アメリカニューヨーク市のトランス酸規制について
トランス酸フリーが意味するもの

 これらは、提起された規制の内容と背景を知る上で極めて重要な情報です。

 まず、トランス酸ゼロ・グラムという概念ですが、現実にトランス酸を全く含まない油脂は存在しません。したがって、トランス酸フリーを標榜する食品は、(4)に示したように通常の植物油を使用した商品であることが明確になります。つまり、一部で伝えられるトランス酸を全く含んでいない油への切り替えは、通常の植物油脂用への転換が進んでいることを示しています。

 この事実からすれば、日本のレストランや加工食品に利用されている植物油は、ほぼ全量が“トランス酸フリー”であることになります。

 また、規制の対象が人工的トランス酸(水素添加工程において発生するもの)に限定していることから、天然由来のトランス酸にはリスクがないという誤認がありますが、天然由来のものまでを規制すると、肉類や乳脂肪類(バター)をも規制しなければなりません。

 例えば、農務省の資料によれば、アメリカ人1人1年当たりの牛肉の消費量は約43kg程度(日本は9kg程度)と推測されますが、これを規制すれば、アメリカの畜産業に多大な影響を及ぼし、大変な政治問題を惹起します。

 このような政治的配慮はトランス酸の表示を義務づけているデンマークにおいても見られます。同国の表示制度では肉類やバターなどには義務を課していませんが、同国が酪農王国であるという事情を考慮すればうなずけるのではないでしょうか。

PREVMENUNEXT