カナダは、菜種の生産量こそ中国に次ぐ世界第2位の地位にありますが、国際貿易市場では最大の輸出余力を有する国です。カナダに次ぐ輸出国はオーストラリアですが、生産量も少なく、カナダとは大きく水をあけられています。世界の菜種貿易は、カナダに主導されているといっても過言ではありません。
カナダの菜種は1970年代に特筆するべき革新がありました。菜種油は、世界各地で古くより消費されてきた植物油ですが、エルシン酸(エルカ酸)という物質を含み、これが虚血性心疾患の原因になるとされていました(現在では、この説は必ずしも支持されていません)。
このため、カナダの育種研究者達はエルシン酸をほとんど含まない品種の改良に取り組みました。日本の製油業界も、これに助力をした経緯があります。1970年代はじめに、低エルシン酸の画期的な品種が開発されました。カナダは、この新品種は旧来の菜種(rapeseed)と全く異なるものであることを世界に示すため、名称をカノーラ(キャノーラ、canola)と命名しました。これを契機にカナダの菜種生産は拡大基調に転じます。
1970年代においてはカナダ国内の製油能力が十分ではなく、菜種の過半は輸出に振り向けられ、そのほとんどが日本向けという時期がありました(図1参照)。品種改良への助力と併せ、日本がカナダの菜種産業を牽引してきたと言っても過言ではなかったのです。カナダの菜種関係者は、“日本はすばらしい友人だ”と言いますが、単に大量の菜種を輸入するという実益面だけではなく、このような歴史を踏まえた言葉であることをご理解いただけると思います。
しかし、生産の着実な増加に伴い、日本の位置づけにも変化が生じてきます。
天候不良などによる変動はありますが、1970年に160万トンであった生産量は、1984年に300万トンを超え、1993年には500万トン、2005年には960万トンと段階的に増加し、本年は1000万トンを超えると予測されています。これに伴って、カナダ国内の製油業界は菜種の圧搾能力の拡大を進め、日本の需要を凌駕する数量を圧搾するようになり、また、世界各国への菜種供給国としての地位が強化され、瞬間的には中国が日本に迫る輸出相手国になることもありました。
【 図1 カナダの菜種生産量と輸出量の推移 】
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