新たな段階を迎えた植物油の国際需給
2.旺盛な需要が継続する油糧種子と植物油の市場

(3)生産が抱える不安要素

 堅調な需要に対して、生産には不安が伝えられています。
 2010年のアメリカの大豆生産は史上最高レベルを記録することとなりましたが、堅調な需要を受け、期末在庫は4年続きで低水準となり、需給は逼迫した状態にあります。更に、次年度の作付けを巡り、作物間の熾烈な面積確保争い(Fight for acreages going to intensify in 2011: Mielke氏)が生じることが確実に見込まれています。アメリカでは、トウモロコシの需給が逼迫し、現穀物年度末の在庫率(年間消費量に対する在庫数量の比率)は過去15年間の最低水準になると予想されており、2011年には他の作物との間に激しい作付面積争いが生じると見込まれています。大豆に対し収益が相対的に有利になってきたことも、トウモロコシ作付けを牽引する要因となっています。そして、綿花の価格が異常に高騰し、小麦の価格も堅調に上昇していることから、これらの作物が互いに生産を増加させるための面積確保競争を繰り広げることが予想されます。

 アメリカ以上に生産に懸念がもたれているのが南米です。その原因は干ばつで、特にアルゼンチンでは8月に有効な降雨がなく、10月の降水量も平年の30%でした。このため、大豆の播種が大幅に遅れ、初期生育にも影響することから、生産に対する不安が生じています。油糧種子価格高騰の最も大きい要因は、南米産大豆に対する不安であると言っても過言でないかもしれません。Mielke氏は、2011年の南米全体の大豆生産量は前年より少なくとも6百万トン程度減少するのではないかとの予測を示されました。


【 表5 南米の大豆生産の推移 】

(単位:百万トン)
  2007
暦年
2008 2009 2010 2011
(予測)
ブラジル 58.73 60.02 57.17 68.69 66.50
アルゼンチン 48.30 46.20 31.50 54.70 52.00
パラグァイ 5.86 6.12 4.15 7.48 6.90
ボリビア 1.60 1.48 1.46 1.68 1.75
ウルグァイ 0.82 0.88 1.17 1.95 1.77
合  計 115.31 114.70 95.45 134.50 128.92
資料:表1に同じ
注 :2011年は、ISTA Mielke社による予測。
2010年11月10日、ブラジル食料供給公社は同国の2011年の大豆生産量を
6,769万トン~6,900万トン(前年対比1.5%減~0.5%増)の予測を発表。
アメリカ農務省は6,750万トンの予測。

 南米の干ばつはラ・ニーニャがもたらすとされていますが、2010年のラ・ニーニャ現象についてMistry氏は、「この業界における私の35年の経験の中で、エル・ニーニョからラ・ニーニャへの変化がこれほど急速に進んだのは、初めての体験である」と述べておられます。2009年末に発生したエル・ニーニョは2010年4月はじめまで続きましたが、4月半ばに一転して海水温度が一挙に低下し、ラ・ニーニャに変わるという異常な現象が生じました。これが、2010年に世界各国の異常気象をもたらす一つの要因となりましたが、特に、南米への影響が非常に大きいものとなりました。南米における天候の推移が、今後の国際市場を占う重要な要因となっています。

*ラ・ニーニャ(La Nina:ペルー沖を中心とする海域の海水温度が異常に低下する現象)
 エル・ニーニョ(El Nino:ラ・ニーニャとは逆に、海水温度が異常に上昇する現象)


(4)その他の市場攪乱要因

 基礎的需給が構造的に逼迫した状況にあることに加え、両氏は、国際価格を押し上げる要因として、投機資金の商品市場への流入、アメリカのドル安、各国中央銀行の通貨増発を挙げられました。石油価格が上昇していることも植物油脂の価格に影響を及ぼしています。
 これらに加え、農産物の生産コストの上昇が挙げられます。農産物の国際価格は、シカゴ商品取引所などの国際市場で、これまで述べてきた需給要因で決定されます。生産農家のコストが上昇していても、その分が反映されにくい仕組みとなっています。しかし、その状態が続けば、生産が継続できないという問題に直面します。過去の経験では、農産物の国際価格が高騰した後、価格が元の水準に戻ることは希であり、高止まりをする傾向にありました。その要因が、生産コストにあると言われており、生産農家はこのような繰り返しの中で、再生産を可能にしているものと考えられます。したがって、2008年の価格高騰を契機として、生産農家のコスト水準に見合った価格帯へ収斂しているのが現状であるという見方もできるようです。

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