トウモロコシ、大豆が順調に発芽し、この時点では豊作が伝えられ、シカゴ商品取引所の先物価格は安定した状態にありました。しかし6月以降、農業にとって有効な降雨がないうえ、史上でもまれな高温乾燥の日々が続きました。大豆の主産地である中南部を中心に干ばつの恐れが日増しに強まり、シカゴ商品取引所のトウモロコシと大豆の先物価格が上昇を始めました。
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