我が国へのパーム油の輸入量は年々着実に増加し、平成20年には546千トンとなりました。
ところで、「パーム油って石鹸や洗剤の原料でしょう?」という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。かって石鹸や洗剤の原材料には主として動物性の飽和脂肪酸が利用されていましたが、パーム油、パーム核油の生産が拡大し、世界的に供給されるに伴い動物性脂肪酸に代わって石鹸や洗剤の原材料に広く用いられるようになりました。当初は、パーム油を輸入し、脂肪酸を分別して石鹸・洗剤の原材料に利用するのが一般的でしたが、製造コストや輸入の利便性などの面で、生産地(マレーシアなど)で脂肪酸を製造し、日本へ輸入することがより効率的であることから、脂肪酸やその他の加工品を輸入することが一般的になりました。したがって、現在、日本に輸入されているパーム油のほとんどは食用に利用されています。
また、特有の臭いや赤い色が食用利用を広げる上で障害になっていましたが、精製技術の向上により臭いと色がほとんどない精製油の生産が可能になり、むしろ、サクサク感のある独特の食感がフライ製品などで好まれるようにもなりました。
平成20年は、パーム油にとって記念する年になりました。パーム油の輸入量が大豆油の国内生産量を追い抜くことになりました(表2)。
【 表2 主要植物油の供給量(平成20年) 】
(単位:千トン)
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国内生産量 |
輸入量 |
総供給量 |
菜種油 |
950.5 |
22.1 |
972.6 |
大豆油 |
542.3 |
50.8 |
593.1 |
パーム油 |
0 |
546.4 |
546.6 |
資料:農林水産省「油糧生産実績調査」、財務省「通関統計」
日本国内で供給される植物油は、工業用も含めて約260万トンで、菜種油が最も多く、大豆油、パーム油がこれに次ぎ、これら3品で植物油総供給量の約80%を占めています。
この順位は長い間変わらなかったのですが、パーム油輸入の増加と大豆油生産の減退により、平成20年には総供給量(国内生産量+輸入量)の順位は変わりませんが、パーム油の輸入量が大豆油の国内生産量を上回ることとなりました。パーム核油を加えると、総供給量でも大豆油を超えることとなります。
パーム油の輸入量が増え続けているのは、次の理由によるものと推測しています。 価格の割安感:先にも述べましたように、パーム油の価格は大豆油の60~70%の水準にあり、この相対的低価格が 利用者にとって魅力があること。
用途の多様性:飽和、不飽和がほぼ1:1の脂肪酸構成であり、分別等の加工によって幅広い用途に利用可能なこと。 安 定 性 :不飽和脂肪酸もオレイン酸がほとんどで、他の植物油に比べて酸化、加熱への安定性が高く、 賞味期限の長い加工食品に適していること。
これらの一般的な事情に加え、特にマレーシアでは国家の重要産業と位置づけられ、輸出に当たっての税制の特例、政府機関と業界団体による積極的な輸出振興が実施されていることも、パーム油の需要を拡大することに寄与しています。
我が国のパーム油の利用用途拡大は、まだ発展途上にあります。特に、家庭向けの製品が少ないことから、多くの皆様がパーム油そのものをご存じないという状況にあります。新しく家庭用製品も登場してきましたので、皆様がパーム油にもっと親しまれる日がやってくるのではないでしょうか。
大豆油、菜種油、こめ油、ごま油などのおなじみの植物油、そしてパーム油と多種多様な植物油が利用できるのは、他の国には見られない日本の植物油市場の特徴です。これらの植物油を上手に組み合わせて、楽しい食生活を築いていただきたいと願っています。
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